グリーンスクール - 愛よりも青い海
辻澤 あきら
第1話 愛よりも青い海-1
愛よりも青い海
某月某日―――晴。風向、南南西。
列車が大きくカーブを描くと、緑色の丘陵が途切れ、真っ青な海が見えた。思わず美雪は声を上げてしまった。断崖に沿って走る列車から臨む風景は、広々とした海と空に包まれている印象を与えてくれる。単調なリズムの振動も心地いい。美雪は少し目を細めて、微かに見える風景と全身に伝わる振動に陶酔していった。
ふ、と、振り向くと、圭一が、にやにやしながら美雪を見ていた。
「なに、どうしたの?」
慌てて問い掛けると、圭一はにやにやしながら、
「そっちこそ」と答えた。
「あ、あたしは…、ちょっと……、いい景色だな、なんて思ってただけ」
「そう?」
「思わないの?」
「ずっと、昔から見てたからな。それに…、家出てくるときは、いつも、見てるから」
淋しそうな口調に、美雪はただ、圭一の顔を見つめるだけだった。
「ここさぁ、一番眺めがいいんだ。だけど、ここから、学校へ向かうと、この後、ほとんど海が見えなくなるんだ。そうしたら、あぁ、家から遠くなったな、って、思う」
「…淋しいの?」
「…ふん。まぁ、淋しくないって言えば嘘になる。だけど、仕方ないんだ」
「ね、どうして、家を出てひとりで暮らしてるの?」
「まぁ、いいじゃない…」
「教えてくれないの?」
「そのうち…」
「じゃあさ、もう一つ、別のこと訊いてもいい?」
「なに?」
「どうして、家に帰るのに、あたしを誘ったの?」
「そりゃぁ…、なんだ…、んー、あれだ」
「はっきり言ってよ」
「まぁ、ひとりで帰るのが嫌だったんだ」
「え?どうして?」
「しばらく帰ってないから」
「お盆も?」
「うん。正月も帰ってない」
「え。いつから、帰ってないの?」
「さぁ~。一年くらい前かな」
「どうして?」
「…まぁ、…帰りたくなかったんだよ」
「どうして…?」
「色々と理由はあるけど、…なにを話したらわかってもらえるんだろう」
「まだ着かないの」
「もうすぐだよ」
「じゃあ、聞いてる時間はないのね」
「うん。もうそろそろ降りる準備しないと」
美雪は窓の外を見た。青々とした大海原に真っ白なさざ波と雲が区別付かない状態で広がっている。
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