秋乃は立哉を笑わせたい 第14笑
如月 仁成
予告編 鉄人の日
~ 六月十三日(日) 鉄人の日 ~
※
もう好きにしてくれ
人には。
得手不得手というものがある。
「……意外だな。立哉さんは、鉄のハートを持っているのに。こういったものは得意だと思っていた」
「相手による」
そう。
俺は、こういったゲームは得意だ。
いつも、誰かの顔色をうかがいながら暮らしてきたからな。
相手の心境だとか誘導したい方向だとか。
手に取るようにわかる。
だが。
「そだね。おにい、さっきからずっとお手玉じゃん」
「俺を昭和のおもちゃみたく言うな」
「……昭和より遥か昔から存在すると思うがな、お手玉」
「せめてジャグられてるとか現代風に言ってくれ」
「中学生女子におもろいようにジャグられてる」
「……いい大人が、情けないほどジャグられてる」
「勘弁して下さい」
降参の一言に。
どっと湧きあがる笑い声。
凜々花が、どうしてもやりたいからと。
集めてきた女友達、七人。
俺は。
その全員の思惑を完全に掌握していた。
……でも。
「ちきしょう! 苦手だあ!」
ああ、そうさ。
苦手なんだよ。
自分が勝つために。
凜々花に誘われて、家に遊びに来てくれるような子たちを騙すことなんて。
「じゃあ、負け続けの俺が罰ゲームとしてみんなに美味しいお菓子作ってあげるから。残ったみんなでもう一戦やってなさい」
「えー!? おにいが抜けるとヤダ!」
凜々花の言葉に。
みんなは、そうだそうだと俺を引き留める。
「気持ちは嬉しいけど、もう勘弁してくれよ」
「だってこんなチョロジャグおとうふハートがいなくなったら、凜々花勝てなくなる!」
「……ほんともう勘弁してくださいお願いいたします」
おとうふハートからの一生のお願いです。
――これは。
相手を騙してなんぼのゲーム。
人狼。
でも、俺にはただの。
手汗と申し訳なさがだらだら垂れ流しの拷問タイムでしかない。
凜々花のために遊びに来てくれるような子たちを騙すことなんて。
俺にはできないんだ。
そそくさとキッチンに逃げ込んで。
スポンジケーキに生クリームを塗り始めると。
小窓越しに、リビングから。
みんなのひそひそ声が聞こえた。
「それにしてもさ! お兄さん、ほんと分かりやすかったね!」
「うん。視線がスイスイスイミングしてんだもん」
「でも、真央ちゃんに突っ込まれた時だけだよね、そんなんなってたの」
「そうそう! 自分が狼だってガチ白状した時はビビった!」
「なんで? 真央たん綺麗だからゲロったん?」
「真央たんに一目ぼれ?」
「……それはないと思うが、もう苛めてあげるな」
「どうして? はるっち、なんか知ってるの?」
「……複雑な心境だ。これを喜んだものか嘆いたものか」
「何の話よ?」
「……真央の髪が、飴色のロングだという話だ」
こらこら。
人の心の中を適当に推理するんじゃありません。
凜々花のために遊びに来てくれるような子たちを騙すことなんてできないんだ。
さっきからそう言ってるじゃないか。
俺が騙せるものは。
せいぜいおれ自身。
あくまでも。
誰が誰に似てるとか。
そんな感情は一切ありません。
さあ、しっかり包丁を握り直さないと。
さっきから手汗で滑りまくりだよ。
やれやれ。
明日も、似た様なことやらされるんだよな。
いったい。
どうなることやら…………。
「ねえ、お兄さん。真央の分、イチゴ多めにしてね?」
「よしきた」
……ほんと。
大丈夫かな、俺。
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