11-13
【前回のあらすじ】
住民の裏切りにより、窮地に陥ったと思われたニコラスたち27番地だったが、事態は急展開を迎える。
なんと今回の裏切り発生は、店長ら一部住民により意図的に引き起こされたものだったのだ。
被害もなく、連れ攫われたと思われた子供たちも無事。絵本を盗まれるという想定外を除いて、すべては27番地から不穏分子を一掃するために画策されたものだった。
それを聞いてニコラスは安堵する一方、自分の不甲斐なさゆえに店長たちの手を汚させてしまったと後悔する。
しかし、住民クロードの一喝により気を持ち直し、改めて事態終結にむけ動き出す。
一方その頃、裏切った住民の一人のデニスは、敵に捕らえられ――。
【登場人物】
●ニコラス・ウェッブ:主人公
●クロード:27番地住民、商業組合長
●デニス:27番地住民、裏切者
●ケータ:27番地住民、元特区警察巡査部長
●モリガン:トゥアハデ”銘あり”の一人
●オヴェド:アーサー・フォレスターの個人秘書、トゥアハデ”銘あり”と同等の立場を持つ
【用語紹介】
●合衆国安全保障局(USSA)
12年前の同時多発テロ発生直後に急遽設立された大統領直属の情報機関で、年々発言力を増している。現長官はアーサー・フォレスター。
●失われたリスト
イラク戦争中、国連主導で行われた『石油食料交換プログラム』を隠れ蓑に世界各国の大物たち(国連のトップ、現職の大臣、資本家、宗教関係者など)がこぞって汚職を行った『バグダッドスキャンダル』に関与した人物らの名が記されたブラックリスト。
このリストを公表するだけで、世界各国代表の首がすげ変わるほど破壊力を持った代物。『双頭の雄鹿』の資金源と目される。
現時点、証拠はすべて抹消され、証人もハウンドとシンジ・ムラカミだけとなっている。
●絵本
ニコラスがハウンドから譲り受けた手書きの絵本。人間に連れ去られた黒い子狼が、5頭の犬たちの力を借りながら故郷を目指す物語が描かれている。作者はラルフ・コールマン。
炙り出しで謎の文がページの各所に仕込まれており、それらを解き明かすと『証人はブラックドッグ』、『リーダーはアーサー・フォレスター』となる。
●《トゥアハデ》
『双頭の雄鹿』の実働部隊。世界各国の特殊部隊から引き抜いた兵士で構成されており、長のフォレスターが自ら選んだ幹部“銘あり”が数人存在する。
現時点で確認されている“銘あり”は『キッホル』、『クロム・クルアハ』、『ヌアザ』、『モリガン』、『ディラン』、『スェウ』、オヴェドの七名。
現時点(11節冒頭)で『キッホル』、『クロム・クルアハ』、『ヌアザ』の三名は死亡。
またなぜかオヴェドは名を与えられていない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――俺は裏切者じゃない。裏切ってなんかない。
デニスは心の中でそう繰り返した。
拘束され、仲間たちと共に部屋に閉じ込められていた。
窓もなく、ここまでの移動も頭に袋を被せられ、トラックの荷台に詰め込まれて来たので、ここがどこだか分からない。
だが少なくとも、ここが特区外ではないのは分かった。
もし本当に、奴らが言葉通り解放してくれるなら、この手の拘束は解かれ、回収された携帯電話の類も返されているはずだ。
今から数時間前のことである。
デニスたちは27番地国境付近で、敵に囲まれていた。
――話が違う。子供たち先に逃がして、俺たちも街から脱出して、そのままおさらばするって話だったのに……なんで敵に囲まれてるんだ?
敵、トゥアハデ兵を一瞥する。
どいつもこいつもマネキンのような無表情で、デニスは思わず身震いした。なんだ、あの目は。まるで処刑人を見つめる執行人ではないか。
いや、そもそも。なぜこちらの脱出計画が、敵だけでなく味方にも漏れているのか。
――前からも後ろからも撃たれて死にかけたぞ。タイソンの野郎……。
デニスは今回の脱出計画のリーダー、恐らく今ごろニコラスたちから裏切者の首謀者と思われているであろう男に、内心舌打ちした。
タイソンからは「この先、全滅するまで続くこの戦争から、女子供を逃がす」と聞いていた。
「考えてもみろ。あのニコラス・ウェッブが、俺たち棄民のために戦うわけねえだろ。奴は親友の遺体すら囮にしたとんだド畜生だぜ? 奴が欲しいのはハウンドだけだ。ハウンドのためなら、奴は俺たちをどれだけ犠牲にしようが構わねぇんだよ」
タイソンからそう聞かされた時、デニスはこれ以上ないほど納得した。
なぜならデニスは、ミチピシ領でニコラスの残酷な一面を目の当たりにしていたからだ。
ミチピシでの連続爆破事件の際、後方支援担当に抜擢されたデニスは、ニコラスたちの行動を陰からずっと見ていた。
頭では理解している。連続爆破事件の真相が、ただネットでバズりたかっただけの子供の悪ふざけという、ふざけた理由であったこと。追いつめたと思ったら、喚き散らすわ自爆しようとするわで、どうしようもない状態だったこと。
苛立つのも、腹が立つのも、手段は限られていたのも分からなくはない。
だがまだ14の子供に、あんな仕打ちをするなんて。
――いくら爆弾抱えてるからって、腕へし折った挙句、川に溺死寸前まで沈めるかよ、普通。交渉するとか、他にも方法あっただろ。イカれてるとしか思えねぇ。
以来、デニスはニコラスに対し、密かに警戒心を抱いていた。
日頃は口下手で大人しい常識人を装ってはいるが、所詮は戦場帰り。あいつは頭のねじが数本飛んでいる。どこか狂っている。
いつ爆発するとも分からぬ、危険な男だ。
だからこそハウンドはニコラスを一番に気にかけていたのだろうが、デニスはそれも気に食わなかった。
確かにニコラスも優秀だが、なぜ彼だけ優遇されるのか。ハウンドをずっと支えてきたという点においては、自分たち輸送班とて同じはずだ。
ミチピシの時だってそうだった。ハウンドがこれまで自身の依頼を他者に任せることなど一切なかった。
なぜニコラスだけ、ハウンドの信頼を一身に受けているのか。
そもそもこれまでずっと助手を雇ってこなかったハウンドが、ニコラスが来た途端コロッと方針を変えて彼を抜擢したこと自体が怪しい。絶対に贔屓している。
とりわけ自分とニコラスの境遇が比較的近かったことも、不満に拍車をかけた。
新参者の自分よりさらに新参者で、自分より年下で。
自分だってコミュニケーションはあまり得意でないのを、頑張って努力して何とかやっているのに。
あいつは、ニコラスは、何もせずともハウンドや店長やクロードにサポートしてもらえる。
この差はなんだ? なぜ何もしていないのに、ニコラスは助けてもらえる?
元は優秀な兵士だったというのが、そんなに偉いのか? ただの人殺しのろくでなしじゃないか。
そう思っていたのは、デニスだけではなかった。タイソンも他の輸送班の面々も、統治者(ハウンド)のニコラスへの優遇ぶりに、鬱憤をため込んでいた。
極めつけは、捕らえられたハウンドの拷問動画が送り付けられた際の、ニコラスの反応だ。
あいつは何もするなと言ったのだ。彼女にあれだけ贔屓されてきたというのに――!
あの瞬間、デニスはニコラスが信用ならない男だと断定した。
あいつは我が身可愛さで恩人も見捨てる卑怯者だ。
あんな男の指示に従って戦うなど冗談ではない。付き合ってられるか。
そういう想いがあったからこそ、デニスはタイソンの脱出計画に乗ったのである。このままニコラスに従っていても、いいように使われ、すり潰されるだけだと。
なのに、なぜだ。
なぜ自分たちの脱出先に、敵が待ち構えているのか。そのうえ攻撃もせず、ただ自分たちを取り囲んでいるのか。
なぜタイソンは、トゥアハデ兵の隊長とああして話し合っている?
これでは、まるで――。
「デニス、来い」
困惑していると、タイソンが自分を呼びつけた。
行くかどうか迷ったが、トゥアハデ兵数人が自分の背後に立ったのを見て、デニスは渋々タイソンのもとへ向かった。
「ガキどもはどうした?」
向かうなり開口一番にそう言われ、デニスは眉をひそめた。
「どうしたって……ケータに預けたよ。あんたのもとへ連れていくっていうから」
「はあ!? なにしてんだ、この間抜けッ!」
