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「ラアラッ!!」

 一瞬で仲間を失ったカイル。だが悲しむ暇などない。彼はカエナの攻撃を受け止めるのに精一杯なのだ。

「次はおまえの番だ!!」

 カエナは大きく剣を構え、カイルの脳天目掛けて振り下ろした。彼はそれを何とか弾いたが、途端に体制が崩れた。

「カイルさん!!」

 それを見たレヴァが悲痛そうな声を上げる。今まで三人に任せっきりだったが、このままじっとしているわけにはいかない。彼女は必死に魔法を詠唱し、カエナに向かって水流を浴びせようとした。

 

 ――水属性魔法を唱えた刹那、レヴァの胸に突き刺さる弾丸。右胸から白い鈴蘭の花を舞い上がらせた彼女は、力が抜けたようにその場に倒れ込んだ。美しい針のような一撃が、一瞬で生物の命を枯らしていく。

 木の上の影が、がさっと動いた。右手を銃のように構え、倒れたレヴァを見つめている。繊細な魔法の弾丸を放ったのは、紛れもなくこいつだ。

 

 木にもたれ掛かったまま微動だにしないシャル。闇に呑まれて消えてしまったラアラ。瞳孔を開き切ったレヴァ。残されたのは、何もできないカイルだけだ。昔に逆戻りしてしまった彼だけ。

「死ねぇっ!!」

 カエナの素早い刃が飛んできたが、カイルには最早抵抗する気力すら残っていなかった。仲間を失い、死の淵に立たされた今、彼は改めて世界の凶暴さを知る。無力では、生き残れない。与えられた幸運だけでは、決して死からは逃れられないのだ。そう思った瞬間、彼は諦めた表情を浮かべ、ゆっくりと水色の瞳を閉じた。

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