後日談  後夜祭 (改訂版)

後日談


後夜祭



いよいよ学園祭もクライマックス、後夜祭のダンスだ。

ここまで本当にいろいろあったなあ…俺は怒涛の日々を思い出していた。



俺の結論を跳ね返し、HKHP3(ハルくんとキス放題プロジェクト、ただし3人のみ)がスタートしてまもなく、学園祭の準備が佳境を迎えた。


当然、生徒会は毎日忙しい。少なくとも俺と香苗は、生徒会長の山口や書記の若原瞳や忙しい女子高生の会計、香田みゆきは皆忙しい。


そこで香苗は若原瞳と話をつけた。チャイムが鳴ってから15分間は、生徒会室に入らない、と。もちろん香田みゆきや他の助っ人、左右田麗奈や雪度マリなどにも根回し済みだ。


その間、若原と山口が何をやってもこちらは関知しない、ということだ。

その15分間を使って、俺と香苗、珠江、希望の3人がHKHP3を開催するわけだ。


放課後、俺はそそくさと荷物を片付けて教室をあとにする。香苗、希望、珠江は皆別々に、しかし手早く教室を出る。そして4人は視聴覚室で落ちあい、二人が外で見張りをする間、俺とキスを楽しむ、というわけだ。移動があるので実質3分程度で、「放題」からはほど遠いが、それでも十分キスを楽しめる。


とろけるような香苗のキスと胸の感触、春のようなあたたかい珠江のキス、そして少しずつ大胆になってくる、さわやかな初夏の風のような希望とのキス。みんな違って、みんないい!


ローテーションが終わると、俺と香苗は生徒会室、珠江は部活動だ。希望は自由行動になる。


また、美女ランチも復活した。場所は教室だったり生徒会室だったり様々だ。

生徒会室でも、いまはいつ誰が来ても不思議はないのでキスはしない。


そのかわり雑談はいろいろした。あるとき、みんなを食事に例えたらどうなるか、という話になり、俺はこう言った。


「香苗ちゃんは部厚いステーキかフルコースの中華料理。すごいボリュームがあっておなか一杯になる。希望ちゃんは気取ったイタリアンかな。トマトとチーズををたっぷり使ってる感じで。食べ続けると胸やけする感じかな。珠江ちゃんは和食かな。ご飯とみそ汁。いつだって飽きずに安心して食べられる感じかな。」


みんな、なんだか微妙な顔をしていた。例えろというから例えてだけなんだが。

そういえば、その時こんな会話もあったっけ。


香苗が俺に聞いたんだ。「ステーキ、イタリアン、和食だったら何を食べたい?」って。

俺はちょっと考えてこう答えた。


「そうだな。一週間で考えると、ステーキは週に一度、イタリアンは二度、和食は三回かな。あと一日は、気分で決める感じで。」


別に変なことを言ったつもりはなかったのだが、なぜか場が白けた。食事の好みなんて人それぞれなんだし、いいじゃないかと思う。


さて、学園祭前には生徒会の仕事が山のように存在する。


部屋割りの最終確認、備品の貸出申し込みの受付と在庫確認、受付の当番の割り振り、クロークの設置、歓迎の門の作成、パンフレットの校正、保健所の届け出(飲食店やるのには必要なんだよ、知ってたか?)、来賓用の靴袋、スリッパの準備、下足札の作成、案内表示の作成、アナウンス当番表の作成、生徒会室当番、インカムの手配(携帯電話でもいいが、インカムのほうが効率的なのでレンタルするのだ)、体育館の音響や照明のチェック、ドア係の指名、司会の原稿… とにかく、やることは山のようにあった・。



