第144話 再会 3 〜メイノーマ〜


 メイノーマは、ジューネスティーンの目の前に立った事もあり、そして、メイリルダ以外では年頃の女性と近い距離で話す事が無かったので、ジューネスティーンは少し恥ずかしそうにしていた。


 しかし、メイノーマは、そんなジューネスティーンの様子など気にする事なく後ろに隠れているシュレイノリアを気にしていた。


 メイノーマは、人見知りをするシュレイノリアをジーッと見ていると、シュレイノリアもメイノーマを、時々、確認するように見るが、見て視線が合う度に直ぐ視線を外してジューネスティーンの背中に顔を埋めてしまっていた。


 一方、メイノーマは、そんなシュレイノリアの様子が面白く思った様子で、徐々に顔を近づけていくのだが、それは、ジューネスティーンにも顔が近付いていくので、ジューネスティーンとしたら年頃の女性であって、そして、初めて見る亜人であるメイノーマを見て恥ずかしそうにしていた。


 ジューネスティーンとしたら、年齢的にも容姿的にも魅力的に写っていたのだが、メイノーマはシュレイノリアに夢中でジューネスティーンの表情まで気が付かなかった。


 シュレイノリアは、メイノーマを確認するために顔を上げるのだが、その都度、ジューネスティーンの逆の肩から顔を上げるので目の前をメイノーマが顔を左右に振っていた。


 目の前でメイノーマの顔が左右に動くのだが、それは徐々に近付いていたので、ジューネスティーンは、目の前に動く可愛い笑顔の若い女性の事が恥ずかしい。


 その様子を見ていたセルレインが、後ろからメイノーマに近づくと、一瞬でメイノーマの頭を鷲掴みにした。


「ぎゃっ! つ、つ、い、いた、痛い、よ!」


 メイノーマは、突然自分の頭を掴まれて驚いた事もあるが、剣を扱うセルレインの握力は強かったため、掴まれた頭に自分の手を持っていき引き離そうとするのだが、その手は簡単に取れずに、そのまま頭を引き上げられてしまった。


 そして、後ろを向かされると、メイリルダの目の前に怒気を含んだセルレインの顔があった。


「何している?」


 セルレインは、鋭い視線をメイノーマに浴びせ怒気を含んだ低い声でメイノーマに語りかけた。


 セルレインとしたら、子供であろうと初対面の相手に失礼な態度は取らないし、今回はギルドからの依頼された護衛対象なのだから、近所の子供達と遊ぶような態度をするメイノーマに怒りを覚えていた。


 セルレインが怒っていることに気がついたメイノーマは、自分が調子に乗りすぎた事に気がつき、頭の痛みと失敗したという表情の入り混じった様子で、わずかに目に涙を溜めてセルレインを見た。


「ご、ご、ごめん。ご、めん、な、さい」


 それを聞くと、セルレインの表情から怒りが消えメイノーマの頭から手を離した。


「痛いよぉ」


 離した瞬間、メイノーマはポロリと言ったので、それもセルレインには気に食わないといった様子で睨んだ。


「当たり前だ。場所をわきまえろ!」


 メイノーマは、仕方なさそうにし掴まれた頭を両手で覆いながらウィルザイアの近くに行った。


 ウィルザイアは、メイノーマの自業自得だとは思ったようだが、鷲掴みにされた頭を本当に痛そうにして涙目になっている事が分かったので、流石に同情した様子で労うような態度をした。


 一方、セルレインはジューネスティーンの様子が気になったようだ。


 思春期に入る手前の少年に対して、初めて見る年頃の女性は、眩しく映るはずだとセルレインは自分の経験から思ったようだ。


「悪かったな、うちのメイノーマが、君の事まで気にせず、変な態度をとってしまったな。悪かった」


「あ、いえ、別に、……。大丈夫です」


 ジューネスティーンは、セルレインのフォローを聞き歯に噛んだような表情をして答えた。


 フォローしてもらったのは良かったのだろうが、メイノーマを意識してしまった事を見られたことを知られた恥ずかしさもあり、何とも言えない気持ちになっていた。


 そんなジューネスティーンを見て自分が同じ位の時の事を思い出していたのか、セルレイン自身も少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「なあ、名前は、自分で付けたの? それとも、ギルドの誰かに付けてもらったのか?」


 セルレインは、自分も恥ずかしく思ったのか話を変えてきた。


 転移者は親が名付ける事は無いので、ギルドとしては言葉を覚えた頃に転移者本人に聞いて決めさせるが、本人が決められない場合ギルドが名前をつけることがあるが、セルレインとしたら、そんな事は知らないので、話題を変える意味も含めて聞いてみただけだった。


 ジューネスティーンとしても、丁度良く話題を変えてもらえて助かったようだ。


「あ、ええ、名前は、僕が、……。僕の名前も、シュレの名前も付けました」


 そう言いつつ、後ろに隠れているシュレイノリアに視線を向け、その様子から、まだ、シュレイノリアは話ができないと思ったようだ。


 ジューネスティーンは視線をセルレインに戻した。


「僕は、ジューネスティーン・インフィー・フォーチュンとしました。それと後ろにいるシュレですけど、シュレイノリア・ディール・フォーチュンと名付けました」


 それを聞いたセルレイン達は、聞き慣れない名前に微妙な表情をした。


「ああ、すみません。何だか、長すぎるように思ってます。なので、ジュネスとシュレで構いません」


 そう言うと、隣のメイリルダを見た。


「メイも、寮の中の人達も、ジュネスとシュレで通ってますから、簡単な方で呼んでください」


「ギルマスに聞いたのだけど、転移者って前世の記憶を断片的に覚えているから、その中でも印象に残った事が、話している時のキッカケでイメージされるらしいのよ。ほら、そこに置いてある剣とかも、きっと、前世の記憶から作ったみたいなのよ」


 ジューネスティーンの説明を補足するようにメイリルダが言うのだが、その時に、説明に丁度良いと思ったのかジューネスティーンが作った剣を指差した。


 建具に乗せてある数本の剣は、鞘も柄も作り終えており、今は鞘も綺麗に塗装され、その鞘に固定用の紐を用意しているところだった。

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