毎日虐げられて食事すら抜かれていますが、私はサキュバスなので平気です
真理亜
第1話
伯爵令嬢であるサリナの朝は早い。
まだ暗い内から起き出して、屋敷の1日に使う量の水を井戸から汲み上げる。重いバケツを持って何往復もする。
それが終わったら朝食の支度だ。まず屋敷の主人たる伯爵夫妻と義妹の分を作る。次に使用人達の賄いを作る。
朝食の支度が終わった頃には既に明るくなっている。その頃になると使用人達が起き出して来る。
テーブルセッティングを使用人に任せ、今度は溜まった洗濯物を洗い出す。洗濯が終わって洗い物を干し終わる頃に、ようやく伯爵夫妻と義妹が起きて来る。
サリナは急いで食堂に移動する。彼らの食事を給仕するためだ。
「なにをしてるこのグズ! さっさとメシの用意をせんか!」
ちょっとでも遅れると、このように父親であるアクダンから叱責が飛ぶ。
「申し訳ございません」
「全くこれだから...あなた、もっともっと厳しく躾ないと付け上がるだけですわよ?」
ため息と共にそんなことを言って来たのは、サリナの義母のワルキューである。
「お母様! お義姉様を躾るなら私にやらせて頂戴!」
嬉々としてそんなことを言って来たのは、サリナの義妹アクーニャである。
「ウフフッ、いいわよ。あなたに任せるわ」
「やったぁ~! なんにしようかなぁ~? 鞭打ちは飽きちゃったし、水責めもイマイチなのよねぇ~! やっぱり火責めにしようかなぁ~?」
まるで今日のオヤツはなんにしようかなぁ~? 的なノリで怖いことを言っている。サリナはそれを無表情で聞いている。
「アクーニャ、分かってると思うけど、傷を付けるなら服で隠せる位置にしないとダメよ?」
「任せてお母様! 上手くやるから!」
これがサリナの日常である。
◇◇◇
この世界には魔族と呼ばれる種族が居る。姿形は様々で角が生えてる者、翼が生えてる者、動物の姿をした者など多岐に渡る。
その昔、魔族と人間は覇権を巡って争っていた。だが今は不戦条約が結ばれ、和平の道を共に歩んでいる。
その一環として、魔族と人間の婚姻が推奨された。先代伯爵、つまりサリナの祖父にあたる人物は魔族にとても寛容で、自分の息子、つまりサリナの父親に魔族であるサリナの母親との婚姻を薦めた。
だがサリナの父親であるアクダンは、ガチガチの人間至上主義者だった。父親の意向に逆らえず泣く泣くサリナの母親を娶ったアクダンは、サリナが産まれた後は義務を果たしたとばかりにサリナの母親を省みず、愛人であるワルキューの元へ足繁く通った。
そしてサリナが10歳になった頃、先代伯爵が儚くなった。枷が外れたアクダンは、サリナとサリナの母親を離れに監禁し、ワルキューを屋敷に迎え入れた。
サリナとサリナの母親には満足に食事も与えず、使用人も遠ざけ居ない者として扱った。以来5年間、母親が病気で儚くなるまで、サリナは離れから出ることを許されなかった。
ようやく離れから屋敷に戻されたと思ったら、今度は使用人以下の奴隷のような扱いで、毎日朝から晩までコキ使われ、躾と称する折檻を毎日のように受けるという地獄のような日々が待っていた。
相変わらず食事は残飯程度しか与えられず、それすら抜かれることもしばしば。こんな状況なら普通なら倒れてしまってもおかしく無いのだが、サリナは平気だった。
なぜならサリナにはサキュバスの血が流れているからである。
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