No.53:それはどういう……


「す、すいません……それはどういう……」 


「ははは、驚くのは無理もないだろうね。いや、我々も非常にびっくりしているよ」


 翌日私はまた北条先生から呼び出しを受けた。

 短時間で終わるので、お昼休みに来てほしいと言われた。


 ひょっとしたら、特待から外れることを通告されるのかもしれない。

 そんなことを考えながら、昼食なんて喉を通るはずがない。

 私は昼休みが始まると同時に、職員室へ向かった。


 北条先生と一緒に、小会議室へ入る。

 しかし後から入ってきた教頭先生から告げられたのは、私への特待はそのまま継続されるから、もう心配しなくていいという通告だった。


「いろいろあって詳しくは言えないんだけどね……それに月島さんのお父さん、返済が滞っていた借入れは解消されたそうじゃないか。それであれば、そもそもなんの問題もないわけだしね」


「ど、どうしてそれを……」


 ちょっと待って。

 個人情報保護って、いったいどうなってるの?

 なんでそんなこと、学校が知ってるの? 

 私たちだって、昨夜知ったばかりなのに。


「うん、まあ詳しくは言えないんだよ。とにかく特待に関しては心配ないからね。ああ、もちろん成績が下がった場合には、遠慮なく取り消しさせてもらうよ。だから引き続き頑張ってね」


「え? は、はい、それはもちろん。頑張ります」


「昼休みに呼び出して悪かったね。ただできるだけ早めに知らせてあげたほうがいいと思って。それじゃあ、これからも頑張って下さい」


「はい! ありがとうございました!」


 私は立ち上がり深くお辞儀をして、小会議室を出た。

 職員室から戻る途中、私の頭の中は混乱を極めていた。


「いったい何が起こってるの? 昨日といい今日といい……タイミングが良すぎるわ」


 特待が継続になったことは、素直に嬉しい。

 でもこんな不思議なことが続くなんて、ありえるの?

 

 私は頭の中にクエスチョンマークをたくさん抱えながら、教室に戻った。

 教室では柚葉が心配そうに待ってくれていた。


「華恋、大丈夫だった?」


「うん、大丈夫は大丈夫なんだけど……」


「悪い知らせじゃなかった?」


「違う違う。むしろ良い知らせなんだけど……なんだか腑に落ちなくて」


「月島さん、呼び出しされてたみたいだったけど、大丈夫だった?」


 ハリー君まで心配そうに来てくれた。

 ハリー君とはあれから普通に接している。

 私も彼も、気まずい雰囲気になることはなかった。


「うん、大丈夫。そういえば……ハリー君のお父さんて、銀行にお勤めじゃなかったっけ?」


「うん、そうだよ」


「……ねえ、ちょっと今日の帰り3人でファミレスにでも行かない? 聞いてほしいことがあるんだ」


 私は2人に提案する。

 謎が多すぎて、私一人では手に余る。

 ちょうど今日は金曜日だし、ちょっと2人の知恵を借りてみようと思う。

 2人とも、快く応じてくれた。


 昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。

 柚葉もハリー君も、自分の席に戻る。

 そして宝生君も、戻ってきた。


「何かいいことでもあったのか?」        


 隣の席から、低く優しい声が聞こえた。


「う、うん。わかる?」


「ああ。なんだか嬉しそうだぞ」


「そう。とってもいい事があったんだ」


「そうか」


「ねえ……」


 私は言おうかどうしようか、迷ったが……


「あのね、もうちょっとしたら……いろいろと宝生君に話せるようになるかもしれないの」


「そうか」


「もう少し、待っててくれる」


「ああ。わかった」


「ありがと」


 ちょうどその時、本鈴が鳴って先生が入ってきた。

 彼はいつも通り言葉少なだった。

 そしてその眼差しも、いつも通り優しかった。

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