第132話 セルレイン達の常識 12


 エリスリーンとしたら、セルレインにジューネスティーン達を預けられてホッとしているが、ウィルザイアはセルレインの考えが掴めないので不安そうにしている。


 セルレインとしたら、完全に余裕を持ったようではなく、不安もあるが表には出さないようにしていた。


「大丈夫だ。俺に考えがある。だから、大丈夫だ。多分」


「ねえ、多分って、何なのよ! 多分って!」


 セルレインの最後の“多分”に、ウィルザイアが反応した。


 ウィルザイアもパーティーの仲間としてセルレインとの付き合いは長い事もあり、大した自信も無く依頼を引き受けようとしていることに気づいていた。


「それって、ノープランって事じゃないの! あんた、失敗した時の事は、どうなるのよ! あんた1人の責任で終わるわけじゃないのよ!」


 その剣幕に、当事者であるセルレインは、驚いて引き攣った表情で、ウィルザイアを見ていたが、流石に2人の様子を見ていたエリスリーンも驚いた。


「あ、あのね。ウィルザイア。ギルドは、あなた方にジュネス達の教育を完全に丸投げするつもりはないわ。話が中途半端になってしまって申し訳ないのだけど、ギルドとしても定期的に、あなた方のパーティーから意見を聞きたいと思っているの。だから、定期的に問題点を確認しつつと言うか、あの子達の能力を確認じゃなくて成長の度合いを知っておきたいのよ。だから、問題が発生したら、その都度、ギルドとしても協力させてもらうわ。あなた方に責任とかは及ぶ事はないから安心して」


 それを聞いて、ウィルザイアの怒りもおさまり、セルレインに覆い被さるようになっていたウィルザイアは自分の席に座り直した。


「だいたい、依頼をして、直ぐに完璧なプランが有るなんて、あり得ないわ。だから、ウィルザイアも、そんなにセルレインを責めるような事はしないであげて。それに、後で、受付にメイリルダが居ると思うけど、彼女は、ジュネスとシュレの面倒を見ていたから、ジュネス達の事は、彼女と相談しながらが良いと思うわ。それで、彼女と相談しつつ必要に応じて専門家と対策を講じるように手配しておくわ」


 それを聞いて、ウィルザイアも表情が落ち着いてきた。


「まあ、そういう事なら、何か有ったとしても助かるわ」


 おとなしくなったウィルザイアを、セルレインはホッとした様子で伺っていた。


 一時はどうなるかと思ったが、何とか話がおさまった。


 セルレインとウィルザイアは、ギルドからの依頼として、ジューネスティーンとシュレイノリアを、自分達のパーティーに加えて育てる事にした。




 セルレインとウィルザイアは、エリスリーンの執務室を出ると、ロビーに向かうと、そこには残りのメンバーの4人が心配そうに待っていた。


 セルレイン達が、受付のあるロビーに入って来ると4人が集まってきた。


「おい、セルレイン。ギルマスは、何て言ってたんだ?」


「そうよ、あなた、何かしたんでしょ」


「ま、まさか、冒険者資格剥奪とか、されたんじゃ!」


「え、まさか、パーティー解散するの? そんな〜ぁ」


 待っていた4人は、エリスリーンに呼び出されたセルレインの身を案じるのだが、4人ともセルレインが何か失敗して呼び出されたと思っていたようだ。


 セルレインは、ウィルザイアにも同じような事を言われていたので、またかと思ったように嫌そうな表情をした。


「いや、依頼の話だった。ギルマスが、直接、俺達のパーティーにと、依頼してきた。……。だが、ギルマスから呼ばれたからと言って、なんで、メンバー全員が、俺が悪いことをしたように思うんだ? おかしいだろう!」


 セルレインは、4人の反応にムッとして答えるが、メンバーの4人は、依頼と聞いてホッとしたようだが、セルレインの不満については、何を言っているといった反応を示していた。


「だって、セルレインだからな」


「うん、本気モードと、そうで無い時の違いが激しいから」


「気を抜いている時って、本当に雑だから、その時に何かやらかしたと思ったわ」


「最後通告をされたと思っていた」


 残っていた4人の反応に、セルレインはムッとした様子で聞いていた。


「仕方ないわよ。私だって、セルレインが何かやらかしたと思ったわ。だから、みんなも、そう思っても仕方ないわよ。でも、よかったじゃない。依頼だったのだし、ギルマスは、かなり好意的に接してくれたわ。それに、私達にとって好条件だったわ」


 ウィルザイアが、依頼の内容を匂わせたので、それを聞いて4人は依頼の内容が気になった。


「そうだな。おい、みんな、手を出せ」


 そう言うと、セルレインは、4人の手に中銀貨を1枚ずつ手渡した。


 その金額を見て、4人はびっくりするが、セルレインは気にする事はなかった。


「ああ、これ、今度の依頼の前金だから、ギルドに預けるなり、自分の財布にしまうなりしておいてくれ」


 4人は、その金額を見て驚いていた。


 自分達の稼ぎでは簡単に手に入るような金額ではなかったことから、4人は、その理由が何なのか理解できない。


 その様子を見ていたウィルザイアは、セルレインの言葉足らずの説明を聞いていて、少しうんざりしたような表情をした。


「ねえ、そんな大金は、手に持っていても困るから、とりあえず、ギルドの個人預金口座に預けておかないかしら。それで、話は場所を変えてからにしましょう」


 それを聞いて、4人も納得したようだ。


 セルレイン達は、受付カウンターに行って、手に持った中銀貨をカウンターで、ギルドの個人口座に預けた。

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