ヒストリー7のつづき ②

キューズ『これだけの大惨事、そして

〝ラピ族〟の生き残りの可能性がある

大き過ぎるほどの案件です。』


キューズの顎に触れていた手が、

一瞬強くなった。


キューズ『ベルングが全く動いていません。

状況は、もちろん伝わっているのでしょうが

上の幹部、大臣も、この案件に対しては

動いていないのです。』


ジンオウ(確かに、〝アンカー〟である

俺のとこには、何の情報もねぇ。

5日前なら、なんかしらの情報があっても

いいはずだ。)


ジンオウ『ベルングではなく、この案件を

専門に調べている、別機関があるって事か?』


キューズ『これも、調べました。

かなり苦戦しましたが、諦めずに

調べたところ、ひとつの会社が

浮かび上がってきました。』


ジンオウ『会社?』


キューズ『マルティニスト社。』


ジンオウ『おい、待てよ。

マルティニスト社っていやぁ、100年以上も続く

衣服の有名ブランド会社じゃねーか。

服以外にも、色んな事業を展開している大会社だ。

その会社が、この案件に関わってるのか?』


キューズ『それは表向きだと、私は思っています。

色々調べてはみましたが、とにかく謎が

多過ぎる会社なのです。創業当時から裏で暗躍

しているという噂もあります。

潜入も何度か、試みましたが警備が

かなり厳しく簡単には潜入すらできません。』


ジンオウ『マルティニスト社の会長とは

会った事があるぜ。なんの取り柄もなく、

金に取り憑かれたようなオッサンだったな。』


キューズ『会長ではなく、

その下、社長の〝ヤンセン〟が

影で、会社を動かしてると思います。』


ジンオウ(ヤンセン・・会長と会った時に

横にいた、あの短髪の男か。

年は俺よりも下だったはずだ、、

確か25くらいか。)


ジンオウ『ヤンセンとも会った事がある。

若造のくせに、会長のオッサンよりも

堂々としてたもんだ。

なるほどな、言われてみりゃあ納得だ。』


キューズ『とにかく、マルティニスト社に

ついては、もっと詳しく調べてみます。

裏では、色々と動いていそうなので。』


ジンオウ『わかった。』


滝の流れる音が、響きわたる。


ジンオウ『さーてと。』


席を立ち上がる、ジンオウ。


ジンオウ『話しも終わったし、

そろそろ戻るかぁ。ガキ共も心配しやがるしな。』


キューズ『ジンオウ様。』


キューズが席を立ち、洞窟から出ようとする

ジンオウに声をかけた。


キューズ『まだ、あとひとつ、話しが

残っております。』


ジンオウ『ん?そうだっけか?

なんか、聞きたくねぇなぁ。』


ジンオウは、キューズに背中を向けている。


キューズ『この話しは、先程の話しより

大事な話しです。必ず、ジンオウ様に

お伝えしなければいけません。』


ジンオウ『・・わーったよ。聞くって。

言ってくれ。』


ジンオウはキューズに背中を向けたままだ。


キューズ『遠征特別任務に行った、

4人の事です。』


遠征特別任務の4人は

それぞれが、バラバラの場所で

任務を遂行している。


ジンオウ『あぁ。』


キューズ『ヴァン様、ドレス様、両2名は

任務を達成しました。

後日、お二人からのカードを持って参ります。』


ジンオウ『さすがはヴァンとドレスだ!

俺は嬉しいぜ!』


キューズ『ヴァン様とドレス様ですが

訳あって、まだ、その場所に

留〔とど〕まりたいという事です。

詳しい内容は、カードに書いてるようです。』


ジンオウ『わかった。

留〔とど〕まらないとダメな理由があるんだろ。

アインとセロは?』


キューズが少し俯いた。

ふたりの間に、沈黙が流れる。

顔を上げたキューズの目からは涙が溢れている。


キューズ『アイン様、セロ様、両名は

お亡くなりになりました。

任務中の事でございます。』


ジンオウ『・・・』


ふたたび、沈黙。


沈黙。


キューズ『アイン様は潜入地で敵に捕らわれて

しまい、拷問中に自ら命を断ちました。』


声が震えるキューズ。


キューズ『セロ様は、標的の〝カラー〟に

接触。しかしチーム〝ヘズ〟のリーダー

トリスターに殺されました・・』


ジンオウ『・・・そうか。』


ジンオウの肩が震えだす。


キューズ『お二人の認識表も、後日

持ってこれます。』


認識表。

ベルング所属の戦士や騎士、剣士が

戦死した場合に誰なのかを確認する為

首からかける認識表を作った。

これが世界に広がり、ベルング外の

戦いに身を置く者達も認識表を作って

首にかける習慣が広がった。


ジンオウ『アイン19歳。』


ふいに、ジンオウが口を開く。


ジンオウ『セロ17歳、ドレス16歳、

ヴァンも16歳。』


ジンオウが見上げた。


ジンオウ『まだ若いじゃねーか。

俺の半分しか生きてねーのにな。』


キューズ『ですが、立派に生きたと

私は思っています。』 


ジンオウ『立派になんて生きなくて

いいんだ。命さえありゃあ、カッコ悪くたって

いい。』


沈黙。


ジンオウ『全く悲しくなんかねーよ。

俺は、人を使って、人殺しをする鬼だ。

最低で汚れた鬼なんだよ。』


キューズ『ジンオウ様。』


ジンオウ『十字架くらい、何本で背負ってやるよ。

何十本、何百本、背負ってでも使命を

全うしてやる。あいつらが生きた証を

この腐った世の中に示してやる。』


ジンオウの足元に、一粒の光が溢れ落ちた。


ジンオウ『・・あいつらは〝パラディスの方舟〟

〔はこぶね〕に乗って、この世の果ての

〝マグダラ〟へ行かなきゃいけねーんだ。

あいつらこそ〝女神〟が認めた

〝新世代の人間〟なんだよ。』


沈黙。


沈黙。


沈黙。


ジンオウ『わりぃ、キューズ。

わざわざ情報ありがとな。

また、なんかわかったら教えてくれ。』


キューズ『・・はい。』


ジンオウ『俺は、もうちょっとここに残るわ。』


キューズは頭を下げて、洞窟を出た。

滝を抜けて空を見れば

太陽が少しだけ顔を覗かせている。


キューズ『もう夜明けか。』


キューズはつぶやいた。

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