藤桜姉妹 (表)

聖内学園では明日から夏休みに入る。


学内は浮かれた空気に包まれ、皆がうずうずした様子だ。

あちこちから今年は海に行くだとか、北海道に行くだとか話している声が聞こえる。


え? 僕はどうなのかだって? よてい? なにそれおいしいの?


まぁそんなことは僕には無関係なのでスルーする。




浮かれた空気に耐えられなくなり、学園内を散歩していると偶然生徒会長と出会った。


相変わらず見てると引き込まれそうになる雰囲気を纏っており、その美貌は一切衰えるどころかさらに美しさが増している。


「お久しぶりです、武さん」


「あ、お久しぶりです奇遇ですね」


「ふふっそうですね、ところで少しお願いがあるのですが…」


お願い?生徒会長が僕なんかにお願いすることがあるのだろうか。


「お願いですか?」


「はい、実は夏休み中の予定をある期間の間空けておいて欲しいのです」


その瞬間僕の頭はフル回転した。

これは…まさか夏休み中のお誘いなのでは?

いや落ち着け、生徒会長とは大した接点がない、ただの事務的なものだろう。


「そのぐらいなら大丈夫ですが…何故ですか?」


「少し貴方と一緒にお出かけに行きたいなと思いまして」


キタコレ!!これはデートじゃないか!


「わ、わかりました!空けておきます」


「ありがとうございます、ではこれで」


「あ、さようなら」


よし、これで夏休み中は美少女とデートだ!



ヘックション!

うん?なんだか急に寒気がする…




$ $ $ $ $




さて、僕は今どこで何をしているでしょう?


ヒントはいつもどおりやばい状況だということでーす。



答えは

路地裏で美少女を人質に取っている犯罪者も向かい合っているでしたー。


ふざけんな!!おかしいだろ!!


いつも通り散歩してたら迷子になって路地裏に入ったらこの状況ですよ。


運悪すぎません?


「おい!なんとか言えよガキ!」


おそらく生徒会長の妹ーー藤桜 凛を人質に取っている男が焦った様子で僕に向かって叫ぶ。


対して僕は何も言わないただ無言で見つめ返すだけだ。

実際はビビって声がうまく出ないだけだが。


「何か怪しい真似をしたらこいつがどうなるか分かってんだろうなぁ!」


路地裏は薄暗く、人がなんとか二人立っている程度の幅しかない。

そして人質を取られている。


…こんな状況で何をしろと?


そうするとーー


ガタガタっ ガタガタっ ガタガタガタガタ!


急に地面が揺れ始め、建物が軋む。

男も驚いた表情をしている。


対して僕は、


(ちょっ!揺れてる揺れてる!怖い怖い怖い!)


ポーカーフェイスを貫いているが内心はめちゃくちゃビビっていた。


「ガキ!何もするなと言っただろう!」


いやなんで!?どう考えても地震だろ!こんな現象起こせるわけねーだろ!


「くそ!さっさとーーガッ!」


上から不安定な位置においてあった花瓶が落ちてきて相手の頭に命中した。


そのまま男は一瞬堪えたが、やがて倒れ気を失った。


(あっぶねぇ…ってそうだ!)


「大丈夫だった君?」


「はい、大丈夫です。あ、あの!ありがとうございました!」


「いや、僕は何もしてないけど…それで事情を教えてくれるかな?」


「えっと、道を歩いていたら急に攻撃されて、応戦しようとしたんですが間に合わず気絶してしまって…恐らくもう一人高ランクの隠密の能力がいたんだと思います。それで気絶したらここに連れてこられていて、意識を取り戻してすぐ貴方がここに来たんです」


「そうだったんだ、災難だったね、そう言えば君、僕を案内してくれた子だよね」


「あぁ、はいそうです。お久しぶりです」


「まぁとりあえず今日はもう帰ろうか」


$ $ $ $ $


その翌日、ついに夏休みに入った。

昨日会った凛さんとも予定を取り付けることもできた。


案外いい夏休みになりそうだ。








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