また、準備を手伝ってくれた連中も、必ずしも本番当日に手伝ってくれるわけではない。

文芸部の部長の左右田麗奈は部の展示がある。雪度マリはクラスで演劇をやるのでスタッフとして狩りだされている。


とにかく、人が足りない。

俺は単なる助っ人でしかなかったが、いつの間にか、助っ人を束ねる役割になっていた。


「君は外人部隊の部隊長だよ。」生徒会長の山口は俺に軽く言ってきた。



「外人部隊をスカウトしたのは、大部分が三重野君だよね。そうしたら、彼ら、彼女らに言うことを聞かせられるのは君しかいないよね。」


ものすごい正論を言われてしまった。

どうせなら山口がやればいいのに。生徒会長なんだから。

俺はそう思った。


「あ、わかっていると思うけど、僕は到底無理だよ。僕の仕事を肩代わりしてくれるなら別だけど、校長とか職員会議、PTA会長なんかへの説明、君がやってくれるかな?」


ごめんなさい僕が悪かったです許してください勘弁してくださいマジ無理ですお願いします。

心の中でそう言いながら、

「さすがに、それは仕方ないな。」


俺は言わざるを得なかった。


結局、外人部隊の中で、一番役立ったのは、経験者集団だった。


なんと、左右田勝男をはじめとする五人パシリが、三年生であるにも係わらず全面協力してくれたのだ。


「本当に良かったのか?」俺は左右田勝男に尋ねる。 


俺たちは学校の先輩後輩というよりは共通の敵に対抗する戦友という立場なので、タメ口だ。左右田勝男がそれを望んだためだ。


「恩人に敬語を使われるのは落ち着かない。」左右田はそう言ってくれた。まあ、逆の立場なら俺もそう思うかもしれない。


人手五人、しかも経験者とくれば本当に鬼に金棒だ。

俺の気づかなかったところまでいろいろ指摘してくれて、マジ助かった。


臨時の更衣室の中に衝立を置けとか、天気がよければ天幕の準備は前日にやれとか、下足蕃のための札は色を変えた通し番号を打っておけとか、ゴミ袋はいろんな用途があるからできるだけたくさん用意しろとか、とにかく経験に裏打ちされた貴重なアドバイスを山ほどもらった。



しかも、当日もインカムをつけて走り回ってもらった。


「こちら三重野。受付に欠員発生。二年C組の担当が来ません。どうぞ。」

「左右田、受付に向かう。どうぞ。」

「雪度、放送室に向かう。どうぞ。」


後者は、雪度マリの兄、雪度圭太だ。五人パシリの一員として文字通り走ってくれた。」


こうして、細かなものはさておき、大きなトラブルや事故はおきずに、後夜祭までこぎつけたのだ。


後夜祭については、二年生関係者ご苦労様、という意味をこめてなのか、一年生の有志が仕切ることになっている。その連中が、翌年の生徒会の中心メンバーになっていく。


とりあえず今年もその伝統は守られているようだ。


後夜祭は、有志が演芸などをし、キャンプファイヤーをつける。

キャンプファイヤーと言っても、実は防災の観点から火はつけない。

張りぼての火の形を作って、下から照らしておくだけだ。


それでも結構雰囲気が出る。


演芸は、一発芸やバンド、漫才などいろいろだ。


プログラムには書いていなかったが、残念少女の白石真弓が、歌を歌っていた。驚くほどうまい。これで彼女にもファンができるといいと思う。


キャンプファイヤーが点灯され、後夜祭のクライマックス、オリジナルダンスの時間だ。


これは、秀英高校に伝わる、独自のフォークダンスみたいなものだ。

原則として男女ペアで踊り、一曲ごとにパートナーを変える。

短めの曲で、全部で四曲かかる。 ラストダンスを誰と踊るか。 もちろんそれがカップルへの道につながるのだ。


俺の周りには、希望、香苗、珠江の三人がいる。

一曲目。俺は香苗と踊った。 もともとフォークダンスみたいに、手をつなぐが密着はしないでいい。だが、お互いの盛り上がりにより、密着もできるという、便利な踊りになっている。 この辺は先輩たちの血と汗と涙と下心の結晶と言えるだろう。


果たして、黒髪ロングのクールビューティー生徒会副会長の香苗は、俺に巨乳を押し付けてきた。俺は楽しいが、周りが見たらどういうだろう。


香苗に聞いたら、「暗いからわからないわよ。何か言われても、見間違いでしょ、と言えばいいの。」そういっていきなりキスしてきた。さすがにこれはやりすぎ…かと思ったら、まわりのあちこちで抱き合ったりキスしている。


みんな、お盛んだなあ。 去年の俺はもともと後夜祭に出なかった。ぼっちだしね。



二曲目は、スポーツ少女の珠江と踊った。香苗と違い、髪の毛がショートカットなので、顔が隠れない。なのでキスできないかと思ったのだが、しっかりキスしてきた。ただ、香苗ほど大胆じゃなかったな。やはり、恥ずかしいんだろう。その恥じらいも可愛いね。

キスしているときに目を開けたら、向こうから白石真弓が俺たちを見ていたが、気づかないふりをした。


三曲目は、アイドル級美少女の希望(のぞみ)と踊る。

希望はなかなかのテクニシャンで策士だ。離れて近付くのを繰り返しつつ、近付いたらしっかりキスをする。くっついたり離れたりするのも意外にエロい。ほんの0コンマ5秒くらいでキスして舌を入れるのはすごい荒業だと思う。


ちなみに、希望、香苗、珠江の三人は、俺と踊っていないときは、他の男とは踊らず、お互いに女同士で踊っていた。香苗が珠江に無理やりキスしているように見えたが、多分気のせいだ。


