フォークロア

パーグースタジオ

ヒストリー0 〜フィリップ一族の思惑〜


地方(不明)、地区(不明)

ソサエティホテルにて、フィリップ一族による

ソサエティ臨時会議。


議長:フィリップ3世

出席者:オグルソープ

出席者:パヴェルナ

出席者:ビアドール

出席者:アボット

出席者:アグスティン


証人:シモン


【ゴーーーーン】


室内に、議会の始まりを告げる鐘が

鳴り響いた。


アグスティン『それでは、今からシモン氏の証人喚問を始める。』


アボット『用意はいいかな?シモン氏。』


シモン『いつでも。』


アボット『では、まず私から質問しよう。』


シモン『はい。』


アボット『シモン氏、君は先日、アダムズ自治区の

クンバカルナ山で1枚の石版を見つけたと

調査官から報告を受けている。

この報告に嘘、偽りはないかな?』


シモン『はい、間違いありません。』


アボット『正直でよい。では何故私達、総会に

石版の提出をしない?』


アグスティン『調査官からの事後報告も

気になるところだ。』


パヴェルナ『まずは、君からの報告が先だろう。』


シモン『石版は確かに我々、マルティニスト社が

見つけました。』


オグルソープ『それは、さっき聞いた!何故、

提出しないのかと聞いている!』


シモン『クンバカルナは非常に険しい山です。

石版を見つけ、下山する途中に崖から

落としてしまいました。

その時に会社の隊員、2名も死んでおります。』


パヴェルナ『なに!?石版を崖から落としただと!?』


シモン『わざとではありません。』


オグルソープ『ふざけるな!そんな話しを

信用できると思うか?』


シモン『オグルソープ氏、これは証人喚問なのです。嘘をつけば法に乗っ取り裁かれます。』


アグスティン『だから、嘘はついていないと言うのか?』


シモン『もちろんです。

ましてや機密文書にすらされている案件なのです。

嘘をつけば一族全員死刑、と言うこともある。

その覚悟で、私は真実を話しています。』


静まりかえる室内。

蝉の鳴き声だけが静寂を包み込んだ。


アボット『では何故、報告が遅れた?

どんな理由にしろ、総会には報告はできたはずだが?』


シモン『会社の隊員が2名、この調査で

亡くなっております。

まずは喪に服す事、それを優先させました。

調査目的の石版は不本意ながら失ってしまったので。』


アボット『失ったから、事後報告でもよいと?』


シモン『はい。』


パヴェルナ『ふんっ、たかが2人が死んだから、

報告が遅れただと!?言い訳に過ぎん!』


シモン『パヴェルナ氏、私にとっては大事な隊員です。〝たかが〟とは、言わないでいただきたい。』


シモンが、パヴェルナを見つめた。

パヴェルナの表情に、一瞬、怯えが走った。


アグスティン『シモン君、君の会社マルティニスト社、これは我々エレウシス総会がどれほどの額を

投じているかわかっているな?』


シモン『わかっております。』


アグスティン『マルティニスト社は

″どんな理由があれど、

総会が提案した任務は遂行しなければならない〟

それが契約時の条件だったはずだ。』


シモン『はい。』


アグスティン『ならば、』


フィリップ3世『・・もうよい』


ふいに、今まで傍観者だった議長フィリップ3世が

口を開いた。皆の視線が、議長に注がれる。


フィリップ3世『シモン、マルティニスト社に何故

我々総会が投資したか仕事、理念、任務を答えてみよ。』


シモン『わかりました。』


シモンは、マルティニスト社が誕生した理由、

意味、理念を語った。

そしてエレウシス総会からの提案、案件任務も語った。もちろん、石版調査もその任務のひとつだ。


フィリップ3世『と、もうひとつ、

最優先重要事項任務がある。忘れてはいまいな?』


シモン『絶望の種族、〝ラピ〟の生き残りを

探す事、、ですね。』


フィリップ3世『そうだ。』


室内がまた静まりかえる。この時は、

蝉の鳴き声すらも止まった気がした。


フィリップ3世『これで臨時会を閉会する。』


アグスティン『え!閉会ですか?』


オグルソープ『しかし議長!シモン氏を、

このままにするのは納得いきません。』


パヴェルナ『そうです!それなりの罰

を与えるべきではないでしょうか!?』


アボット『石版の案件、

これはもっと詰めたほうがいいと思います。』


ビアドール『一体なんの罰を与えるんだい?』


これまで一度も発言しなかった

出席者ビアドールが喋りだした。


ビアドール『石版を崖から落とした。

今、石版が彼の手元に本当にないのなら、

嘘はついてないね。

信用できないなら、身辺調査をしたらいい。

隊員を2人も亡くしてる。

これで十分に罰を受けてるじゃないか。』


パヴェルナ『その話し自体、嘘かもしれん。』


ビアドール『だから、身辺調査するんだよ。

嘘だと分かれば、罰すればいい。』


シモンの表情は動かない。


パヴェルナの表情のほうが赤くなったりしている。


フィリップ3世『シモン、退出したまえ。』


シモン『では、失礼します。』


シモンが会議室から立ち去った。


アボット『父上、本当にこのままでいいのですか?』


オグルソープ『何か隠してると自分には思えるのですが。』


フィリップ3世『このままにはせんよ。

ビアドールの言う通り、調査官を派遣して、

身辺調査を急がせろ。

石版の件も、クンバカルナにシモンも同行させ、

徹底的に調べさせる。

シモンに対する監視も今の倍にしろ。』


パヴェルナ『わかりました。

調査官も新たに新設して派遣させます。』


アボット『父上、もし嘘だとわかった場合は・・』


フィリップ3世『マルティニスト社は解体。

シモンには死んでもらう。

マルティニスト社の代わりは、いくらでもあるからな。』


アボット『了解しました。』


フィリップ3世以外、みんなが退出して

1人になるフィリップ3世。


フィリップ3世『人は〝フォークロア〟への

正しき道を歩み、希望の〝マグダラの女神〟へと

導かれる、か。』


フィリップ3世はつぶやいた。


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?『シモン社長』


ソサエティホテルを離れるシモンに

声を掛けてきた女性がいた。


シモン『マーサか。』


マーサ『こちらに馬車を用意しています。』


シモンは頷き、用意してある馬車の方に歩きだした。

護衛の者5人が馬車の前で待っている。

馬車に乗り込む、シモンとマーサ。


護衛に囲まれて、馬車は動きだす。


マーサ『お疲れ様です。

臨時会のほうは、どうでしたか?』


シモン『予想通りに事は動いているよ。

あの連中は、やはり石版が欲しくて

たまらないらしい。』


マーサ『真実を話されたのですか?』


シモン『ああ。真実だけを話した』


マーサ『フィリップ一族、

なぜ証人喚問だったのでしょうか、

尋問する事も可能だったはずなのですが。』


シモン『尋問する事になんの意味もないからさ。

証人喚問が最大の妥協案だったんだろう。

だいたい、本来証人喚問は、国の役職についた

者達も参加するからかなりの傍聴者がいる。

今日は、フィリップ3世の他に5人だけだ。』


マーサ『つまりは、あまり外部には

漏らしたくはない、という事なのですね?』


シモン『そういう事だ。結局、奴らは

マルティニスト社がないと何もできない。』


シモン(これからエレウシス総会がどう動くのか、

考えろ。今までとは、違った動きをするのは

間違いない。)


シモン『マーサ、これからは総会からの監視も、

身辺調査も、今まで以上に厳しくなる。

石版の件も、このまま、というわけには

いかないだろう。』


マーサ『はい。こちらも色々と手は

打ってあります。ただ、総会が本気を出せば、

わが社もどこまで耐えれるかは不安はありますが。』


シモン『そんな心配今はしなくていい。

いつも冷静な秘書、マーサらしくもないぞ。』


マーサ『も、申し訳ございません。』


シモン『マルティニスト社は、〝矢印〟の方角を

導きだした。これは、我々でしか

〝解けないパズル〟でもある。

エレウシス総会は〝最後のピース〟を

見つけない限り好き勝手にはできない。

奴らは〝矢印〟の方角を、危険と判断し

ひどく警戒しているからな。』


マーサ『わかりました。帰ったら報告書をまとめます。』


シモンは頷いた。ふと馬車の窓に目を向けると

太陽が山と山の間に隠れようとしてる時だった。


シモン(これで、新たな〝歴史〟が確実に書き加えられていく。)


シモンは窓の外を見ながら、心の中で静かにつぶやいた。


つづく。

 

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