100

腰に回された手が私をしっかりと包み込む。

心臓が口から出そうなほどに、緊張とときめきでどうにかなってしまいそうだ。


「と、とにかく上がってください」


動揺を悟られまいと日下さんを部屋へ促す。


狭いワンルームに日下さんと二人きり。

初めてじゃないのに初めてみたいな感覚。


「えっと、仕事中なので待ってもらっていいですか?ていうか、日下さん仕事は?」


「芽生が心配で早退してきた」


「えっ、大丈夫ですか?」


「仕事を放り出したのなんて初めてだ。でも芽生の無事を確認したかったから。こっちの方が仕事よりも大事なことだよ」


そんなことを言われたらますますドキドキが止まらなくなる。今日の日下さんはやっぱり甘いよ。


「隣で待ってていい?」


「いいですけど、つまらなくないですか?」


「芽生が普段どんな仕事をしているのか見たい」


パソコンのモニターには複数のウィンドウにプログラムコードがずらりと並ぶ。調達関係の日下さんとはまったく違う仕事だ。


「システム改修とトラブル対応がメインの仕事ですよ」


「うん。芽生のこと、もっと知りたいから。ここで見てる」


「なんか緊張しますよ。でも嬉しいです」


静かな部屋にカタカタと響くキーボードの音。一度集中し始めると私は仕事に没頭してしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る