第6話 隠れた魅力?
バルドーさんに早めにこの地を去ることを考えていると話すと、残念そうな表情を見せた。
「確かに食事は辛いですなぁ。何とかしないと聖地として相応しくありませんからなぁ」
聖地化計画がバルドーさんの頭の中では進み始めているようだ。
「聖地化が終わればバルドーさんとはお別れですねぇ」
バルドーさんは色々危険を感じたこともあるが、頼りになるのも間違いなかった。残念ではあるけど仕方ない。
「お待ちください! 聖地候補ではありますが、まだ決定ではありません。テンマ様と旅を始めて僅かの間にこのような地が見つかったのですよ。まだ見ぬ素晴らしい候補地があるかもしれません。私はまだ暫くテンマ様と旅をするつもりです。それに聖地に共に過ごすような人々を更に各地で見つける必要があります!」
バルドーさんの聖地化計画は予想以上に壮大な感じのようだ。
「そ、そうなの……。頑張ってね!」
あまりその事で深く話すのが恐ろしい。そう言うと逃げるように漁に向かった。
「はい! …………それに聖地にテンマ様も必要ですから」
後ろで大きな声でバルドーさんが返事したのが聞こえたが、最後の小さな声は聞こえなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
午前中はマッチョーズと海辺で漁をすることになった。気合を入れて銛を手に海に入ろうとするマッチョーズを止める。
「水に触れない位置まで下がってください!」
マッチョーズは戸惑いながらも指示に従ってくれた。マッチョーズが水辺から完全に離れてたことを確認すると雷魔法を数度使う。
すぐに大量に魚が浮いてきたのでマッチョーズに指示する。
「魚は死んでないはずです。止めを刺して回収してくれ!」
そう話すと先頭になり魚を絞めては収納に入れる。マッチョーズも戸惑っていたが、すぐに作業を始めた。
魚の種類も豊富だが、貝類や甲殻類、それにタコやイカなども大量に獲れる。場所を変えて何度も同じことをする。自然と作業の流れができてきた。
魚しか取らない彼らは、カニやタコ、イカなどを嬉しそうに収納する俺を変な目でみていた。それでもそれらを回収しては俺に渡してくれた。収穫量も多かったので、すぐに魚も俺に預けてきた。
そうなると俺は貝類や海藻類を集め始める。結界魔法で水中に入って取り始めたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
予想以上の収穫に昼には村に戻ってきた。村には畑も沢山あったので何を収穫しているのか聞くと大豆などの豆類だと教えてくれた。
あの筋肉は植物性のたんぱく質が主原料なのかぁ。
そこであることを思い出す。
魚と言えば醤油!
醬油製造の魔道具を作った記憶がよみがえる。研修時代の後半では、農業や調味料の製造に凝った時期もあった。だがこの世界でそれらを使うのは抵抗があり、封印していた。しかし、この地なら周りとの交流がほとんどないようだから、別に構わないだろう。
ルームの倉庫から魔道具を出して醤油の製造を始める。
魔道具に大豆や塩を入れて動かす。中には収納や時間加速など様々な効果が付与されており、原料を入れれば自動で醤油が出来上がるのだ。
研修時代に何度も失敗を繰り返したことを思い出す。最初はそれぞれの工程ごとに魔道具を作って何度も試作を繰り返した。そしてダンジョンで死にそうになってから、ゆっくりと時間を過ごすために、小型化や簡略化をして作り上げたのがこの魔道具である。
ついでに味噌製造の魔道具も出して製造を始める。
2時間ほどで出来上がるはずだ。その間に採取した昆布などを錬金術で水分を抜く。
出汁は料理に絶対に必要だ!