そして、最後の曲になった。ここは意図的にインターバルばある。

俺の前に、香苗、珠江、希望の三人が並んだ。


黒髪ロングのクールビューティーの香苗は、今日も美しい。色白なので、夜でも顔が綺麗に見える。冷たうも美しい。一つの芸術だな。暗いから目立ちにくいが、素晴らしい巨乳だ。俺は彼女の胸の感触を自分の胸で何度も堪能させてもらっている。


アイドル系美少女の希望は、今日も可愛らしい。

髪の毛は明るい栗色のボブカットで、綺麗にウェーブがかかっている。

目は大きいが、少し垂れ目だ。だが、それがいいという男たちも多い。

目元の泣きぼくろがチャームポイントだ。鼻筋はもしっかりっている。

絶対アイドルという言葉がふさわしい。。十人が十人、あの子は可愛いというだろう。


そしてスポーツ系美少女の珠江。ショートカットがよく似合う元気娘だ。彼女を見るだけで、自然と笑みがこぼれるし、元気をもらえる。彼女を一目見るだけで、一日が楽しくなる。ずっと見ていたら、ずっと楽しくなる。そんな素敵な美少女だ。


俺は、三人の顔を順番に見た。

そして言う。


「今日はありがとう。またあとでな。」


そう言って、急いで動きだす。

三人も、あわてて俺のあとをついてきた。


時計台の方向にまっすぐ歩いていくと、その先に残念少女の白石真弓が一人で立っている。

残念少女、というのは性格のことであって、外見は決して悪くない。この三人、あるいは原中理恵(四大美女の1人)がいるのでかすんでしまうわけだが。


俺は先日彼女に告白され、きっちりとお断りした。そんな間柄だ。


俺が近付いてい来るのを見て、白石が驚いた顔をする。

そして、驚きながらも笑顔を見せた。


俺は、白石に声をかける。


「白石。」


白石真弓は飛び上がって答えた。

「ひゃい!」


「何だそれは。」俺はそういって笑う。

白石真弓も、つられて笑う。


俺は、白石に告げる。





「白石、悪いけど、そこをどいてくれ。待ち合わせ中なんだ。」


そう言うのとほぼ同時に、俺に声がかかった。


「お待たせ!」


待ち人来る。

すぐに音楽が始まり、俺たちは踊りだした。


「ラストダンスを私にくれて、ありがとう。お兄ちゃん!」

「いや、笑美のためなら当然だよ。」


俺たちは会話する。ラストダンスは、兄妹で踊る、と前から決めていたのだ。


ちょっと離れたところから声が聞こえる。

「あーあ、やっぱり持っていかれたな。

と、悔しそうな香苗の声がする。」


「笑美ちゃんとは結婚できないんだし、許してあげましょうよ。」

弁護するような珠江の声も聞こえる。


「白石さん、振られた者どうし、踊りましょう。」希望の声がする。

「私は、何度振られるのかしら…せっかくもう忘れたつもりだったのに。」と、白石真弓のボヤキ声も流れていた。



「珠江、さっきの続きよ。」何となく楽しそうな香苗の声もする。

「違う扉が開きそう…」珠江のか細い声が聞こえた。



暗闇を張りぼての明かりがゆるく照らし、スローな曲が流れる。

俺と妹の笑美は、仲良く抱き合いながら踊り、最後に軽くキスをした。


「お兄ちゃん、ありがとう。」笑美が言う。


「どういたしまして。楽しかったよ。」俺も答える。


「続きは家でね!」笑美は小声でそう言って、手を振って走っていった。


「これで、秀英高校の学園祭の演目は、すべて終了しました。皆さま、お疲れ様でした! 夜道は気をつけてお帰りください。」


司会が言うと同時に、花火が空に上がった。

そんなに高くはないが、綺麗なロケット花火だ。まるで流れ星のようだ。


花火に見とれていると、突然誰かにキスされた。


だが、暗闇の中なので、誰だったのかわからない。

まあいいや。 これからも、三人とはキス放題なんだからな。


とりあえず、後片付けは一年生に任せて帰ろう。




…そう思った瞬間、手を引っ張られた。

引っ張ったのは香苗だ。希望も珠江も一緒だ。


「ハルくん、まさか帰るなんて言わないわよね。」香苗が凄む。


「さっきは人目があるから、あまりできなかったしね。」珠江も言う。


「さあ、HKHP3,ハル君とキス放題プロジェクト、ただし三人のみ、の延長戦の始まりだよ!」

希望がそう宣言する。



そして俺たちは、体育倉庫の裏にまわり、延長戦を楽しむのだった。



--

ぼっちの俺に学校中の美女がキスを求めてくる件  もはやキスソムリエを名乗ってもいいですか?  完


ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。


次ページより、新章、あるは続編のご紹介です。

もう少し、おつきあいください。

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