No.19:無防備だな


「やっぱり他の映画にするべきだったか」


 ローファーム・イン・アメリカ

 めちゃめちゃ退屈な映画だ。

 法律用語が出まくって、字幕を呼んでも意味がわからん。

 よくこんな映画作ったな。


 横で月島が、目を閉じて微動だにしない。

 そういえばラウンジで、結構緊張してたからな。


「面白いやつ」


 ロビーで初めて月島の私服姿を見た。

 チェックのワンピース。

 短めのスカートから、綺麗な足を見せていた。

 清純な月島に、よく似合っていた。


 可愛いと思ったが、俺も恥ずかしくて言葉にできなかった。

 あんなに月島が緊張するんだったら、ちゃんと言ってやればよかった。

 こいつはもっと、自分に自信を持っていい。


「ん……」


 月島が寝返りをうって、こちらを向いた。

 完全な熟睡モードだ。

 長い睫毛で、童顔の表情。

 寝ていれば、こんなにおとなしい。

 なんだかそれが可笑しかった。


 足元を見ると、スカートが少しめくり上がっている。

 下着が見えそうだ。


「ったく……無防備だな」


 俺はドリンクテーブルに置いてあったブランケットを広げ、彼女の膝下にかけてやった。

 彼女の幸せそうな寝顔を見ていたら、俺まで眠たくなってきた。

 こりゃ2人で昼寝タイムだな。


        ◆◆◆


「起きろ。終わったぞ」


「……へっ?」


 私は一瞬、ここはどこだかわからなかった。

 目の前にイケメンがいる。

 低く優しい声で、私に……。

 

 寝心地のいいベットで、ずっと寝ていたような感覚。

 映画館で寝てしまったと気づくまで、5秒ほど要した。


「ご、ごめん」


「問題ない。俺も寝てたから」

 

「あー、やっぱり寝ちゃったか。しかもかなり初期段階から」


 私は少し寝ぼけた目で足元を見ると、ブランケットが掛けられていた。


「あれ? ブランケット掛けてくれたの?」


「ああ。寝相悪くてパンツ見えてたからな」


「え、ウソ!?」


「ウソだ。うわっ」


 私はブランケットを思いっきり投げつけた。

 自分でも顔が赤くなっているのがわかる。


「そういうところが暴力的だって言ってるんだ」


「そんなこと言って。本当は私のスカート、下から覗いてたんじゃないの?」


「ば、馬鹿言うな。俺はクマのキャラクターとか書いてあるパンツに興味はないぞ」


「そんなお子様のヤツ、履いてないわよ!」


 何かを投げつけたかったが、手元にはもう何もなかった。


「それにしても熟睡だったな。どこまで覚えてる?」


 私は必死に思い出す。

 確かに記憶が断片的だった。


「んー、最初に会議のシーンやってたでしょ? そのあと男女で口論してたよね」


「そのあとの事故のシーンは?」


「え、何? そんなのあったっけ」


「そこからかよ」


 どうやら想像以上に初期段階からだったみたいだ。

 なんだか少しだけ、申し訳ない気持ちになった。

 でも眠たくなるような映画の内容にも、問題があるよね?

 私は小さく伸びをする。


「なんだかこんなにいいシートだったのに……もったいなかったな」


「それは仕方ない。俺の映画のミスチョイスだ」


 二人ゆっくり立ち上がって、出口へ向かう。

 映画館を出て1階へ向かい、ビルを出た。


「和食ファミレスは、ここから歩いてすぐだ。お腹すいてるか?」


「うん。よく寝たら、お腹すいたかも」


「普通はよく運動したら、だけどな」


 そんな軽口をたたきながら、彼は歩くスピードを小柄な私に合わせてくれている。

 ちゃんとデート慣れしてるなぁと、変に関心してしまう。

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