No.07:マカロン


 私はテリヤキバーガーにかぶりつく。


「あー、美味しい」


 安定の味だ。

 やっぱり濃い目の味付けは、美味しいと感じる。


 宝生君もビッグマクドを大きな口を開けてかぶりついていた。

 やっぱり男の子は、あのサイズを一口でいけるんだな。


「どう?」


「普通だな。冷凍肉の味がするぞ」


「冷凍パテだからね」


 いったい彼が普段どんな物を食べているか、興味がでてきた。

 いや、聞いてしまうと我が家の食卓が余計に貧相に思えるからやめておこう。


「しかし安いな。このセットで700円前後ってことか」


「そうね。でもそんなもんじゃないかな」


「当然回転をあげなきゃ、ビジネスは成り立たないわけだな」


「そういうことね」


 一通り食べ終わると、宝生君は周りをきょろきょろと見渡し始めた。

 そしてある一角に目を留めた。


「あれは何だ?」


 私は彼の視線の先を追う。


「ああ、マクドカフェね。あそこはカフェメニューを提供してるの。コーヒーはエスプレッソマシーンで淹れたコーヒー。その他にもケーキとかあるわよ」


「ちょっと見てきていいか?」


「うん、もちろんどうぞ」


 彼は早速マクドカフェのコーナーへ向かった。

 メニューとか、ウインド内のケーキ類を眺めている。

 しばらくすると店員さんに話しかけ、何かを買ったようだ。

 紙袋を持って、こちらへ帰ってきた。


「ほい」


 手に持っていた紙袋を、私に手渡す。


「何、これ?」


「マカロンだ。ちょっと食べてみよう」


「へー、マクドカフェのマカロンなんて、食べたことないや」


 そもそも私からしたら、マクドカフェでさえ高級の部類に入る。

 ちょっとお洒落な雰囲気が「貧乏人お断り」と言われているような気がする。

 まあ多分、私の被害妄想だと思うけど。


 私は紙袋の中から、マカロンを取り出した。


「ラズベリー味と、期間限定の抹茶味だそうだ。好きな方を取ってくれ」


「んー、じゃあやっぱり期間限定に弱いから、抹茶を頂いていい?」


「ああ、もちろん」


 私はラズベリー味の方を、彼に渡した。

 2人でマカロンを口にする。


「あー、抹茶が濃くて美味しい」

「うん、悪くないな」


 抹茶の風味が、鼻から抜けていく。

 そしてさわやかな甘さが、口いっぱいに広がる。


「あー、なんか幸せ」


「大げさだな」


「大げさじゃないよ。私、普段は外食とかほとんどしないから」


「そうなのか?」


「そう。まあ主に経済的な理由なんだけどね」


 マクドのセットに、マカロンのデザート付き。

 おやつにしては、かなりの贅沢だ。

 夕飯、お腹に入るかな……。


「でもさすがにマクドだな。本当に店作りが面白い」


「そうなの?」


「ああ。マクド本体は、若年層とファミリーがメイン顧客だろ? ところがカフェの方は、明らかにF1層を意識した品揃えだ」


「F1層って?」


「マーケティング用語なんだが、20歳から34歳の年齢層の女性のことだ。その年齢層の独身女性は比較的経済的に余裕があって、購買力が高い。だからカフェの方の客単価は明らかに高いが、それでも客は来る」


「ああ、なるほど」


「マクド本体とターゲットがカブらずに、相乗効果が生まれる。それに女性が集まるところには、自動的に男性も集まる。本当によく考えられている」


「そうなんだね」

 私は感心して、耳を傾けていた。


「一方で徹底的に効率化されているんだろうな。この動かない椅子にしたってそうだ。フロア担当の店員が、椅子を元に戻す手間が省ける」


「あ、そうか」

 私は言われて、初めて気がづいた。


「いつもそんな風に考えながら、外食してるの?」


「ん? いや、どうしても気になるってだけだ。そもそも俺も、あまり外食しないぞ」


「そうなんだ」


「でもせっかく無料クーポンがあるわけだしな。これから時々来るのもいいかもしれない」


「そうだね。使わないともったいないよ」


「……お前……いや、月島も一緒にくるか?」


「えっ?」


 思わず彼の顔を見てしまった。

 バツが悪そうに、少し視線を下げて照れくさそうな表情だ。


(ちょ、ちょっと……なんなのよ……)


 そんな顔されると、こっちだって困るんだけど……。

 私は自分の頬が熱くなるのを自覚する。


「わ、私もバイトとかあるけど、時間が合えばつきあうわよ」


 そんな風に答えていた。

 それに彼が無料クーポンを持っている。

 私も彼も、お財布は傷まない。


「そうか、それじゃあまた連絡するな」


 少しはにかみながら、それでも嬉しそうな表情で彼はそう言った。

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