第5話 愛よりも青い海-5
「つい、この前までのことじゃないの。それでね、もう、あたしも、ほとほと困ってね、なんせ、六人も子供がいるから、面倒見切れなくてね。それに、一番、困ったのは下の子たちが、この子の真似をして、悪さを始めたのよ。いえ、女の子はね、恵美にしても、久美にしてもしっかりしてていい子なんだけど、男の子はどうしても兄ちゃんを真似するんだよ。それで、もう、このままだと、悪ガキ一家になっちゃうから、ってんで、親戚の住職さんに預かってもらうことにしたの。そうよ、今の学校でも、特例で受かったのよ。一応試験は受かったんだけど、内申書が異常に悪かったのよ。それで、あたしと住職さんの方から、どうしても、この子を更生させるためにも、っていうことで、お願いしてね、それで通してもらったの。ただし、条件付きなのよ。学校で手に負えなくなったら、すぐに退学処分で構わない、ってことになってるの。
まぁ、独りぽっちになって、少しはおとなしくなったみたいでね。住んでるとこも、お寺の経営してるアパートで、割合規律の厳しいところだから、真面目になったみたいだけど、住職さんのところのお務めはずっとさぼってて、時々電話で謝ってるのよ」
「もう、いいよ」
「何がいいの。まったく、まだまだ、悪ガキなんだから」
「あ、でも、本当に中川君は学校では人気者なんです」
「ありがとね。そう証言するように頼まれたんだろ。いいよ、わかってるから」
「だから、本当なんだって、なあ、美雪ちゃん、もっと言ってやってよ」
「圭一。いいかい、あんたが、お寺のお務めもちゃんとやってるっていうなら、信用できるけどね。学校だけでいいことしてる、って言われても、前のあんたから考えたら、信用できないんだよ」
「俺だって、いつまでもガキじゃないよ。反省したんだよ」
「だったら、どうして、お務めしないの」
「それは…」
美雪はちょっと戸惑った。きっとそれは圭一が学校で新聞部の活動や、金儲けをしているからだろう。それは、話すべきなんだろうか?
「まぁ、身なりを見てると、変なことはしてないみたいだから、いいけど」
「当たり前だよ。大事な仕送りで、おかしなことなんかできないよ」
「そんなことしてたら、またぶつよ」
「いいよ。美雪ちゃんも見てるし。あいつらも、隣の部屋にいるんだから」
「あ、あのぉ」
「何?」
「あの…中川君、本当に学校では頑張ってるんです。入試も、さっき、特例で入ったって言ってましたけど、そんなことありません。成績はすごくいいんです。頭のいい生徒が集まってる学校なのに、いつも、上位十位に入ってます。スポーツも得意で、時々、野球部の助っ人で活躍してます。本当に、みんなの人気者なんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます