第24話 シルバーウルフの最期!
最下層から階段を上がってくると、小島を囲むようにクラーケンが待っていた。順番は逆になるが宝箱の中身を手に入れていたので、ダンジョンボスであるクラーケンを倒すことにする。
フライで上空に飛び上がり、光魔術の初級魔法であるシャインアローを並列起動してクラーケンに放つ。
あっ、魔力を込めすぎたかな……!?
シャインアローは光の矢を放つ魔法だが、魔力を込めすぎたのかレーザービームみたいになってクラーケンの体を貫いてしまったのである。
十二体いたクラーケンは崩れ落ちるように倒れていく。
くぅ~、後味が悪すぎるぅ~。
ダンジョンボスを倒したのに、攻略とも呼べない戦闘に寂しさと虚しさを感じたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
俺は落ち込みながらも倒したクラーケンをアイテムボックスに収納した。
その場にいて別の魔物が襲ってくるのも嫌なので、すぐにフライでミーシャ達のいる砂浜に戻ることにする。それほど急ぐ理由もなくなったので、ゆっくりと飛んで移動を始めた。
ゆっくり飛んだから十分ほどで砂浜が見えてきた。遠目スキルでミーシャ達の姿を確認して驚く。
砂浜周辺の海上には海の魔物がたくさん浮かんでいた。砂浜にも倒されたと思われる魔物がたくさん転がっていたのだ。
そして俺の目には砂浜でミーシャが青白く光る何かに縋りついているのが見えた。
シ、シルはどこだ!
俺は速度を上げて砂浜に向かいながら、シルの姿を探したが見つからない。自分でも驚くほど焦って、速度を上げて砂浜にまで飛んでいく。
「ミーシャ、シルは!?」
ミーシャのすぐそばに降り立つと、焦ってミーシャに尋ねた。ミーシャは青白く光るものに縋りついて泣いていた。
「テンミャ~、シル、シルがぁ、グスッ」
よく見ると青白く光るそれがシルだと気付く。
う、嘘だろ……。
周りには大量の海の魔物が転がっていた。ミーシャとシルだけで倒せたのかと驚くほどの数だ。その中にはボロボロになったクラーケンも混じっていた。
くっ、俺は何でミーシャ達だけここに残したんだ!
自分を責めながら青白く光るシルに歩み寄る。俺は涙を流しながらシルに優しく触れる。
シルは死んでもモフモフであったかいよぉーーー!
モフモフに意識が持っていかれそうになる。
んっ、いつもよりシルモフがモフモフしている?
俺は疑問を感じて、シルの全身を細かく確認する。
怪我なさそうだけど……。魔物に倒されたんだよなぁ?
「ミーシャ、シルはどうしたんだ?」
ミーシャに尋ねると、涙を拭いながらクラーケンの亡骸を指差した。
や、やっぱりクラーケンにシルはやられたのか!
「ま、魔物をシルと一緒にマッスル弾で倒してた。最後にそいつが出てきて……グスッ」
ミーシャ達はマッスル弾が使えるのぉ~!
マッスル弾をミーシャ達が使えることを俺は知らなかったので驚いた。でもマッスル弾を使えてもシルはクラーケンにやられたのかぁ……。
そんなことを考えているとミーシャは鼻水をすすり、続きを話した。
「ズズッ、私がそいつを倒すと、シ、シルが、グスッ」
シルがどうしたんだぁ!
「シルが、シルが食べ始めたのぉ~」
……な、なんて言った? 食べ始めただとぉーーー!
もしかしてシルの毒耐性を超えるような毒をクラーケンが持っていたのか!
「ど、毒でやられたのか?」
「わ、わがんにゃい。シルはそいつの魔石も、グシュッ、バリバリ食べたら、こんにゃふうににゃってぇ。わ~ん!」
くぅ~、食いしん坊が原因で死ぬなんて、シルらしい最後だぁ~!
俺はシルをもう一度優しく撫でてやる。するとシルは先ほどより強く光って、すぐに光が消えた。
魂の光が消えてしまったぁーーー!
俺はさらに涙を流してシルを撫でる。モフモフは至高の領域に上り詰めたようだ。死んでも俺のために最高のモフモフを残してくれたのだろう。
『んっ、テンマおはよう!』
シルへの思いが強いせいか、聞こえないはずの念話が聞こえてきた。
『ぼくお腹減ったよぉ~。なんか食べさせて?』
シルは死んでも食いしん坊……、俺を舐めるんじゃねぇ!
