花火

天野 帝釈

戦禍の村

昔からひもじい思いをしていた。


戦だなんだのとこの世のお大名やとっくの昔に里を捨て、足軽となった若ぇ男衆の考えはわからねぇ。


おミツには金にくらんで戦に赴く男衆が飛んで火にいる夏の虫に見えた。


確かに相手の首をとったり働きが目に付いてどっかのお殿様のお抱えになりゃ大出世の絶好の機会であるし、

落ちている骸から戦後にひょっこり戻って金目の物をはぎ取るのも良いだろう。


でも家族を放って戦に命を懸ける意味が解らなかった。


おかげでこの集落には男が年寄り以外にすっかりいなくなり、

女達もこれではおまんま食えねえと、山を下って働き口を探すか、よその村へと嫁ぎに行った。



しかし、戦が白熱し、負け戦から逃れてきた者達が野盗となり、

近隣を襲うようになってからはもう地獄のようだった。


ほんの少し残った住人も男は殺され、女子供は好き勝手されて売り飛ばされた。


まずは近隣の村でそんな騒ぎが起こったもんだから、

お蜜の村の住民は山の奥へ奥へと向かって行って、ちんまりとした村を作った。


それでも自然は厳しいものなので、村の者達は体の弱い者から死んでいった。


ついには村とも呼べないくらいの少人数になって、おミツは目の見えぬ婆様とひっそりと生きている。

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