ヒストリー14 つづき⑧

アイリ『・・』


ブラグ『アイリ、、また昔のように

俺の隣に居てくれ、、レオではなく

俺のそばに、、、』


アイリはじっと、ブラグの目を見ている。

ただ、その目に怯えはない。


ブラグ『アイリさえ居てくれれば

他に何もいらないんだ、、』


アイリ『貴方がレオと私を選んでくれたなら

私は貴方のそばにいます。』


ブラグ『レオ・・やはりレオか、、』


ブラグは握っていたナイフを

力なく床に落とした。


ブラグ『俺は、アイリを殺せない、、

そんな事、できるわけがない、、』


ブラグは、床に座り込んだ。

床の絨毯〔じゅうたん〕に涙が染み込んでいく。

嗚咽〔おえつ〕を漏らすブラグ。  


ブラグ『うっ、、うぅ』


アイリ『貴方・・』


泣いて、うずくまっているブラグの横に

アイリは座った。


ブラグ『!?』


アイリはそっと、ブラグを抱きしめた。


ブラグ『アイリ、、』


アイリ『貴方は、ずっと我慢していたんですね。

辛い時間を、ひとりで抱えて。』


ブラグの涙は止まらずに、アイリに身を委ねている。


アイリ『私は、貴方と出会えて幸せでした。

こんな私を妻にしてくれて

ほんとうに幸せでした。

私みたいな身分と一緒になった時

貴方は、周りからの批判や、心ない言葉を

かけられても、私を一生懸命、かばって

そして、守ってくれました。』


ブラグ『・・・』


アイリ『私には、もったいないくらいに

貴方から素敵な愛を、沢山もらいました。』


アイリはまるで、子供に語りかけるかのように

ブラグに語りかけている。


アイリ『だけど、ひとつ後悔があります。』


ブラグ『・・・』


アイリ『私は貴方を大切に愛せましたか?

私は貴方に充分、優しくできましたか?

・・ううん。私は、貴方にとって

素敵な妻、そして母親にすら

なれなかったんだと思います。

こんな妻で、ほんとうに、ごめんなさい。』


部屋の窓から、太陽の光が差している。

その光が、優しくアイリの顔を照らしている。


アイリ『私とレオは、明日、この邸宅を

出て行きます。』


その言葉を聞いて

震えていたブラグの肩の動きが止まった。


アイリ『貴方と出会って15年

その15年は私にとってかけがえのない宝物です。

一生、消える事のない大事な宝物。』


アイリが、さらにぎゅっとブラグを

抱きしめた。


アイリ『貴方、ほんとうに、、』


開いてた窓から小さな風が吹き、

カーテンが揺れた。

それと同時に、アイリの髪も風に靡いた。



アイリ『ありがとう。』  



止まっていたブラグの肩がまた揺れる。

アイリは抱きしめていた腕を解いて

立ち上がり、頭を下げた。


【ガチャ バタン】


部屋から出たアイリは、

廊下で静かにひとりで泣いた。


つづく。

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