第10話 残るのは

「──あの、すみません! 私も、抜けます……」


 昨日、グループから抜けずに残った六人が揃うや否や、真紀ちゃんがそう言って頭を下げた。

 曰く、真紀ちゃんの所属する美術部は、秋の展覧会に向けててんてこ舞いらしい。


「本来なら合唱祭の準備って言えば大丈夫なはずだったんですけど……」


 彼女はそこまでしか言わなかったけれど、続きがどんな内容なのかは想像がついた。

 つまり、中止になった行事のために部活を休むなんて──というようなことだと思う。


「そんな、謝らなくていいよ。事情が事情だし」


 私は真っ先にそうフォローした──この場にいる唯一の同性の先輩として、彼女を責めるつもりがないことは何よりも伝えておきたかったのだ。

 真紀ちゃんは申し訳なさそうにうなずく。


 そんな彼女に「高野さん」と呼びかけたのは、委員長である新垣くんだった。


「合唱祭が無事実施ってことになったら……その時、戻ってきてくれたら嬉しいな」


 その声は存外に優しくて、私は失礼だとは思いながらもついその顔を凝視してしまった。


「もちろん、気が向いたらでいいから」


 乾が横から言い添える。

 すると真紀ちゃんははっとしたように、うなずいた。


「はい! その時は必ず」


 そしてまたぺこりと頭を下げ、教室を出て行った。



 真紀ちゃんが律儀にもきちんと閉めていったドアを見つめながら、私はため息をつく。


「ついに五人まで減っちゃったか……」


 残ったのは委員長である新垣くん、副委員長である乾、そして二年生の中村くんと塚本くんだ。私はその顔を順に眺める。


「もし他にも辞めたい人がいるなら今にしてね。今ならまだ、比較的傷が浅くて済むから」


 言ってしまってからはっと我に返る。

 何を言っているのだろう。こんなこと、絶対に言うべきじゃなかった。空気が悪くなったら私のせいだ。


「……僕なんかは、辞めるとしたら木崎さんだと思ってましたけどね」


 中村くんが、いつもののんびりした雰囲気で言った。


(私……?)


 どうして私が、と思うものの、中村くんは私の合唱祭への思い入れなんて知る由もないのだ、と思い直す。


「ちょ、お前、そういうこと言うか?」


 一方、私の合唱祭への想いを何かしら察しているらしい塚本くんは、小声で中村くんを小突いている。

 けれど中村くんは「意味がわからない」とでも言いたげに首を傾げた。


「だって、もう他に女子いないわけだし」


 その言葉に、塚本くんもはっと手を止めた。


「ああ、そういうことね」


 言われるまで気づかなかったけれど、さっき真紀ちゃんが去ったことで実行委員会に女子はもう私しかいなくなってしまった。

 でも、それが何だというのだろう。


 この男女比で合唱──混声合唱をやれと言われたなら困る。最低でも男女同数は必要だから。

 けれど私たちは合唱団じゃない──合唱祭実行委員なのだ。


「……そろそろ始めようか」


 新垣くんのその一言を皮切りに、私たちは適当な席に着いた。


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