第29話 1日目の総括

1943年6月18日 午後11時頃 トラック環礁


 トラック環礁を包んでいた砲雷音はトラック環礁現地時間午後11時40分には全て止んだ。トラック環礁2カ所で行われた夜間水上砲戦はそのいずれもが日本側の勝利で終わり、米海軍水上砲戦部隊は戦艦2隻沈没、2隻中破、巡洋艦3隻、駆逐艦6隻沈没の損害を受け、トラック環礁への艦砲射撃を断念して退散していった。


 一方、日本側も戦艦「日向」が沈没し「金剛」が戦闘・航行不能の損害(後に懸命の復旧作業によって航行機能回復)を被り、巡洋艦3隻、駆逐艦5隻が沈没するなどの多大なる損害を受けてしまったがトラック環礁への敵戦艦の艦砲射撃を阻止するという戦略目標を達成することには成功した。


 現在、海戦が行われた海面では航行停止し、沈没確実となった艦が照らす炎が10数カ所燦めいており、この海戦が凄まじいものであった事を示しているかのようだった。


 艦が1隻、また1隻と沈没して行くにつれて炎が徐々に消えていき、最後の1隻が沈没したときあたり一体が再び暗闇に包まれた。


「随分と派手にやられたものだな」


 栗田が第2艦隊参謀長の小柳富次少将に話しかけた。


「全くもって長官の言うとおりです。まだ戦闘能力を残している『大和』『武蔵』『長門』は良いとしても、被害の酷い『金剛』『榛名』は早急に離脱させましょう」


 敵新型戦艦2隻と夏島付近で撃ち合った第1部隊は「金剛」だけでは無く、「榛名」もかなりの損害を受けてしまっていた。


 現在、「榛名」の速力は15ノット程度しか出ておらず、主砲も4基中2基が潰れている。この状態で前線に居たら敵潜水艦の格好の標的となってしまうため、小柳は「榛名」の後送を進言したのだった。


「参謀長の言うとおりにしよう」


 栗田が小柳の進言を採用した。


「それにしても、『大和』『武蔵』の46センチ砲の破壊力は凄まじいものがあったな。『大和』も『武蔵』も敵新型戦艦を圧倒していた」


「航空主兵の時代が既に到来し、海戦の主役が戦艦から航空機に移ったと盛んに喧伝している連中もいるが、まだまだ海の王者は戦艦だな」


 栗田が感慨深そうに言った。


「私も『大和』が敵戦艦を圧倒している姿を間近で見ていて胸にくるものがありました」


「今回の大戦では航空機と戦艦のどちらか一方が主役という事では無く、どちらも主役の役割を張っていると私は考えていますが」


 小柳は栗田とは少し異なる考えを持っていた。


(今回の大戦では航空機と戦艦を有機的に組み合わせて上手く使用した方が戦場で勝利を手に入れる事が出来る)


 小柳は今回の海戦を経てこのような感想を抱いていた。


「小柳君。明日も海戦が続くと思うかね?」


 栗田が話の話題を切り替えた。


「米艦隊は今日行われた航空戦と水上砲戦によって大型艦だけに限定しても空母4隻、戦艦3隻(潜水艦部隊が1隻撃沈)を失っています」


「敵の残存戦力は空母4隻、戦艦4隻程度という事になりますが、これらの艦も大なり小なり損害を負っており、米艦隊の残存戦力は極めて少ないと予想されるため、米艦隊は夜の闇に紛れて撤退していくと思いますが・・・」


「だが、我が第2艦隊もかなりの損害を受けてしまったし、山口の第3艦隊もにたような状況だろう。あと敵の輸送船部隊はまだ無傷を保っている」


「長官の言うとおり敵の陸軍部隊はまだ無傷を保っていますが、制海権・制空権は日本側にあるためトラック環礁にその部隊を上陸させるという事はないと考えられます」


「では、我が艦隊の明日の仕事はほとんどないという事だな?」


「敵には護衛空母部隊も存在しているので、明日以降も航空戦が継続される可能性はあると考えられますが、戦力激減した敵戦艦部隊が再度挑みかかってくるという事はないと本官は考えています」


 栗田と小柳が今後の方針についての議論を交わしていると、通信参謀が息を切らせながら艦橋内に入ってきた。


「長官、参謀長。只今、敵部隊の偵察に成功した潜水艦からの報告が入りまして、その報告によると敵戦艦部隊が敵機動部隊から離れて戦線離脱を開始したようです」


「戦線離脱を開始したのは、敵部隊の中で戦艦部隊だけか?」


 小柳が通信参謀に質問した。


「潜水艦からの報告によると、撤退した部隊はその部隊のみです」


「わかった。下がって宜しい」


 通信参謀が艦橋を後にした。


「参謀長。 どうやら敵は明日以降もやる気のようだな」


「そのようですね」


「敵戦艦部隊が戦場を後にしたから第2艦隊も撤退すべきかね?」


「敵艦隊には新型戦艦の他に旧式戦艦が3~4隻いることが確認されています。そのことを考慮すると、第2艦隊は明日以降も健全な飛行場が存在している春島・夏島付近に展開すべきです」


「飛行場の規模を考えると春島に2隻、夏島に1隻だな」


第2艦隊の栗田と小柳が明日以降の方針について夜通し議論していたが、これと似たような光景が日米両軍の各部隊で当然のように見られた。


 そして、トラック攻防戦は2日目の朝を迎えるのだった。



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霊鳳より



















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