「っ、いきなりなんだよ。ていうか、仕方ないだろ。ケータの手下どもが疑ってきたんだ。それに、あいつも仲間じゃないのか?」
地下水道でケータ率いる遊撃隊とかち会った時、デニスは上手く切り抜けようとしたが、ケータの手下のミチピシ当主の孫娘と暴走族リーダーの黒人が突っかかってきた。
誘拐犯を追いつめるがごとく詰め寄ってきたので、さすがに焦っていたところ、ケータが割って入ってくれたのだ。
「あいつ、『タイソンから話は聞いてる。ここは任せてくれ』って……」
そう言うと、タイソンは顔を覆って俯いた。訳が分からず立ち尽くしていると、傍らにいたトゥアハデ兵の隊長が冷ややかに告げた。
「つまり君たちは、最低限の対価も用意できなかったというわけだ。なら君たちは用済みだな」
そう言うなり、兵士たちが一斉に銃口を向けた。
「ちょっ、なにすんだよ!?」
「ブラックドッグは裏切者に容赦しない。だが子供についてはその限りではない。大人の君たちを連れていったところで意味がない。よって、ここで処分させていただく」
「っ、一体なんの話してんだよ? 対価? 連れていく? 意味分かんねえ……!」
「……まだ分かんねえのか、この大間抜け」
タイソンがゆらりと顔を上げた。見開かれた目は、今にも血管が破裂しそうなほど血走っていた。
「ガキどもはこいつらへの献上品だったんだよ。見逃してもらうためのな。それなのに、みすみす逃しやがって……」
「なっ、子供たちは真っ先に逃がすって――」
「んなの大義名分に決まってんだろッ! 馬鹿正直に解釈してんじゃねえよ! おかげで計画がパーだ! 全部テメエのせいだ!」
唾ごと罵声を浴びせられて、デニスは頭が真っ白になった。
そんな。それじゃあ俺たちは、俺がした行為は――。
失望と混乱の最中、安全装置の外れるカチカチという音が鳴り響いた。武装は囲まれた時点で奪われ、こちらはみな丸腰だ。為す術がない。
デニスはようやく状況を理解した。このままでは、殺される。
「ま、待ってくれ! 対価って言ったよな? じゃあ、これじゃ駄目か?」
懐からあるものを差し出すと、無だった隊長の表情が一変した。
ニコラスのガンケースから奪ってきた、例の絵本だ。
五人の兵士だの、証拠品だの、詳しいことはよく分からない。けれどこの絵本が敵を追いつめられる代物なのは知っていた。
にもかかわらず、ニコラスがネットにもマスコミにも公開せず、後生大事に抱え込んでいるのが意味が分からなかった。
一応本人からの説明は受けたが、ニコラスのことだ。何やら小難しいことを言っていたが、きっと自分の手柄のために抱え込んでいるに違いない。
だから持ち出して、あいつの代わりに公開してやろうと思ったのだ。
隊長は一瞬の硬直ののち、兵士たちに「待て」と叫んだ。そして、こちらの手から絵本を無言で奪い取ると、中身を見分し始めた。
デニスは固唾をのんで見守るしかなかった。向けられた銃口がいつ火を噴くか、気が気でなかった。
隊長は無線でしばらく誰かと話すと、振り返ってこちらを見た。薄ら寒くなるほどの笑顔だった。
「デニスと言ったか? よくやった。約束通り、お前たちを見逃してやろう」
デニスはその場にへたり込んだ。助かった。その時は、そう思った。
「特区の外まで案内してやる。ついてこい」
そう言って、隊長はトラックの荷台に自分たちを詰め込んだ。それが真意かは分からないが、断る術はなかった。
そして現に至る。
ここにきて、あの隊長が約束を果たしてくれたと信じるほど、さすがに能天気ではない。自分はきっとまた騙されたのだ。
隣に座るタイソンにここはどこなのか尋ねても、蒼い顔で震えるばかり。ここはどこなのだろうか。今度は、何をされるのだろうか。
その時だった。
突如、部屋のドアが開き、トゥアハデ兵数人が無言で入ってくる。同時に鎖の重いジャラジャラした音と、何かを引きずるような音が聞こえた。
「っ!?」
デニスは凍り付いた。
トゥアハデ兵に引きずられてきたもの。痩せ細り、ほどけた髪は脂ぎっていてぼさぼさで、唯一まとっているワイシャツも薄汚れていて、一瞬誰だか分らなかった。
だが間違いない。そこにいたのは、デニスたちが敬愛した統治者、ハウンドだった。
首、手首、足首、の鉄枷下の皮膚は、今すぐ枷を外さなければと思うほど裂け爛れて見るに堪えない。
ずっと抵抗していたためか、はたまた拷問に耐えかねて暴れたのか。
今はぐったりとしていてピクリともせず、本当に呼吸をしているのか目を凝らしたほどだった。
背が微かに上下しているのを確認し、デニスはほっと息をついた。が、すぐに湧いた疑問に全身を強張らせる。
こいつらは、なぜ彼女を俺たちの前に連れてきた?
「で、どうするの? 殺し合いでもさせる?」
「いいえ。やらせたところで効果は薄いでしょうから、手身近に済ませます。ゴミ同然でも有効活用しなければ」
トゥアハデ兵の奥に立っていた、息をのむほどの美女と、泣き黒子の男がそう言った。
それを聞いたトゥアハデ兵はすぐ動いた。
まずハウンドを鎖で強制的に膝立ちさせる。デニスはそこで初めて、ハウンドに意識があることに気づいた。
氷塊を喉奥に捻じ込まれたような気分になった。
目は開いているのに、熱や光を一切感じない。人形のような無の瞳で自分たちをじっと見つめている。
デニスは思わず自分の膝に目を逸らした。彼女の視線が脳天を突き抜け、自分の心臓の中身まで見透かしているような気がした。
そんな状態の彼女の前に、兵士たちはタイソンを引っ立てた。
跪かせた彼のもとに、先ほどの女が歩み寄り、
「言い残すことがあればどうぞ?」
とだけ言った。
タイソンは最初呆然とし、女とハウンドとを何度か見比べた。そしてハウンドへ目を戻し、自分と同じく俯いてから何やらまくしたて始めた。
「や、やあ、ハウンド。これはだな……」
まくしたてた内容は27番地を裏切ったことへの言い訳だった。やれニコラスが信用できないだの、子供たちを犠牲にしようとしたのは仕方のないことだっただの。
第三者目線で聞く他人の言い訳が、ここまで聞くに堪えないものとは思わなかった。
自分も同類であることは考えないようにしながら、デニスはそう思った。
しかしタイソンの弁明は、長くは続かなかった。
女がおもむろに彼の右足を撃ち抜いたのだ。
タイソンは悲鳴を上げ、床を転げまわった。
両手を後ろ手に縛られているせいで止血もできず、今度はハウンドへの謝罪をひたすら繰り返し始めた。
女はそれを無表情に見下ろし、次に左足を撃った。
タイソンは再び絶叫を上げ、必死の形相でハウンドに許しを請うた。
だがハウンドの表情は変わらない。ただただ無表情に、じっとタイソンを見つめていた。
タイソンはそれが恐ろしくなったのだろう。ハウンドに許されないと理解するや否や、今度は女に許しを請い始めた。
知っている限りの27番地の情報をまくしたて、床に額をこすりつけ泣きながら命乞いをする。
女はにっこりと、タイソンに微笑みかけた。
「そう。許してほしいのね。じゃあ、あなたたちがこないだの和平交渉の合間にコソコソ復旧させてた地下水道の入口を教えてちょうだい」
「あ、ああ、ああ! L5ブロックの北東にある、ホテル地下駐車場の従業員入り口が――」
「そこはダミーだったわ」
そう言って女はタイソンの頭部を撃ち抜いた。
マネキンのように変な体勢で崩れ落ちる仲間の姿に、デニスは声も出なかった。
「ほんとつまらない女ね。眉一つ動かさないなんて」
女はハウンドを振り返ってそう吐き捨て、事切れたタイソンを蹴りどかした。
「リーダーがこの体たらくじゃ、他は期待できそうもないわね。次」
そうして仲間が一人、また一人と連行され、ハウンドの前に引っ立てられていった。
みんなタイソンと同じく最初は言い訳をし、ハウンドに許しを請い、許されないと分かると敵に命乞いを始めた。
面白いぐらい同じ言動をとり、みんな最後は殺されていった。
デニスはそれを夢の中の出来事を見るように、ぼうっとただ見ていた。あまりに残酷で惨たらしい現実を突きつけられ、無意識に現実逃避をしていたのかもしれない。
次々に殺される住民を、ハウンドはただ見ていた。相変わらずの無表情のまま、泣き喚きながら殺されていく住民を淡々と見つめていた。
それを見たデニスは「よく平気な顔をしていられるな」と思った。直後、自分がとんでもない恥知らずだと気づいて消えたくなった。
結局のところ、自分のハウンドへの敬愛は彼女からの見返りを求めてのものだったのだ。ここにいる仲間たちも。許されないと分かるや否や、敵に命乞いを始めたのがその証拠だ。
見返りがなければ、許してもらえないなら、慕う理由もない。たった今、仲間たちの言動と、自分の思考がそれを証明してしまった。
自分たちは正真正銘、本当の裏切者になってしまったのだ。
そうこうしているうちに、とうとう自分の番がきた。
「さあ、最後は彼ね。ねえ知ってる? 彼が子供たちを連れてこようとした張本人なのよ。それだけじゃないわ。これが見えるかしら?」
女の手には、例の絵本があった。それをハウンドの鼻先に突き付けると、彼女の目が初めて動いた。
「この男はそれを盗み出してきたのよ。あなたが愛してやまない男から、薬まで盛って。いい部下を持ったじゃない」
デニスはただ震えるしかなかった。
改めて自分の所業――悪行を突きつけられて、どうすればいいか分からず、ただ蹲っていた。
カチ、と音がした。
え、と思って顔を上げると、燃え盛る絵本が落ちてきた。
ツンと鼻をつく臭いで、あらかじめガソリンか何かをかけていたのだと気づいた。
開かれた絵本のすべてのページが、炎を上げながら黒く、黒く染まっていく。
燃えて炭になった絵本を、女が踏みにじった。砕けた燃えカスが散り散りに舞い上がる。
「あーあ。燃えちゃった。可哀そうに。育ての親も殺されて、上官も殺されて。その上官が命懸けで遺した絵本もなくなった。これで
炭化した絵本はバラバラに砕け、床にのびる煤となった。もはや拾い集めることも叶わなくなった。
「さあ、お馬鹿な裏切者さん? あなたは何を言い残すのかしら?」
デニスは黒い塵になってしまった絵本から、のろのろと顔を上げ、ハウンドを見た。
相変わらず、彼女は無表情だった。その瞳には、何も映っていなかった。
デニスは堪らず俯いた。その俯いた先で、ふと何かが動いた。
床に、血が滴っていた。
その先を辿ってみれば、ハウンドの白く握られた拳があった。その拳の、握られた指の隙間から血は滴っていた。
ああ。
デニスはすべてを後悔した。
なにが「平気な顔をしていられるな」だ。
平気なんかじゃなかった。ずっと耐えていた。
きっとハウンドは、この女たちを喜ばせまいと、必死に平静を装っていたのだ。
もしハウンドが「喋りすぎるな、敵の思う壺だぞ」と言えば、住民は黙ったかもしれない。だがそうなれば、敵はハウンドの目の前で自分たちを弄ぶ方向へ切り替えただろう。
これまでの敵の言動と、女の振る舞い。ハウンドが裏切った住民ですらまだ気に掛けていると知れば、間違いなく敵は利用したことだろう。
だからこそ、ハウンドは何も言わなかった。言えなかった。
それがかえって自分たちの口を軽くさせていると分かっていても、一切の反応ができなかった。
それに気づきもせず、ただ許してほしいという身勝手な一心で、べらべら情報も喋り続けた自分たちは、なんて馬鹿だったのだろう。
「ハウンド」
デニスは口を開いた。顔はあげられなかった。
「…………ごめんなさい」
それが、ようやく絞り出した言葉だった。
自分は許されないことをしたのだと、デニスはようやく自覚した。だからただ首を垂れるしかなかった。
発砲音がして、足に灼熱が奔った。一度や二度ではない。何度も、何度も。
乾いた破裂音がするたび、自分の身体に穴が開いていると思うと怖くて仕方なかった。
激痛で顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、耐えようとしても撃たれるたび馬鹿みたいに悲鳴が飛び出てきた。
それでも「ごめんなさい」以外の言葉は発しなかった。命乞いだけはすまいと思った。
「せっかくのトリだっていうのに、とんだ興ざめね。つまらない男」
女が白けたように呟いた。
ああ、殺される。
デニスがギュッと目を瞑った、その時。
「待ちなさい、モリガン」
女を制止した者がいた。見ると、あの泣き黒子の男が耳の無線機器に手を当てていた。
「監視チームから報告が上がりました。27番地から緑の信号弾が上がっているそうです」
兵士たちがざわついた。
デニスは思わず目を見開いて、男を見た。
緑の信号弾。
打ち上げられた数によって意味合いは多少異なるが、27番地においては自身の健在を示す時や、救援に向かう際の合図として用いる。
そして、相手側から打ち上げられたということは――。
泣き黒子の男は自分の顔を見るなり、目をすがめた。
「その顔、知っていますね? 打ち上げられた信号弾の色は緑、数は
ハウンドの頭が微かに動き、鎖が小さな音を立てた。
デニスは絶望した。
ああ、やはり。
***
「信号弾、発射完了。敵に動きなし!」
「了解。各方面の作業の進行状況は?」
「ターチィの方はもう完了して撤収し始めてる。ロバーチの方はあと一時間ってとこだな」
「順調だな」
「おぅよ。ロバーチの連中が珍しく大盤振る舞いしてくれたからな。ブービートラップも仕掛けてなかったし、ここまで親切だと逆に怖いぜ……」
クロードからの報告に頷き、ニコラスは視線のはるか先にそびえる塔を睨んだ。
零番地、セントラルタワー。偵察班のドローン追跡により、裏切者たちはあの塔に連行されたことは判明している。
理由など一つしかない。
デニスたちはもう助からない。必ず、ハウンドに傷を与える形で殺されるだろう。
ならば。
――ハウンドはかつて、その武力と統治の厳格さで住民を畏怖させた。俺の場合は、卑劣な手段と冷酷さで忌み嫌われるんだろうな。
ニコラスは塔から目を逸らし、膝上のノートパソコンに目を戻した。陸上型潜入ドローンの監視映像越しに、敵の動向を注視する。
さあ、奴らはどう出てくる?
