凛さんとのお出かけ (裏)

side〜藤桜 凛〜

 今日はこの前のお礼も兼ねて武さんと出かける日だ。

 ちょうど今日は雲一つない晴天で、海の青色のような色をした空が広がっている。


 待ち合わせ場所に行き、武さんを待っているとやがて武さんがやってくる。


「あ、ごめん待たせた?」


「いえ、大丈夫です。私も今来たところですから」


「そっか、じゃあ行こう」


 そんなたわいもない会話をして、向かった場所はデパートだ。お礼として何か買って差し上げようと思ったのだが、どうしてもと断られてしまった。


 そしてカフェで一息ついたところで前から気になったことを聞いてみた。


「武さんはこれまでいろいろなトラブル、戦いに巻きこまれてきたと思います」


「まあ、うん。そうだね」


「でもその度に、あなたは同じ行動をしてきました。それは何故ですか?」


 それが気になっていた。武さんは巻き込まれるだけでなく自分から首を突っ込みに行くことも多々あった。

 でも武さんは自分の力をできるだけ隠したいと思っているのにもかかわらず、自分の力を使って撃退してきた。


「(みんなのことを)守るためさ」


「やはり…そうですか」


「だって僕にしかできないからね」


「それは…凄いことですね」


 ここ最近、武さんと触れ合って分かったことは彼はその身に宿している力と比べて案外普通の性格をしているということだ。いくら大きな力を持っているとはいえその力を他人に向け、屈強な悪人に立ち向かうことはかなりの勇気がいるだろう。


 私には武さんの顔が何か悟ったような、覚悟したような目をしているように見えた。


 今日は平穏な1日になるかと思ったのだが…思いがけずも事件は起きた。


『この店は俺が占拠した、この子供を殺されたくなければ藤桜 凛を連れてこい!』


 急にそんな館内放送が流れる。声は荒々しく、低い男の声である。

 私の名前が呼ばれるが、正直いって心当たりは無数にある。


 生徒会長兼Sランク能力者の妹、希少なAランク能力者である上に個人的な恨みも買っている。


 恐らく放送室の方だろう、焦りながら走り出す。武さんは今はトイレに行っているから一人だが後々来てくれるだろう。


 放送室に隣した部屋にたどり着くとそこに銃を子供の頭に向け、こちらを睨みつけている男がいた。

 体は鍛え上げられており、武装している。


「来たか…武器を捨てて手を上げろ」


「分かったわ。でもその子には何もしないで」

 

 大人しく命令に従い手をあげる。


「よし次は…」


 そこで言葉が途切れる。視線は横に向くがまだ意識は子供から逸らさずにいる。これではまだ助けることはできない


 つい私も横を見てみると武さんがこちらに向けて走っていた。


「武さん!?」


 驚きのあまり声を出してしまう。


「なんだお前…、何者だ?」


 子供から意識が逸れかけている、もう少し…!


 すると武さんが手に持っていた買い物袋を投げる、どうやら中身が入っているようでそれなりに重そうだ。


「くっ、なんだ!」


 犯人の意識が完全に私と子供から武さんに行く。

 その隙をつき私は犯人に「重力操作」能力を使う。体が急に重くなり自分の重さに耐えられず犯人は倒れ地面にめり込み、気絶した。

 


$ $ $ $ $



 その後犯人を警察に引き取ってもらい帰路についていたが、気持ちは安堵感に包まれ、思わずため息を漏らしてしまう

 

「また助けられてしまいましたね」


 お礼をするつもりがまた借りを増やしてしまった。


「気にすることないよ」


 そういった彼はまるで夜空に浮かぶ星のように輝いて見えた。あの時武さんには一切の迷いがなかった。私が同じ状況で同じことができるだろうか…

 私の心に奥底に眠る「何か」が刺激される


「では、私はこれで」


「うん、今日はありがとう」


それを振り払うかのように別れを告げ、武さんとは別の方向へと歩いて行った。

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