ヒストリー14 〜妻、そして母として〜

ネルソン邸宅内 古屋


《レオ視点》



僕は10歳になった。


古屋の中。

とても狭くて

掃除用具や、使わない物も置かれていた。


その小さな空間でお母さんと

暮らしている。

この空間が嫌いなわけじゃないんだ。

お母さんがいて、愛があって

充分、幸せに生きれてる。


ただ、お母さんの事が気になった。

お母さんはいつも、笑ってる。

いつも、愛してくれてる。


でも、その笑顔の裏には

なにか悲しそうにしてる

お母さんの顔も見えるんだ。


僕はとても幸せだ。

お母さんはどうなの?

今、幸せなの?


僕が6歳の頃、いつものように

お母さんの子守唄で眠った。


お母さんは僕のおでこにキスをして

おやすみを言うと、僕を抱きしめた。

そして、僕を抱きしめたまま

肩を震わせて、こう言ったんだ。


『レオ、ごめんね。』


僕は起きてたんだよ。

寝たフリをしてた。

なんでお母さんは、あの時泣いてたの?

なんで謝ったりしたの?

やっぱりお母さんは泣いてしまうくらい

寂しいの?


そんなお母さんを見たのは

その1回しかない。

僕はもう10歳になったんだ。

守ってもらうばかりじゃなくて

次は僕がお母さんを守っていかなくちゃだめだ。


アイリ『レオー、扉開けてくれる?』


古屋の外から、お母さんの声が聞こえてきた。


レオ『はーい。』


【ガヂャ】


アイリ『ありがと。グレースが朝ごはんを

持ってきてくれたわ。』


お母さんが持ってるトレーの上には

シチューとパンが置かれている。


レオ『美味しそー。お母さん持つよ。』


僕はトレーを渡してもらい、

テーブルの上に置いた。

テーブルには椅子はなくて

床に座っていつも勉強をして

ご飯を食べて、お母さんと喋るんだよ。


アイリ『さぁ、いただきましょう。』


僕達はいつものように、神に

感謝と祈りを捧げた。


・・


レオ『ねぇ、お母さん。』


アイリ『どうしたの?』


レオ『外の世界って、どうなってるの?』


ご飯を食べ終わった後、僕は

勇気を出して、お母さんに聞いてみた。


アイリ『外の世界かぁー。』


お母さんは洗った食器を拭きながら

教えてくれたんだ。


アイリ『外には、いっぱい人がいて、

動物や、街、川や海があって

すごく広い大地が広がってるの。

それから・・』


お母さんは、外の話しをいっぱい

してくれた。

僕の胸は熱くなったんだ。


レオ『わぁ、本で読んだ事はホントだったんだね。』


アイリ『レオは外に出てみたい?』


行ってみたい!

って言いたかった。

言いたかったけど言えなかった。

お母さんが、きっと悲しむから、、


レオ『大丈夫だよ。僕はここで

お母さんと居れるだけで幸せなんだ。』


僕は笑った。

でも、多分心から笑ったんじゃないと思う。


アイリ『レオ。』


お母さんが僕の手を握ってきた。


アイリ『いつか、必ずお母さんと一緒に

外に行きましょう。

ここを出て外で一緒に暮らすの。』


レオ『ここを出ていいの?』


アイリ『もちろんよ。レオはもっともっと

色んな経験をして、幸せにならなくちゃ

いけないの。

お母さんが絶対にレオを幸せにするから。』


レオ『ほんとに、ここを出て

僕は生きてもいいの?』


アイリ『うん。うん。』


お母さんの握る手が、ぎゅっと強くなった。


僕は泣く事を我慢したんだ。

お母さんの前では泣かない。

そう決めたのに、

自然と涙が溢れてきた。


アイリ『優しい子ね、レオは。

どんな時も人の事を思いやれる。

人の心を柔らかい毛布で包み込んでくれる。』


なんで涙は溢れてくるの?

こんなに、泣いちゃだめって思ってるのに、、

涙、止まってよ。


アイリ『我慢しないで、お母さんの胸で

いっぱい泣きなさい。ほら、おいでレオ。』


その時、僕は思ったんだ。

ほんとの僕は、いっぱい泣きたいんだって。

ほんとの僕は、大声出して泣きたいんだって。

だから、お母さんの胸に飛び込んで

いっぱい泣いた。

大声出して、いっぱい泣いた。


アイリ『レオは、お母さんの何よりも

大切な宝物。こんなお母さんを

選んで生まれてきてくれて

ほんとうに、ありがとう。』


僕は、お母さんの言葉に

ただ泣きじゃくる事しかできなかった。


・・

・・・


つづく。

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