第41話 少女の回復力


 メイリルダは、ベットの横に座っていた。

 頭の方には、一昨日、転移してきた少年が座り、その隣にメイリルダが座って少年と少女の会話を聞いていた。

 しかし、メイリルダには2人の会話は全く理解できていないので、ただ、2人が何かを話している姿をボーッと見ているだけだった。

(まいったわ。私は少年と話すことは出来ないし、それに2人は会話をしているみたいだけど、何を話しているか分からないから、こっちは、それを見ているだけなのよね。あー、この状態で、お話しできないって、結構苦痛なのね。私も2人の会話の中に入りたいわ)

 メイリルダは、何も分からない少年と少女の会話を聞いているのだが、言葉が理解できない事もあり、その状況が苦痛になってきたようだ。

 少年は、昨日と一緒で、少女の手を握って話をしていた。

 メイリルダは、何か自分の持て余した時間を、何とかしたいと思ったようだが、状況的にメイリルダができる事は何も無いので、仕方なく少年と少女が話している時の様子を伺うだけだった。

(あら、何だか、さっきより、少女の顔色が良くなってないかしら? うん、来た時より、良くなったように思える)

 すると、少女が体を起こし始めた。

 それを見て、メイリルダが慌てて少女が体を起こそうとするのを手伝った。

(どういう事なの? 昨日は、瀕死の重症だったはずよね。体を起こしても平気なの?)

 メイリルダは心配そうにしたが、少女は気にせず起きあがろうとしたので、それを手伝ったのだ。

 起き上がった少女は、片手を少年の前に出した。

 それは、あからさまに手を握って欲しいと言わんばかりだったのだが、少年は何も気にする事なく少女の手を握って、また、何やら話を始めていた。

 話は、どちらかというと少年が話をして、少女が少年の話を聞くようになっていた。

 その様子を見ていると、医務室との扉が開いて医師長が入ってきた。

 そして、少女がベットで体を起こしていたのを見て驚いていた。

「あら、もう、身体を起こせるようになったの!」

「あ、いま、少女が起きようとしたから手伝いました」

 メイリルダは、気不味そうな表情をした。

「あのー、不味かった、かしら?」

 メイリルダは、話ながら自分が軽率な行動をしたのかと思ったのか、後の方は不安そうに喋っていた。

 すると、医師長は少女のベットに行き、少年とは反対側から少女の容体を確認した。

 そして、医師長は真剣な表情をした。

「あら、あれだけの怪我だったのに、随分と治りが早いわね」

 医師長は、ヒールによって、昨日、少女の怪我を癒していたのだが、それだけでは間に合わないため他の医師に外科手術を施してもらった。

 それ程、酷い怪我だったので、翌日には身体を起こせるほどに回復するとは思っていなかったようだ。

 それが何でなのか、医師長は気になったようだ。

(どういう事なの? こんなに早く回復するはずはないのだけど)

 そして、腕の包帯が外れかけているのを見つけると、医師長は包帯を少し外して怪我の状況を確認して真剣な表情をした。

(どういう事なの、腕とかは、外科手術で治していたのだけど、もう、ほとんど治りかけているわ。魔法だとしても、こんなに早く治るなんて事はないのに、一体どうなっているの?)

 医師長は、不思議そうな表情をしつつ少女の様子を確認した。

 少女は、時々、少年の話を聞いて笑い声を上げていた。

(今まで、転移者の健康状態の資料は残っていたから確認したけど、怪我をしていた過去の転移者しても、これ程早く怪我が治ったなんて記録は無かったわ)

 そして、医師長は、少女の様子に何か違いがないか確認するように視線を頭から徐々に下に下げていった。

 すると、医師長は、少女の反対側の手が少年に握られているのを見た。

(そういえば、昨日も、この少年が手を握ってから、私のヒールも効き目が良くなったような気がしたな)

 医師長は、その握った手をジーッと見ていたので、メイリルダは不安そうに石長の様子を見ていた。

「あのー、医師長。何か気になる事でもあるのですか?」

 医師長は、メイリルダの呼びかけで我にかえった。

「ああ、ちょっとね」

 医師長は、少女の手を握っているその手と少年を見比べながら答えた。

「まぁ、治りも良さそうだから早めに退院できそうね。退院の時は、お前に連絡するから引き取りに来てくれ。案外、退院は早そうよ」

 医師長は、何だか含むような笑いを浮かべながらメイリルダに言うとメイリルダを見た。

「ああ、そうだ、後でエリスリーンに伝えておくが、この2人の魔法適性を確認させ……、あ、でも、話が通じないと魔法を確認することもできないのか」

 医師長に言われて、5歳になる子供は全員が魔法適正を確認されるが、2人は転移者なので、5歳の時のその検査は行われていないので、早いうちに魔法適性の検査を行って報告をしなければならない。

 魔法適性の有る無しによって、ギルド本部の対応も変わってくる。

 メイリルダは、確認した資料の内容を思い出して、納得したような表情をした。

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