第4話 色々残念な村

リディアは自分が俺の従魔になっていることを自慢気に話した。エリスは信じられないと驚きの表情で俺を見つめ、エリカは更に頬を赤くしてキラキラした瞳で俺を見つめてくる。


俺はもう一度尋ねた。


「他にも仲間たちが居るけど一緒で大丈夫かな?」


「大丈夫です!」


エリカが食い気味に即答してくれた。エリスはそんなエリカを驚いた表情で見つめている。


まあ、色々と気になるが敵対する雰囲気もないから大丈夫かな。


そう考えると、細かいことを気にするのも面倒なのでD研をその場で開いてみんなを紹介する。


彼らはD研の扉を見て驚き、そこから何人も出てくることに驚き、最後にハル衛門が出てくるとさらに驚いていた。


「本当にハル様だ……」


エリスはハル衛門を見て感動している。


「おにいちゃ~ん、耳がみんな長いのぉ~!」


ピピが黒耳長族を見て嬉しそうに言いながら抱きついてきた。俺は優しくピピを抱き上げると頭を撫でてやる。


「ライバルだけど、希望も見えたわ……」


他の皆が騒いでいる中で、呟くように話すエリカが居た。


な、なんか背筋に冷たいものが……。


『やっぱりエクスと同じように耳が長いのねぇ~』


ハル衛門は変なことに感心している。


「これは聖地候補ですね……」


バルドーさんの不穏な呟きは聞かなかったことにしよう!


「みんな揃ったので村に案内してもらえる?」


しかし、エリスが正常に戻るまで、暫く時間が掛かったのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



村は海辺から暫く歩いた場所にあった。


村は静かな田舎という感じで、所々日本の田舎風の建物が幾つも立っていた。古き良き田舎の風景と言った感じで、益々日本食の期待が高くなる。


寺社や武家屋敷のような大きな門を抜けると、庄屋さんの家のような大きな木造の建物があった。


中に入ると畳ではなく木の床だが、履物を脱いで中に入る。奥の部屋にはリディアとハル衛門、そして俺とアンナだけで入っていく。


アンナはエアルの体調が悪いと聞いたので一緒に会うことにしたのだ。


奥の部屋の入口からエリスが声を掛ける。


「お母さま、ドラ美様とハル様が訪ねてこられました」


「な、何じゃと! すぐに通しなさい」


声の感じでは明らかに老婆のようにかすれた声が聞こえてくる。エリスは扉を開いて俺達に中に入るように促した。


中にはエリスやエリカを少し小柄にしたような老婆が、ベッドの上に座っていた。


「なんと、本当にドラ美様じゃ。死ぬ前にまたお会いできるとは、ゴホッ、ゴホッ」


興奮して話して咳き込んだようだ。俺は黒耳長族の事は良く分からないが、きちんと老化するのだと感心していた。


「その姿だと、先は長くないなぁ」


おうふ、リディアさん露骨すぎる表現です!


しかし、エアルは咳が収まると笑顔で答える。


「我々は長命で死ぬ数日前まで成長がとまりますのじゃ。このような姿になったので、明日か明後日までの命でじゃろう。でも、死ぬ前に懐かしのドラ美様に会えるとは、ゴホッ、……それにハル様にまでお目にかかれるとは、私は幸せじゃ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」


エアルはまた苦しそうにまた咳をした。エリスとエリカがエアルの背中を撫でて介抱している。目には涙をため、下唇を噛んで泣くのを我慢している姿が可愛らしい。


アンナが耳元で「老化に回復魔法は……」と話してきた。


『ちょっとぉ~、ハル様がこうやって会いに来て、すぐに死んでしまうのは失礼じゃない!』


おいおい、ハル衛門さんや、いくらなんでもその言い方は……。


『テンマ、私はエアルとエクスの話をゆっくりしたいのよ。何とかしてくれない?』


何とかできるかぁーーー!


「ハル姉、それはテンマ様でも無理だ! 老化に魔法は効かないぞ?」



『魔法は効かないけど、若返り薬やエリクサーなら大丈夫でしょ?』


おお、確かにそれなら効くかもしれない!


でも、人の運命や生死を変えて良いのだろうか?


ウルウルとした目でエリスとエリカが俺を見つめている。俺が迷っているとハル衛門が変な事を言い出した。


『若返りポーションを出してくれたら、リディアのオークカツ貯金の半分を提供するわ!』


なんでお前が胸を張って、他人の貯金を差し出しているんだぁーーー!


「ま、待て、それは卑怯だぞ。ハル姉の分を提供すれば良いじゃないか!」


『何を言ってるのよぉ~、エアルはアンタの知り合いじゃない。私の貯金は出したくないわ!』


「ず、狡いぞ! エアルはエクスの娘だから、ハル姉の知り合いでもあるじゃないか!」


おいおい、お2人さん、食欲と知り合い寿命と天秤にかけるんじゃねぇーーー!


「わかった! 2人の貯金は半分にして若返りポーションと交換だ!」


「『それなら、いらないわ!』」


おうふ、この2人は簡単にオークカツを優先しやがった!


エリスとエリカが泣き出してしまった。子供を泣かしたみたいで俺も辛い。


「期待だけさせた罰として、それならオークカツ貯金は全て没収だ!」


「『じょ、冗談よ! 半分でお願い!』」


こいつらぁ~、食欲以外は何も信じられんなぁ……。


「ということで、はいこれ!」


収納から若返りポーションを出してエアルに手渡す。


「こ、こんな希少なものを……」


エアルは唖然とした表情で受け取った。


「気にしなくても大丈夫。エクスの仲間からの贈り物だと思いな!」


そう話しても暫くは遠慮して飲もうとしなかった。横ではオークカツ貯金が半分になり落ち込む2人が居るせいだろう。


俺が2人を睨むとハル衛門が焦ってエアルを責め始める。


『ちょっとぉ、アンタが早く飲まないから未練が残るのよぉ。いいから早く飲みなさい!』


「そうだ、お前が悪い。早く飲め!」


うん、この2人にはお仕置きが必要だな!


しかし、ドラゴンは反省と言う言葉を知らない気がするぅ……。


見当違いなことで叱られて、エアルは諦めたように若返りポーションを飲んだ。すぐに少し若返ったようだが、副作用なのかエアルは眠ってしまった。鑑定しても問題はなさそうなので、後は任せて皆と合流するのであった



   ◇   ◇   ◇   ◇



村中が総出で歓迎の宴を開いてくれると聞いて、俺は食事に期待する。


ジジも食事に期待しているようで、何が出るのか楽しみにしている。村の広場のようなところで篝火を付けて祭りのような雰囲気に、さらに期待が膨らむ。


そして完全に日が落ちる頃には、数百人以上の村人が集まってきた。そしてエリスが杯を手に持ちながら話し始める。


「皆の者、ここに居るのは我が村の英雄であるエクス様と共に戦ったハル様とドラ美様じゃ。そしてこちらが2人を従えるテンマ様じゃ!」


「「「おおう!」」」


え~と、食いしん坊2人を従えたくはありませんけど……。


「テンマ様には若返りポーションを授けて頂き、エアル様の復調も間違いない!」


「「「うおおおお!」」」


え~と、オークカツ貯金の半分で譲っただけです……。


「久しぶりの楽しい宴じゃ! 全力で皆さんを楽しませるのじゃ!」


「「「フンッ! フンッ! フンッ!」」」


え~と、そのポージングは止めてほしいよぉ~。


3桁のボディビルダーが全力のポージングをされては、暑苦しいから~!


しかし、視界の端に見えているバルドーさんが、見たこともない満面の笑みを見せてる。


それからが地獄の始まりだった。


最初はグループ毎で交互にポージング合戦をする見世物が始まり。料理は海水をかけて焼いた魚か、内臓だけは抜いた鱗もそのままの生の魚が出てきた。酒も怪しい感じのものが出てきたが、まだ若いのでと断った。


そして今度は女性が踊りを披露すると出てきたのだが、子供のお遊戯会にしか見えない。


うん、この村は早く旅立とう!


そう思っていたらハル衛門が露骨に料理批判を始めた。


『これは何よぉ~、こんなものしか出せないの? テンマ、悪いけどオークカツ貯金から私の夕食分を出して!』


「それなら俺の分も出してくれ! ここは相変わらず料理はまずいなぁ!」


ちょいちょい、食いしん坊ドラゴン姉妹さんや、外面だけでも上手いこと合わせてくれよ!


「ピピもこれはイヤァ~!」


くっ、幼いピピは正直になんでも言っちゃうのね……。


喜んで食べているのはシルだけだった。ジジは悲しい顔をしているし、アンナは無表情で一切料理に手を付けていない。


「そ、そろそろ、お開きにしましょうか? 俺達は旅の疲れもありますので、そろそろ寝ようと思います!」


食いしん坊ドラゴン姉妹さんがオークカツを出せと騒いでいる。一緒に『どこでも自宅』に行けば出してやると念話すると、急に今日は疲れたから寝ると言い始めた。すでにジジとアンナは移動する準備ができている。唯一バルドーさんだけは、いつの間にかマッチョーズに囲まれてご満悦であった。


バルドーさんいつものように別行動にしよう……。


「それでは部屋を用意していますので案内します!」


エリカが笑顔で案内してくれた。しかし何故か俺だけ別室にしようとする。


「お、俺達は、同じ部屋で大丈夫です!」


「いえいえ、テンマ様には特別なお部屋を用意していますので、そちらをお使いください!」


そう話すエリカの瞳を見て俺は恐怖する。


ド、ドロテアさんが夜這いを企んだ時と同じ目だ!


「い、いえ、今日はピピと一緒に寝る約束がありますので!」


「チッ」


えっ、舌打ちしたよね!


幼女に見えるエリカさんは、一瞬だけ顔を背けると舌打ちした。


「それでは俺達はこの部屋をお借りします!」


逃げるように部屋に入ると即座に結界を張る。そして全員ですぐに『どこでも自宅』に帰るのであった。

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