左2 05



 始動のトラベラー


 彼はさらに巻き戻る。

 まだ知り合ってもいない頃、彼女は道に迷っていた。


「俺が家に連れていってやる」


 ほっとする彼に少女は笑った。


「大袈裟だなぁ」


 彼は、追手に追われる事なく少女を家まで送り届けた。

 その場所であれば、誰も少女の正体を知らない。

 誰も少女を害する事ができなかった。


 全てをやり直すのならここであると、彼は思った。


 少女が家に戻って行った事を見送った彼は満足した。


 だが……。


 それは間違いであった。


 なぜ、少女が「世界を救うかもしれないという、少女すら知らない事実が」広まって追手が、現れたのか。


 彼は気が付いていなかった。


 少女が帰ったその場所は、

 少女が家だと言ったその場所は、


 正確に言えば家でも何でもなかった。


 そこはニエを求める場所


『世界を救う為の生贄を、本人に悟らせずに閉じ込めておく場所だった』


 そこからともなく『運命を見通す者だと名乗った』詐欺師が現れて囁く。


 自分はあの少女を助けようとしている人間だと。

 そう。


 彼はやり直した。

 そして、彼と少女が出会わなかった事に運命を書き換えた。


 そうして作られた彼の死体の元に少女が戻って来る。


「どうして」と嘆きながら、その横に膝をついて悲しんだ。


 世界が書き換えられるまでのほんの短い時間の分だけ、彼の行いに少女は涙した。


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