***
「救援に向かう合図? この期に及んで?」
泣き黒子男が訝しげに顔をしかめた。
兵士の乱暴な止血に悲鳴を上げながら、デニスは必死に頷いた。
「ああ、そうだ。それだけじゃない。打ち上げる向きによって、どのルートから向かうかこっちに知らせるんだ」
「……信号弾の上がった方角は北東、ロバーチ領の方角ですね」
「あらやだ。まさかオヴェド、信じるの? 27番地がこいつらを助けにくるって?」
女が呆れたように腕を組んだ。こちらの言い分を信じる気は微塵もなさそうだ。
一方、泣き黒子の男は慎重だった。
「ニコラス・ウェッブは矛盾した男です。親友の遺体を囮にしたかと思えば、見知らぬ少女を助けたりする。こういう判断もあり得なくはないです。
それに、ロバーチ領方面というのが気になります。あそこの当主は五大の中でも特に叛骨精神が強い。27番地とも同盟関係にありました」
「ならロバーチの連中を行かせればいいじゃない。いざとなれば、まとめて始末できるわ」
「いいえ。ロバーチを動かすのは危険です。奴らはなにをしでかすか分からない。多少状況が不利でも、武力で押し通そうとしてきます。そうなればこちらの損害が馬鹿にならない。当主もろともこのタワーに拘束しておくのが無難でしょう」
「脳筋な男ってほんとやぁね」
「ええ。あれなら同じ土俵の情報戦でやりあってくるヴァレーリ一家の方がまだ可愛げがあります。――その男をこちらに。救援部隊の進行ルート予測の判断材料にします」
泣き黒子の男の発言を聞いて、デニスは内心安堵した。
どうやらこちらの言い分を信じてくれたらしい。
――ハウンドが反応したからだろうな。
信号弾の報告があった時、ハウンドはほんの僅か身じろぎした。
たったあれだけの情報で、賢い彼女は27番地からの、あのニコラス・ウェッブからのメッセージを正確に理解したのだ。
緑の信号弾で、打ち上げた方角によって救援に向かうルートを先方に伝える。
それは嘘じゃない。まぎれもない真実だ。
ただしそれは、信号弾が
緑の信号弾が三発――意味は『我ら健在、救援不要』。
その場に留まって戦う際の決意を味方に伝える、決死のメッセージである。
本来ならば救援が必要な側である、こちらが打つべきメッセージだ。
それを敢えて自ら打ち、こちら側に伝えてきた。馬鹿な自分でもさすがに分かる。
ニコラス・ウェッブはここで死ねと言っているのだ。
「どうせ死ぬなら、
いいだろう。そこまで言うなら死んでやる。どうせもう許されないなら、敵を振り回すだけ振り回して死んでやろう。
何も為せず、ただただ死んでいったタイソンたちのようにはなりたくない。
デニスは出血による貧血でふらつく頭を叱咤しながら、兵士が鼻先に突き付けてきた地図を指さした。
「直通じゃないが、ロバーチ付近に通じてる地下水道なら、いくつか知ってる。場所はこことそこで、ここからだとこの道を通れば――」
デニスは知っている限り“本当の情報”を交えながら、嘘を重ねた。
タイソンの最期を見る限り、ニコラス・ウェッブは復旧させた地下水道の正確な位置を自分たちに教えなかったのだ。
復旧作業に当たり、自分たちはあの男が書いた地図を頼りに作業を行っていた。恐らく住民が万が一裏切って情報を暴露しても大丈夫なように、本来の位置ではなく別の位置として記してあったのだろう。
つくづく抜け目のない男だ。
だからデニスは、既存の
ロバーチ領への直通路が復旧したことにより、こちらの入口は不要とされ、数日前に放棄されていたのだ。
しかし
そうでなくとも
案の定だった。兵士たちは最初こそ胡乱げな顔つきで、構えた銃を下ろしもせず指先で引金の横を叩いていたが、デニスが話すにつれ目の色が変わっていった。
伝えた入口が、偽ではなく本物であると気づいたのである。
そこから先のルートは適当にでっちあげた。これでも輸送班一部隊の隊長を務めていたのだ。特区の道はすべて頭に入っている。
それっぽいルートを適当に繋げて話してやれば、連中はあっさり信じてくれた。
「あと、もし信号弾があるならあげてくれ。白くて光るやつ。……白星弾? ああ、よく分かんないけど、たぶんそれ。一発でいい。こっちの位置を知らせるためのものだ。それを上げれば救援部隊は必ずそこへやってくる」
デニスがそう言うと、隊長らしき兵士があの女と話し始めた。あの女も引っかかってくれるかは賭けだったが……。
「いいわ。その信号弾を上げるのはあなたに任せてあげる。せいぜい、かつての味方を炙りだす生餌になってちょうだいな」
賭けは、デニスが勝った。
――殺されることに変わりはないけどな……。
きっともう自分は助からない。
この足だ。こいつらが自分を治療してくれるとも思えない。それに少し時間が経てば、さすがのこいつらも救援部隊がやってこないと気づくだろう。
だったら最後の最後まで足掻いて死んでやる。敵に一矢報いてから死んでやる。
それが裏切った自分にできる唯一の償いだ。ハウンドの大事な物を奪ってしまった馬鹿な自分の贖罪だ。
ハウンドは相変わらず動かない。何も喋らない。
けれどもう俯いてはいなかった。あの深緑の瞳で、じっとこちらを見据えていた。
こちらの一挙手一投足すべてを見定めるように。罪人を見極める裁定者のように。
デニスはぶるりと身震いした。
それを、統治者に睨まれ罪悪感から震える裏切者、と勘違いしたのだろう。女はデニスだけでなく、ハウンドも連れていくことにしたらしい。
最初にハウンドが連行され、続いてデニスが兵士に担がれて部屋を出た。
荷物よろしく担がれて連れていかれた先は、20階にあるフレンチレストランの屋外テラスだった。
デニスは数時間ぶりにみた太陽光を腕で遮った。そして自分が今いる場所に驚いた。
――零番地のセントラルタワーじゃないか。
いつも遠くから見るだけだったので、こうして来るのは初めてだったが、このテラスからなら27番地が一望できた。
ハウンドもまた太陽が眩しそうだった。自分以上に太陽を浴びていないのだろう。何度も瞬きしては、髪を巻き上げる風に煩わしげに目を細めていた。
兵士が自分をウッドデッキに降ろした。
悪意のある乱暴さではなかったが、両脚を撃たれまくった自分にはちょっとの衝撃でも飛び上がるほど痛かった。
降ろされた個所から広がっていく血をみて、「いつまでもつかな」と思った。
そうこうしていると、あの泣き黒子の男がやってきた。
「ロバーチ一家からも確認が取れました。彼の言ったルートで間違いないようです。こちらの合図で信号弾を上げさせます」
男がそう言うと、女は面白げに両眉を吊り上げ、傍らの兵士に信号拳銃を持ってこさせた。それをデニスに、自ら手渡してきた。
「はい、お望み通り白星弾を用意したわ。よかったわね」
その発言に引っかかるものを感じながらも、デニスは信号拳銃を受け取った。
両足を投げ出し、自らの血にへたり込んだ無様な姿のまま、デニスは空を見上げた。次いで、27番地を見た。
――あの男は、この信号弾を見たらなにを思うんだろうか。
白く光る信号弾は、味方に自らの位置を知らせるもの。
そして場合によっては、敵を引き付ける囮が打ち上げる、死に臨む者の覚悟の光となる。
これを見た時、ニコラス・ウェッブはどんな反応をするのだろう。
ざまあみろ? 自業自得? それとも、一応最後まで抗ったんだなと、少しは思ってくれるんだろうか。
振り返って、ハウンドを見る。またも兵士に鎖で無理やり膝立ちさせられた彼女は、変わらずこちらをじっと見つめていた。
なにを考えているか分からない怖い目だ。しかし、自分を許す目ではないことぐらい分かっていた。
けど――。
――ハウンドが見届けてくれるなら、まあ悪くないか。
そう思ってデニスは空に向き直り、信号拳銃を構え、引金を引いた。
パンと、乾いた音がした。
「――え?」
音が鳴ったのは信号拳銃ではなかった。自分はまだ、打ち上げてもいない。
困惑しながらも信号拳銃を構え直すが、力が入らない。
ごふ、と咳き込んだ拍子に引金を引いてしまった。
中途半端に信号弾が打ち上がる。角度が取れなかったせいで、弾は空ではなく、地上へ真っ逆さまに落ちていった。
背後で哄笑が響いた。振り返ると、あの女が拳銃を手に嗤っていた。
そこでようやく気付いた。
この女が、自分を後ろから撃ったのだと。
「あらあら、残念ねぇ。せっかくの贖罪の機会だったのに、最後の最後で台無し」
「なん、で」
「あなたみたいな底辺男の考えることなんてお見通しなのよ。私たちが本気であなたの言い分を信じたとでも?」
「先ほどロバーチ一家幹部から押収した、27番地との共同訓練のデータから確認が取れました。緑の信号弾三発は『救援不要』を伝えるもの。
味方に棄てられてなお尽くすその健気な惨めさにはつくづく感服しますよ。いいや、先に棄てたのはあなたがたの方でしたか。さすがは棄民ですね。棄てるのも棄てられるのも手慣れている」
女に続いて、泣き黒子の男が冷ややかにそう言った。
デニスは床に倒れこんだ。もう全身に力が入らなかった。
ああ、こいつら。自分が必死に足掻いている様をわざと見逃して遊んでたんだ。
最後の最後で全部無駄になるって知ってて、面白がってたんだ。
視界が滲み、狭まっていく。涙のせいだろうか、出血のせいだろうか。
いいや、もうどちらでもいい。これなら、あの男と女の嘲笑は見ずにすむ。
――これが俺の人生か。
棄てられて、運よく拾われて、その拾ってくれた恩人を裏切って、また棄てられて。最後の最後で挽回のチャンスがあると思ったら、全部まやかしで。
なんと愚かで虚しい、あっけない最期だろう。
分かっている。これが報いなのだ。自分の犯した罪が、巡り巡って自分に返ってきただけ。
分かっている。分かっているのに――なんでこんなに哀しいんだ?
「デニス」
誰かが呼んでいる。誰だろうか。もう目が見えない。
こんな惨めで馬鹿な俺を、いったい誰が――。
「よく戦った」
それを聞くなり、デニスはすべてを理解した。
この凛と響く頼もしい声、聞き間違えようもない。
――ハウンド……俺は……。
デニスは声に応えようとした。けれど結局それは叶わず、そのまま力尽きた。
***
墜ちていく白星を、ロバーチ一家幹部セルゲイ・ナズドラチェンコは、ただただ無感動に見送った。
あの黒子男に愛用のPCを荒らされデータを奪われただけでも業腹だった彼は、今しがた見た光景にさらに不機嫌になっていた。
「あいつ、なんでこっち側じゃないんすかね?」
それは、誰への問いかけでもない、独り言であった。
日頃の彼を知る者からすれば、耳を疑うほどの感傷的な発言だった。
けれど、ルスランからすれば不思議なことでもない。
この男は、かつての友を
「罪悪感を捨てきれないからだろう」
ルスランがそう返すと、セルゲイは「ケッ」と舌を出した。
当主に対して不遜極まる態度だが、ルスランは今回に限り特別に許してやることにした。
***
「…………信号弾の発射を確認。白星弾が一発」
「ああ。見えてる」
ニコラスは双眼鏡を覗き込みながら、クロードにそう答えた。
これだけは、モニター越しではなく直接見ないといけないと思ったのだ。
遥か彼方、セントラルタワーの足元に落ちた白い光が消えていく。
白星は地に堕ちた。誰に見上げられることもなく。
「……お前さんとお嬢は、ずっと正反対だと思ってたんだけどよぉ。やっぱお前さんら、似てるわ」
そんな顔するなよ。
クロードにそう言われても、ニコラスは振り返れなかった。
追悼する資格は自分にない。自分はデニスたちを利用した。
時間稼ぎのため、ハウンドに「裏切者は切り捨て、被害は最小限に食い止めた」と伝え安心させるため。
裏切者とはいえ、デニスたちに死ねと命じたのは自分だ。まさか返答が返ってくるなど、思ってもいなかった。
だから憐れむな、哀しむな、悼むな。
そんなことは、自分には許されない。卑劣で冷酷な統治者らしく、無情に見届けてやればいい。
「ロバーチ領の作業も完了した。デニスたちは役目を完遂した。戻るぞ。やることは山積みだ」
そう言って、ニコラスは監視塔から引き上げた。
ロバーチ領に一番近い、地下東部の前哨基地に戻ると、空気が重かった。
デニスの最期は、監視班を通じて全員に伝わっていたらしかった。皆、一様に沈痛な面持ちで黙り込んでいる。
いっそ、ざまあみろと鼻で笑えるような最期だったらよかったのだろう。
けれど、デニスは最後まで足掻いた。そして抵抗虚しく無意味に死んだ。
それがことさら堪えた。
「おい、なんだそのしみったれた面は! 裏切った野郎でも最後に根性見せて死んだんだぞ。ほら、動いた動いた!」
クロードが発破をかけるが、皆の動きは鈍い。
こういう時、なにか一言かけてやれればいいのだが、生憎自分にその技量はない。
作業の遅れを踏まえて計画を立て直すか。そう、頭を掻いた時だった。
ターチィ方面を任せていたはずのケータが、血相を変えて飛び込んできた。
「ニコラス、ニコラスッ! た、たいへ、大変だっ! 今ターチィ領が物凄いことになっちゃってもうっ、どうしたらいい!?」
よほど大慌てで走ってきたのだろう。息切れしてるわ、報告は要領を得ないわで、何が何やらさっぱりである。
けれどお蔭(?)で漂っていた重苦しい空気は吹き飛んだ。
「落ち着け、ケータ。何があったか、ゆっくり話せ。ほら深呼吸」
「あ、ああ。…………ごめん。えっとな、今しがたターチィでの作業を終えて、通信班の皆と一緒に無事帰還したんだ。その直後に、ターチィ領方面から襲撃があって」
「後をつけられたのか?」
「と思うだろ? けどそうじゃなくてさ。迎撃に出たら敵の方が襲撃を受けてて、その敵を襲撃した奴とついさっき合流したんだけど……」
ケータが説明した、その時だった。
「随分としけた面だな、ウェッブ。まさかもうへばったのか? 海兵の名が泣くぞ」
その声に、ニコラスはぎくりと背を伸ばした。
背を伸ばさざるを得ないのである、この声を聞いては。なぜなら、そう躾けられたのだから。
振り返って、案の定。ニコラスはその人物に、口と目をあんぐり開けた。
「バートン教官……!?」
「久しいな、ウェッブ。加勢に来てやったぞ」
ニコラスの狙撃の師、オズワルド・バートン退役大尉が、不遜な笑みを浮かべ立っていた。
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次の投稿日は11月15日(金)です。
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