マユケンー下駄がゲタゲター
門前払 勝無
第1話
「マユケン」
下駄がゲタゲタ
立ち上がる俺達は儚く脆い
立ち竦む君達の輝く青春を
俺達の四畳半が全てだったー。
香川先輩の歌を聴きながら明美とお酒を呑んだ。
繭は大きめのとっくりセーターを着てパンタロンを履いている。明美はヒッピーファッションー。仲間達は皆、長髪で男の子達は髭を生やしてる。香川先輩はみんなの憧れで繭も憧れてる…と思い込んでいる。
下北の駅前は同級生達が酔っ払いながら騒いでいる。仕事帰りのサラリーマンはそれを嫌な顔しながら階段を上がっていくー。
「おい!危ねぇだろ!」
「なんだお前!やるってのか!」
同級生の竹田君が学ランの男にビール瓶で殴りかかった。学ランの男は履いていた下駄を竹田君に投げてびっくりしてる竹田君を背負い投げしてそのまま殴り付けた。周りにいた他の同級生達が男に飛び掛かり皆で動かなくなるまで学ランの男をリンチした。
「おい!皆しらけたからマスターの店に行こうぜ!」
香川先輩が言って皆で行きつけの居酒屋へ行くことになった。
繭も皆と歩き出したが学ランの男が気になって何度も倒れている学ランの男を見た。
皆が酔っ払って眠っている。
学ランの男が気になっていて、繭は駅前に向かった。何故か走っていた。だいぶ時間が経っているからもう居ないかもしれないし死んでるかもしれない。不安と緊張で心臓がバクバクしてる。
男は駅の階段に座り壁に寄り掛かり長らぐったりしていた。
「大丈夫…ですか?」
男は晴れ上がった目を少し開けた。
「ヒッピー女…話し掛けるじゃねぇ…非国民!」
ムカついたがか細い声に仲間がしたことが申し訳なかった。
「ごめんなさい…」
男は何も言わずにヨタヨタと下駄を手にし裸足で歩き出した。
男が歩き出した東北沢方向に下宿先があるから気まずいが後を着いた。踏切で横になり目を合わせないように俯いた。
男は煙草を咥えながら通り過ぎる電車を見つめていた。
「私は長野県から大学に来るために2年前に来ました」
いきなり何を言ってるんだろう…と思った。男もキョトンとしている。
「これからは大学に行って良い会社に入って田舎の親を楽にしてあげようって…」
男をチラッと見た。私をジッと見ている。
「でも、東京に来たら田舎の事を考えるのが馬鹿らしくなって…そしたら仲間と毎日楽しくしてる方が楽になって…」
男は煙草を根元まで吸っている。
「でも、こうやって一人で夜空を見ていると田舎の事を思い出して、川で遊んだりお父さんの畑の手伝いしたり、お母さんの味噌汁の味とか…」
踏切を越えて二人並んで話していた。
「お前さっきから何言ってんだ?田舎が恋しいなら帰れよ!自分を捨ててあのヒッピー達と遊んで自分だけは良い子なのって言ってるだけじゃねぇかよ」
男は煙草をくわえた。
「てめぇの仲間がボコボコにした俺に何を気取った事を言ってんだよ!」
「私は……」
「もっと自分を偽らないで素直になれよ!勉強しにきたならやりたい勉強しろよ!親とか仲間を理由に逃げんな!」
男は舌打ちして煙草を投げ捨てた。
「…」
私は睨んだ。
「なんだよ!」
「煙草のポイ捨てはダメ!」
「あ!…ゴメン」
男は素直に煙草を拾いに行った。そのまま道の向こうから手を振ってきた。
「俺はこっちだから!じゃあな!」
大きな声で叫んでいた。
私はこのまま男と離れるのが凄く淋しく感じた。
「また会える??」
「さぁな!」
男は路地に消えていってしまった。
胸が急に苦しくなって男の消えた路地をずっと見つめていた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます