第68話 怪力脳筋ヘルクレース
勇輝はクリムゾンセラフに乗り、ベルモンド
出迎えたメイドのジゼルに学校のパンフレットを見せると、彼女は大興奮した。
「これ私の母校ですよ~!」
「え、そうなの?」
「はい~!」
パンフレットに
なんというか、ずいぶん恥ずかしい名前に感じられてしょうがない。
そんな場所があると本人が知ったらどんなリアクションをするだろう。
笑うだろうか、恥じらうだろうか。
もし、聖ユウキ女学園なんてものを作りましょうなんて話が上がってきたら、勇輝は何があっても開校を
戦争でも何でもやってやる。
しかし無関係のジゼルはただただ思い出にひたって、楽しそうにほほえんでいた。
「いいなあ~、私もまた通いたいなあ~」
クネクネ身をよじらせながら上機嫌で昔を懐なつかしんでいる。
「いいところなの?」
「はい~とっても~!
とくに今はですね~ジェルマーニアの皇女殿下が留学にいらしてるって
「ジェル……?」
「北の大山脈をこえたところにある帝国ですよ~」
「帝国、そういうのもあるのか」
この世界を外側から見たとき、巨大だと思っていた聖都ですら、世界のほんの一部にすぎないちっぽけな『点』なのだと思い知らされた。
地球とくらべると小さいこの世界だが、それでもまだまだ知らないことばかりだ。
「ユウキ様うらやましいです~。
私ももう一回入学したい~」
「ふーん、そんなお姫様がかようような学校なのか……」
ハイテンションなジゼルの笑顔を見ているうちに、勇輝はふと殺されてしまった彼女の義父を思い出した。
前法務省長官、デル・ピエーロ
人として決して許されない罪を犯した彼であったが、ジゼルを想う気持ちは本物だったらしい。
あのハゲデブオヤジ、今は天国にいるのか地獄にいるのか。
「まあいいや、ためしに通ってみるよ」
「はいっ、ぜったいそうした方がいいですよ~!」
女子校、というのがいささか不安ではある。
なにせ勇輝の身体は聖女のクローン体だが、魂は男のままである。
女の子たちとうまく
まあその時はやめるなりなんなり、いいように対応していくしかないだろう。
数時間後、帰宅したヴァレリアに入学の意志をつたえると、彼女はとても喜んでくれた。
だからといって明日からすぐに、というわけにもいかないので、入学までの間はエウフェーミアのもとで修行する日々になった。
というわけで東の宇宙に来て修行をする。
今日は例の邪竜が来ることもなく、聖女エウフェーミアは優雅にお茶を楽しんでいた。
勇輝もテーブルの反対側に座っていたが、卓上の紅茶は手つかずのまま。
「なんて顔をしているの、お茶会なんだからもっと楽しそうな顔をしなさいな」
伝説の美女にそんなことを言われても、勇輝はそれどころではない。
「んなこと言ったって……、キツイんだよこれ……っ!」
今、勇輝はクリムゾンセラフに向けて全力で魔力を送りつづけていた。
どうやら勇輝は直接手足で触れて魔力を流す方が得意なようだ。
「あらまあ」
エウフェーミアはテーブルに両ひじをつき、左右の手を組んで、その上に形のいいあごをのせた。
余裕の態度で勇輝のことを笑っている。
今、二人はそれぞれの機兵に力くらべをさせていた。
『スゴイスゴイ、『せら』、オレトオナジクライ、チカラモチ!』
ギリギリギリ……! ギシギシ……!
二体の機体が
クリムゾンセラフと
第十天使・へルクレースだ。
へルクレースの特技は『怪力』。
クリムゾンセラフとその人工知能『セラ』は、フルパワーを出してようやくへルクレースに対抗できていた。
パワーの
セラが遠慮なくガバガバ使うものだから、勇輝はもうノックアウト寸前だった。
『モット、モットツヨクスル!』
『ハイ、へるくれーす、オニイサマ』
『オオー、オレ、オニイサマ! オニイサマ!』
やたら嬉しそうなヘルクレース。
嬉しそうに、よりいっそう力をこめる。
天井しらずの怪力ぶりに、勇輝が根をあげた。
「ちょ、ちょっと待って……!」
これ以上はムリ。
ストップストップ。
その言葉は間に合わなかった。
限界を超えた瞬間にクリムゾンセラフの力が抜ける。
直後。
ボキッ!
クリムゾンセラフの腕が音をたてて
『アッ!?』
『アッ』
二体の機兵が同時に声を出す。
『ゴ、ゴメン『せら』!』
『ユウキサマ、オレタ、ナオシテ』
「この、脳筋ども……」
勇輝は力つきてくずれ落ちた。
大きなソファを与えられて、勇輝は寝かせてもらう。
「まだまだ正義の心がたりないみたいねえ」
「正義?」
「そうよ、言ったでしょう。
その力を悪いことに使えないように、あなたの魔力には安全装置がついているの」
「……けっこう頑張っているんだけどなあ」
「わかっているわよ」
エウフェーミアは勇輝の頭をなでた。
「マルツォが言っていたわね。
あなたはまだまだ発展途上。
これから何でもできるようになるわ。
これからよ、これから」
なにか心を落ち着かせる魔法でも使ったのだろうか。
頭をなでられているうちにとても安らかな気持ちになってきて、勇輝は眠りに落ちた。
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