No.65:エピローグ
「ほう、それは面白いアイディアだ」
「だろ? 俺もそう思ったんだよ」
私の横に座っている宝生君と、正面に座っている中年男性が熱のこもった会話をしている。
私は宝生君とお付き合いをするようになった。
彼はとても、私の事を大切にしてくれている。
あの日教室であれだけ私とのことを宣言してくれたのにも関わらず、いまだに学校での『宝生人気』は衰えない。
それでも私は全然気にしなかった。
私の隣には宝生君がいる。
それが全てで、それ以外は全て
そんな風に思えるようになったのも、そんな風に自分に自信が持てるようになったのも、全部宝生君のおかげだ。
本当に感謝している。
この間は柚葉とハリーくんと3人で、宝生君の自宅にお邪魔した。
シアタールームと言われている大広間で、映画鑑賞をさせてもらった。
画面も大きくて、音響も大迫力だった。
そして今日、私は宝生君の自宅で食事に招かれている。
私の前には宝生君のお父さん、宝生龍一氏が座っている。
最初私はとても緊張した。
日本を代表する企業体、宝生ホールディングスのトップだ。
見た目の貫禄とオーラが半端ない。
それでも宝生君と食事を始めると、普通の父親の顔つきになった。
私にもとてもフランクに話しかけてくれた。
「うちは娘がいなくて華がないからね。こうして一緒に食事をしてくれると私も楽しいよ」
そう言ってくれた龍一氏は、とても優しい『彼氏のお父さん』だ。
私はあらためて、今回の一件のお礼を言った。
それとお父さんの就職の件も。
本当に宝生家には、足を向けて寝られない。
食事は一般家庭の食事とは思えないほど、豪勢だった。
スープ・前菜から始まって、メイン、サラダ、デザートにコーヒーと、ちょっとしたコース料理だ。
そして言うまでもなく、味も高級レストランに引けを取らない。
デザートのアイスクリームを食べているとき、先日宝生君と一緒に行った一人焼肉屋さんの話になった。
その時に私が言った何気ないアイディアに、宝生君のお父さんが感心してくれたのだ。
「いえ、その……単純に私だったらそういうサービスがあったらいいなぁって思っただけで……」
「でもそういう発想が、なかなか我々にはなかったりするんだ。ちょっとしたデザートとかサラダ、それに女性優先席というのは面白い」
そこまで褒められると、ちょっと気恥ずかしくなってしまう。
でも……私もそういうことを考えるのは、とても楽しい。
できたらこれからも、宝生君と一緒に考えていければいいなと思う。
食事を終えると、宝生君は自宅の中を案内してくれた。
仕事部屋の机の上には、大きなパソコンのスクリーンが2枚。
本棚には難しそうな書籍がびっしりと並んでいた。
「宝生君のお父さん、やさしい人でよかった」
「そうか? 仕事のことになると鬼だけどな」
「それだけ期待してるってことじゃない?」
「まあでも今日の親父、あからさまに嬉しそうだったぞ。これからも時々食事しに来いよ」
「え? う、うん。私でよければ」
こんな私でも受け入れてもらえたのかな?
それだったら嬉しいんだけど……。
それから宝生君の部屋を案内してくれた。
もちろん部屋に入るのは初めてだ。
思ったよりきれいに片付いている。
宝生君の部屋で……彼と二人っきり。
嫌でも意識してしまう。
私は緊張していた。
「そんなに緊張するなって」
「う、うん……」
宝生君は勉強用の椅子に座った。
座る場所がないので、私はその横の彼のベッドの上に腰掛ける。
「そんなところに座ったら、襲うぞ」
「そんなこと言ったって……他に座るとこないじゃない」
「んー……確かにそうだな」
彼は立ち上がって、私の隣に座った。
そしてそのまま、私を優しく抱きしめた。
「俺はずっとこうしたかったんだけどな」
「もう……」
付き合うようになってから、私たちはもう何度もデートした。
もちろん身体の関係はまだだ。
最近は宝生君の車に乗せてもらう機会も増えた。
後部座席で横に座ると、彼はいつも私の手を握ってくる。
私はそれが嬉しかった。
「宝生君……」
「ん?」
「大好き」
「……ああ。知ってる」
私は彼の胸に軽くパンチを入れる。
フッと笑った彼は、そのまま私に優しくキスをした。
キスは徐々に深くなり……彼の手が私の身体のいろんな場所に移動し始める。
私は彼の手を掴んで抵抗を少し試みるが、彼の攻撃は続いた。
頭の中が真っ白になって力が入らなくなって……抵抗が無駄だと理解した。
かすれていく記憶の中で、ほんの少しだけ安心したことがあった。
下着を新調してきてよかった、と。
ー F I Nー
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