第62話 最後の課題

 レーガ、ロゼッタ、ロベルトの三人に手を借りることによって、練習はより一層良いものに変わった。

 サモンのやりたい内容を、三人は具体的にして、練習中の監督や補佐に徹してくれる。

 他の生徒たちが練習を終えたあとで、三人はサモンから個別に練習を頼んで付き合ってもらう。


 それを繰り返したことで、サモンは寝不足になったが、生徒たちの体力は向上し、チームワークも良くなった。

 最初はランニング五周で疲れ切っていた魔法学科が、剣術学科と同じ十五周走れるようになった。

 ストレッチも膝ばかり叩いていたが、今は足首を握れる。成長した生徒の中には、足の爪先を掴める程だ。

 剣術学科も障害物に強くなり、急な魔法攻撃にも、即座に対応できるようになった。


 最初の頃は目を離すと喧嘩していた両学科が、今となってはお互いの授業の話や使っている杖や剣の話をしている。


 サモンはレーガとロベルトの仲の良さしか知らなかった。だから、二人に「普通は学科別に部屋割りされているから、別学科と同室はあまり無い」と聞かされ、初めて本当に二分割にされていることを知った。

 お互いに親睦を深めたことで、和気あいあいとした練習が出来て良かった。



(喧嘩なんか繰り返されたら、面倒事が増えてたまったもんじゃない)



 ようやく終わる長期間の練習に、少し浮かれていた。

 これ以上面倒を見る必要も無いのだ。それ以上に嬉しいことは無い。


 明後日は本番だ。明日は全体の流れだけ確認して、最後の仕上げに入る。だが明日も練習なんて、サモンにそのつもりは無い。


 サモンは七色の卵をいくつも用意すると、懐中時計を開く。

 一人五分ずつ、それでちょうどいいか。費やす時間を計算し、サモンも腕を伸ばし、手首の運動をする。


 皆が話をしながらストレッチを済ませると、サモンの前に集まった。

 サモンは軽く咳払いをする。


「おほん。えぇー、今日まで皆、練習頑張ったね。明日はリハーサルだ。その後、練習する時間もある。けど、明日の練習時間は遊びとマッサージに使いたい。だから、今日で実質練習最後だ」


 サモンがそう言うと、生徒たちから「えー」なんて、残念そうな声が聞こえた。

 サモンは難しい課題を出していたつもりだが、練習内容がほとんど遊びな為に、生徒はあまり辛い思いをしていなかったのだ。


 サモンは杖を立てると、「今日は特に難しいよ」なんて不敵に笑う。


「今日の練習は、私からこの卵を奪うことさ。この卵の中には、疲れを癒す水が入ってる。明日の練習が終わったら飲めるように、制限を掛けた魔法をかけてあるから、間違っても今日飲もうとしないように」


 サモンは赤い卵を手に取って、目の前で見せる。

 それをカゴに戻すと、杖で肩を叩いた。


「一人五分。五分で私から卵を奪ってごらん。私は妖精魔法しか使わないよ。一年生には手加減しよう。二年は人によって加減の有無がある。三年には容赦しないから、そのつもりでかかっておいでなさい」


 サモンはイヤリングを外すと、自分の後ろと前に放り投げる。




「木の精霊──『不可侵の茨』」




 サモンが呼びかけると、イヤリングはパキパキと音を立てて大きな茨の壁を築く。

 生徒たちは後ろへと下がり、いきなり現れた壁に目を見開く。


「これは······!?」

「ロベルトは初めてね。一学期に、アガレット先生とストレンジ先生が授業に戦闘をしたことがあって、その時私たちを守るのに使ったわ」

「こんなの、こんなの魔法で済むのか!?」

「ストレンジ先生の魔法は、ちょっとおかしいストレンジなのよ」


 サモンは茨の壁の中で杖を回して待つ。



「さぁ、誰が先に名乗るんだい?」



 まだ誰も、サモンと戦う勇気はない。

 けれど、三年生の一人が茨に触れると、入口が出来た。

 その生徒が茨に入ると、入口が閉ざされる。


 生徒たちは茨の隙間から、中の様子をうかがった。

 サモンはニッコリ笑って杖を握り直す。



「さぁ、遊ぼう」



 妖精が悪巧みするような顔で言った。

 最後の課題が、今をもって始まる。

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