研修時代の海には魚や魔物が居なかったので、鰹節などは造ったことはない。いつか時間を掛けて魔道具を作ってみたいと考える。
そして、この地の隠れた魅力を感じ始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジを『どこでも自宅』から呼んで、庭に調理用のテーブルや魔道具を出して本格的に料理の下準備を始める。
ジジに魚の捌き方を教えるとすぐに同じように捌き始める。いつも大量に料理を作っているジジは、さらに料理スキルのレベルが上がったようだ。
松葉カニと見た目の同じカニが大量に獲れたので、カニを茹でて食べてみる。
&$#%&! 前世で食べたカニより美味い!
カニ独特の旨味が口の中に広がり、不思議なほど美味しい。
ジジが興味深そうにしているので、カニの身を食べさせてみる。俺と一緒に行動するようになり、初めての食材でも躊躇せずに食べるようになっていた。
ジジは口に入れた瞬間に目を見開き驚きの表情を見せる。そして頬に手を添えて満面の笑みを浮かべる。
「そ、そんなものを食べて大丈夫なのか?」
料理を始めてからエアル達が俺達の作業を見に来ていた。ドラゴン姉妹は我慢できずにダンジョンへ行ったようだ。
最初は背が届かないので、足元でちょろちょろされて邪魔だった。仕方ないのでテーブルの反対側にエアル達が見学できるように土魔術で段差を作ったのである。
そして俺やジジがカニを茹でて食べる姿を見て驚いたようだ。
「これは茹でるだけでも最高に美味しい。焼いても美味しいし、身をほぐして他の料理で使っても最高だ!」
「見た目はあれですけど、信じられないくらい美味しいです! こんな食べ物があるなんて驚きました!」
ジジはカニの足を手に握りながら喜んでいる。俺はカニの足を食べやすいように処理をして、エアル達に手渡す。
うん、娘にカニの身を食べさす親の気分だな……。
エアル達は恐がりながらもカニ足を手に取る。俺は見本を見せるようにカニ足を口の中に入れて身をチュルンと食べる。
エアルは中々口の中に入れなかった。それでもエリカが先に口の中に少しだけ入れて食べた。
「んはぁーーー!」
エリカは変な声を出して、エアルやエリスが心配そうに様子を窺っている。そしてエリカは残りの身をチュルチュルと必死に吸い付くように食べ始めた。
うん、初めてのカニを娘に食べさせた気分だぁ~。
エリカは自分の貰ったカニの足が、それ以上食べられないと分かると、まだ食べていないエアル達に尋ねる。
「お母様、お祖母様、食べないならそれを下さい!」
エリカに尋ねられ、2人はようやくカニ足が美味しいのだと気付いた。それでも怖がりながら少しだけ食べる。それからは先程のエリカと同じ行動を始めたのだった。
俺は追加でカニを茹でて提供する。なぜかジジまで食べ始め、いつの間にかアンナまで参戦していた。
仕方ないので夕食はカニと魚を煮た鍋にすることにした。鍋は昆布でだしを取り、醬油ベースと味噌ベースでたくさん準備する。
少しするとジジが落ち着いたのか手伝いに戻ってくれた。
「この味も初めてです!」
ジジは醤油や味噌の調味料に驚いたようだ。生姜を在庫から出して、オークの生姜焼きを作ってやると味見して必死に覚えている。
料理を作っては収納して大量に料理を確保する。
「テンマ様、暫くこの村で過ごしながら、この料理をいつでも食べられるようにしませんか?」
ジジにそう言われて、俺もこの村の隠れた魅力に気付く。
黒耳長族が料理をまともにしないだけで、最高の食材がたくさんある。まだ刺身や他の魚介類、それに加工する手段も色々ある。出汁を確保するために昆布も大量に欲しいし、小魚で煮干しを作り、鰹節に代わるものも作りたい。
バルドーさんは反対するとは思えないし、ドラゴン姉妹はダンジョンがあるなら不満は無いだろう。
「そうだなぁ。暫くこの村に滞在するかぁ~」
エリカが熱い視線で俺を見ているのは気になるが、それ以外は恐れるものはない。
ジジに料理を覚えてもらい、料理や食材をもう少し確保しようと考えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます