第55話 自治体連合
私がおかしいということに気付いたら、世間は正しくて、正常で、他の人が皆、私より優れているように思えてきた。
学びたい、いろんなことをもっと知りたい、そう思えてきた。
そして、そう思えたもう一つの要因は、一戸さんの目の前での死だろう。
今まで、死は自分とは別世界の抽象的な出来事で、私の生活とは無関係であり、頭では人はいずれ死ぬとは分かっていたけれど、自分にとってははるか先のことだと思っていた。
でも、目の前で一戸さんという少し仲良くしてもらっていた人の死に遭遇して、死は本人の意志とは関係なく突然襲ってくるものだという実感が湧いた。
私も、明日死ぬかもしれない。そう思うと、今日をもっと有意義に生きたいと思えた。
でも、どうすれば有意義に生きれるのか、それが分からなかった。
食料調達以外は、家でゴロゴロしていては、全く何の進歩もないので、バイトに行き続けた。ただ、一戸さんの奥さんには会いづらかったし、会わないように宿舎には近づかなかった。
そうこうするうちに、市内の停電が終わり、水道が復旧した。
32連隊は12旅団を配下に収めて、統合した。群馬、新潟、栃木は埼玉と連合を組み、中国軍に占領された政府に対して、合同で交渉することに合意した。あくまでも交渉のみであり、政府からの要請に武力行使で反対しないとしていた。
しかし、政府側の福島県の第6師団の戦車隊が栃木県内に進攻し、栃木知事から埼玉知事に救難要請が来た。
知事は、否応なしに応戦し、撃退。更に追撃を命令して、32連隊と12旅団の合同部隊は第6師団本部の東根駐屯地を占領してしまった。
群馬・新潟・栃木の12旅団のときもそうであったが、政府側の旅団・師団は、もともと中国軍からの命令で、現場の納得のないままに作戦を立て実行するので、士気が低かった。むしろ降伏すれば、中国軍からの命令を聞かずに済むので、ほぼ寝返りの形で32連隊の味方に付いた。
埼玉知事は、福島・宮城・山形の知事に、合同で政府と交渉することを提案し、3知事とも合意し、事実上降伏した。
埼玉知事は、東日本の大部分をまとめ上げ、そのエリアの名称を自治体連合とした。
32連隊も、12旅団と第6師団を吸収し、膨らんだ組織を変えるとともに、名称を自治体連合軍と自称した。
自治体連合軍が来ると、治安が回復し、停電が治り、水道も再開するので、どこでも歓迎された。
ただ、大都市での部隊の展開は、人手が圧倒的に足りなかった。
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