第6話 生還、そして軍事基地へ
あれから一体、どれくらい眠っていたのだろうか。
マティアスは目を覚ますと、屋敷の客室のベッドの上に寝かされていた。彼の上半身にはたくさんの包帯が巻かれている。
「やっと起きたか、おはよう」
声を掛けてきたのはハンニバルだった。
「ハンニバル、お前が私を助けてくれたのか?」
「お前をここまで運んだのは俺だが、治療してくれたのはここの貴族達だぜ。マティアス、生きてて本当によかった……!」
ハンニバルは思わずマティアスを強く抱きしめる。力を入れ過ぎたせいか、マティアスが痛みで声を上げた。
「痛っ! そんなに強く抱きしめるな! ハンニバルはもう回復したのか?」
「俺の体は生まれつき治りが早いのさ。お前はあれから丸一日近く寝てたから心配してたんだぜ」
そう言われてみると、部屋の外の景色は確かに朝だ。昨日屋敷を出て敵のアジトに向かったのが朝だったので、結構長い時間眠っていたことになる。
部屋のテーブルにはマティアスの分の朝食が置かれていた。他の皆はとっくに朝食を終えたのだろう。
マティアスが食事を終えてしばらくすると、部屋にエーリッヒが入ってきた。
「お兄さん達、おはよう! マティアスさんは元気になった?」
「あぁ、この通り回復したよ」
マティアスが笑顔で返事をすると、エーリッヒは泣きながらマティアスに抱きついてきた。
「僕、凄く心配していたんだよ。マティアスさんが死んじゃったらどうしようって……」
「そうか、心配してくれてありがとな。これから軍人として働く以上、あの程度の攻撃で死にかけていたのでは、私もまだまだ修行が必要だな」
「いや、むしろ普通の人間があの無数の弾丸を浴びて生きてる方が奇跡だぜ」
マティアスは人間離れした強さを持つハンニバルと共に戦ってきたせいか、"普通の人間"としての感覚が麻痺していた。
ハンニバルの場合は生まれ持った訳ありの肉体を持っているからこその強さだが、マティアスは生身の人間でありながら武装ロボの猛攻に耐えることが出来た。
そう考えると、マティアスも十分人間離れした強さを持っていると言える。
しかし、ハンニバルの相棒になったからには対等な立場にならなければいけないと彼は思っていた。
「僕、軍人を目指すことにしたんだ。そしていつかお兄さん達と一緒に働きたい!」
エーリッヒからの突然の告白が来た。裕福に暮らしている貴族の子供が軍人になりたいなんて、普通なら正気の沙汰とは思えないだろう。
しかし、マティアスとハンニバルはエーリッヒの意思をしっかり受け止めた。
「そのいつかを楽しみにしているよ。フフ……エーリッヒの今後の成長が楽しみだ」
「本気で軍人になる覚悟があるってんなら手厚く歓迎するぜ。それまでにいっぱい食って大きくなれよ!」
お話と旅立つ準備が済んだところで、3人は部屋を出て1階の廊下へ向かった。そこにはシュタイナー夫妻が待ち受けていた。
「おはよう。マティアス君は無事回復したようだね。息子のエーリッヒを助けてくれて本当にありがとう。君達には感謝してもしきれないよ」
「本当にありがとうございます。気が向いたらいつでもここにいらして下さい。その時は精一杯おもてなしを致しますので」
シュタイナー夫妻はマティアスとハンニバルにお礼を言った。その様子はまるで2人を家族として受け入れているようだ。
「こちらこそ色々世話になった。あなた達のおかげで私は人の心を取り戻すことが出来たよ。また遊びに行かせてもらおう」
「短い間だったが世話になったぜ。また旨い料理食わせてくれよな!」
マティアスとハンニバルも貴族達にお礼を言った。
「君達のバイクにガソリンを補充しておいたよ。それではお元気で」
「お兄さん達、また遊びに来てね!」
貴族達は2人を見送り、マティアスとハンニバルはバイクに2人乗りして屋敷を後にした。
ハンニバルは相変わらず荒い運転かつ猛スピードで駆け抜けている。
マティアスは先日の戦いで力がついたのか、振り落とされずに耐えるのも慣れてきた。
「お前、この間までは振り落とされそうになってたくせに、いつのまにか強くなったもんだな」
「先日戦った武装ロボに比べれば、この程度は朝飯前だ。ハンニバルと共に仕事をする以上、私はもっと強くならねばな」
しばらく走り続けていると森を抜け、ようやく目の前に巨大な軍事基地が見えてきた。
マティアスは未知の世界に内心ワクワクすると同時に、今まで一匹狼の傭兵に過ぎなかった自分が軍人としてやっていけるのかという緊張があった。
2人は軍事基地に到着し、入り口付近にバイクを止めた。門の中に入ると、門番の兵士が話しかけてきた。
「ハンニバル! やっと帰って来たのか! 何日も戻らなかったから心配していたんだぞ。……で、そこの金髪の男は誰だ?」
「よぉ、心配かけちまって悪かったな! こいつは荒野の無法地帯で拾ってきた、噂の凄腕の傭兵だ。軍の大きな戦力になるはずだぜ」
「私の名はマティアス・マッカーサーだ。ハンニバルに誘われてここで働くことになった。今後ともよろしく頼む」
ハンニバルが門番に事情を説明をした後、マティアスは自己紹介をした。
「そうか、ハンニバルの一押しなら実力は確かなようだな。さぁ、中に入ってくれ」
門番はマティアスを快く歓迎してくれた。2人は軍事基地の中へ入っていく。
建物の中は鋼鉄で覆われており、外部からの攻撃を一切寄せ付けないであろう頑丈な作りになっている。
「今日は基地の施設を覚えてもらったり、新しい装備に整えてもらうぜ。一緒に任務を受けて仕事するのは明日からだ。いいな?」
「あぁ、それで問題無い。ここの基地で扱っている装備品がどんなものか見物だな」
ハンニバルはマティアスに軍事基地の案内をした。まず最初に向かったのは装備品売り場だ。ここには軍の兵士達が扱う武器や防具が販売されている。
武器は短銃から重火器まで幅広く揃えられており、どれも最先端の技術で作られた装備品ばかりだ。マティアスは思わず心を奪われていた。
「マティアスならここの武器を使いこなせると思うぜ。欲しいものは全て俺がおごってやるから、好きなものを選べ」
「良いのか? なら遠慮なく好きなものを選ぶよ」
マティアスはお言葉に甘えて並べられている装備品を物色した。
ハンニバルのように巨大なバズーカを扱うスタイルにも憧れているが、今後2人で共闘するなら互いに欠点を補えるのが望ましいとマティアスは考えた。
その結果、マティアスは小回りとスピード重視の機関銃を選んだ。今まで使っていた機関銃よりも大きく、威力も期待できるだろう。
マティアスは大きめの機関銃と防弾仕様の戦闘服、軍用靴や装飾品を選び、ハンニバルがそれを全ておごってくれた。
「ありがとう。たくさん買ってしまったけど大丈夫か?」
「遠慮はいらねぇよ。お前が強くなってくれれば十分だ。次はお前の部屋に案内するから、買った荷物を部屋に置いていきな」
次に向かったのはマティアス用の部屋だ。上の階に上ると、ちょうどハンニバルの隣の部屋が空いていたので、そこを利用させてもらうことになった。
部屋の中に入ってみると、ベッド、冷蔵庫、トイレ、お風呂など、生活に必要なものは全て揃っている。
傭兵時代に宿を転々としていたマティアスは、やっと自分専用の部屋を提供してもらえて安心していた。
部屋に荷物を置いていくと、ハンニバルは次の場所を案内する。
「次は司令室に向かうぜ。俺は軍の司令官から特殊な任務を引き受けて仕事をしているんだ。新入りのお前には挨拶をきっちりしてもらうぜ」
2人は更に上の階に上り、司令室へ向かった。ハンニバルが扉にノックし、2人は司令室に入る。
司令室の中はとても広々としており、奥には制服と帽子を身に着けた男が席に座っていた。年齢は40代くらいで、司令官にしては若い印象を受ける。
「ウィリアム司令官、只今戻ったぜ。早速だが任務の報告だ。荒野の無法者と森の兵隊崩れの奴らを始末してきたぜ。それと、ここにいる男は荒野の無法地帯にいた傭兵で、明日から俺と一緒に働いてもらうことになったぜ」
ハンニバルが事の経緯を説明すると、ウィリアムと呼ばれた司令官は口を開いた。
「ハンニバル、よくやった。これでまた一歩、平和が訪れたな。傭兵を連れてくるのも、お前が面倒を見るなら好きにして良いぞ」
どうやらウィリアム司令官はハンニバルに対しては自由放任のようだ。それだけハンニバルのことを信頼しているということだろう。
マティアスもウィリアム司令官に丁寧に自己紹介をした。
「初めまして、司令官。私はマティアス・マッカーサーと申します。先日、ハンニバルと共に兵隊崩れを倒したところです」
「マティアス・マッカーサー。お前はなかなか素質があるようだな。是非、我が軍で働いてもらいたい。今後の活躍を期待しているぞ」
ウィリアム司令官はマティアスの素質を一目で見抜いていた。長年軍人をやってきた人間故の洞察力だろう。
2人はウィリアム司令官への挨拶を終えて司令室を出ると、残りの箇所を歩き回り、やがて夜がやってきた。
2人は明日に任務を一緒にこなすことを約束し、それぞれの部屋に戻って一夜を過ごした。
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