念話は勘違いではなかった。その証拠にシルは俺の顔を舐めながら、食べ物を要求してきたのである。
「シルゥ~、心配したんだよぉーーー!」
ミーシャがシルの首に抱き着いて叫んだ。
シルが死んだのは勘違いだったんだ……。
念のために鑑定でシルの状態を確認してみる。
……な、な、何で種族がフェンリルやねん!
シルのステータスを確認すると心の中で叫んでしまった。
シルの種族がシルバーウルフからフェンリルに変わっていた。レベルも下がり1になっていたが、能力値は前よりずいぶん高くなっていて、スキルも驚くほど増えていた。
うん、深く考えるのは後にしよう!
あまりに予想外過ぎて考えるのが面倒になった。今はそのことに触れずに気持ちを落ち着けよう。
ルームを開いてシルに中でジジに食事を用意してもらうように話した。シルは嬉しそうに尻尾を振り、首に抱き着くミーシャをそのまま引きずって、ルームの中に入っていった。
俺は砂浜や海上に浮かぶ魔物をすべてアイテムボックスに収納してから、ルームに移動したのである。
◇ ◇ ◇ ◇
リビングに行くとシルはミーシャにモフられていた。シルのお腹がぷっくりと膨れているので、すでに食事は済ませたのだろう。
「テンマ、シルは前よりモフモフだよ!」
改めてシルをじっくりと見てみると毛並みは前とは違って見えた。毛は前よりシルバーに近づいた気がする。それにキラキラと輝く毛並みは、光の反射というより体内から溢れ出るような輝きに見える。体の大きさはそれほど変わらないし、顔つきも変わっていない気がする。
鑑定しなければ、種族が変わったことに気付かなかったかもしれない。
何だよそのスキルは……。
俺は心の中で呟いた。増えたスキルは種族特有のスキルもあり、知らなかったスキルも多い。
け、検証したいよぉ~!
初めてみるスキルも気になったが、それ以上に種族が変わった原因のほうが気になる。フェンリルがシルバーウルフの上位種であることは、研修施設の図書館で読んだ本で知っていた。でも上位種に種族進化することは本にはなかったのである。
「テンマ様も食事にしますか?」
シルを見つめながら考え事をしていたら、ジジが尋ねてきた。
笑顔で尋ねたきたジジを見て、少し気持ちが落ち着いた。そしてもっと気持ちを落ち着けて考えを整理しようと思ったのである。
「食事よりジジ膝枕をお願いしたいなぁ?」
ジジは少し驚いた表情になったが、すぐに笑顔で頷くといつもの場所に移動して座った。もちろん俺もジジについていき、ジジが座ると彼女の太腿に頭を乗せていつもの体勢になるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジの膝枕と優しい手で頭を撫でられて、さらに気持ちが落ち着いた。そしてゆっくりと考えの整理を始めるのだった。
ミーシャから聞いた話では、シルと一緒に大量の魔物を倒したのは間違いない。そして最後にクラーケンを倒して、それをシルが食べた。それもクラーケンの魔石まで食べたのだ
シルが種族進化したとすると、進化の原因は二つ考えられる。
一つは経験値がある程度溜まると魔物はレベルアップ以外に種族進化するということだ。
もう一つは魔石を食べることで種族進化するかもしれないということだ。
前世でのゲームで登場する魔物も、そのどちらかで進化する設定もあった。他にも進化の実のような種族進化させるアイテムなどもあった気がする。
ミーシャの話を聞いた感じだとシルは魔石を食べたことで、種族進化した可能性が高いと思う。しかし、さらなる検証をしてみないと断定はできないし、他にも進化条件があることも考えられる。
それほど焦って検証する必要もない。ハル衛門やリディアに話を聞いてから検証を始めても問題ないと考えた。
そして一番気になっていることを考え始める。気になっていたのはシルが種族進化して手に入れたスキルのことであった。
スキル名称から戦闘系や魔術系、種族系など色々なスキルが増えていた。そしてその中で一番気になったのは……、人化スキルだ!
人化スキルはリディアも持っているので当然知っている。
気になったのは……、シルがどんな姿になるのかだ!
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