No.24:パウンドケーキ


「お、これ美味いな」


「本当? よかった」


 どうやらお気に召したらしい。

 私もホッと一安心だ。

 

 ゴールデンウィーク明けの平日。

 いつもの市立図書館の休憩室で、私の前に宝生君が座っている。

 テーブルの上には、缶コーヒーとペットボトルの紅茶が置かれている。


 何か作ってくれ、といいながら、あれから宝生君は特に何も要求してこなかった。

 ひょっとして、気を使ってくれていたのかもしれない。

 そう思うと、なんだかすこし嬉しくなった。


 ただあまりにも何も言ってこなかったので、こっちから「パウンドケーキでも作ろうかと思うんだけど、食べる?」ってLimeで聞いたら、「食べたい」と速攻で返事を送ってきた。

 

 ひょっとして、待っていてくれたのかな……。

 そんなことを思うと、また胸が少し苦しくなった。

 だめだ、これ放っておいたら勘違いするヤツだ。

 気をつけないと……。


「これ、上に乗っかってるの、アーモンドスライスか?」


「そうそう。ナッツ類、大丈夫だった?」


「ああ、好きだな。特にアーモンドが。香ばしくて美味い」


 確かに小型のケーキ型で焼いたけど、彼は既に半分以上平らげていた。

 これぐらいのもので喜んでくれるんだったら、安いものだ。

 材料を混ぜてアーモンドをのせて焼くだけだし。


「私も一切れ、もらっていい?」


「もちろんだ。ていうか、自分で作ったやつだろ?」


 二人でケーキと飲み物で談笑する。


「来週から中間テストだよね。勉強会する?」


「ああ、そうだな。どこがいいかな」


「それなんだけどね、ここの小会議室、予約しといたんだ」


「え? そんなことができるのか」


「そう、できるんだよ」


 この市立図書館は、会議室がいくつかある。

 時間帯は限られるが、予約制で小会議室を一般開放している。

 ただし高校生が利用できるのは、平日の週2回で1コマ90分。

 予約は2週間前からネットで予約可能なので、一応2日分予約をしておいた。


「それに、なんと言っても無料だしね」


「そんなサービスがあるんだな。知らなかったぞ」


「そう? 結構知られていて、競争率高いんだよ。それで……この日って、都合いいかな」


 私は自分のスマホで、予定が記載されたメールを彼に見せた。


「大丈夫だ。その日は特に予定もない」


「よかった。じゃあまたここでだね」


「ありがとう。助かる」


 勉強会か……どうやってやろうか。

 現代文、古典、世界史が苦手だって言ってたよね。

 基本、全部暗記物だから、なにかまとめたものを作ってあげた方がいいかな。

 私はそんなことを考えていた。


        ◆◆◆


 数日後、授業が終わってから私は学校近くのファミレスにいた。

 いや、私だけではない。


「ねえ華恋、これどうやってやるの?」


「三宅さん、あんまり月島さんの邪魔しちゃ駄目だよ。」


「なによ、じゃあハリー教えてよ」


「ちょっと見せてみて」


 ファミレス内では、別の勉強会が開催されていた。

 柚葉とハリー君と3人、授業が終わってからここへやってきた。

 ドリンクバーを注文して、教科書を開いて勉強している。

 しかし……私はなかなか捗らない。

 柚葉からの質問攻撃にあっていたからだ。

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