第27話 初めての旅へ
朝。いつもの時間に目を覚ますと、荷車の外が騒がしかった。
……隊商の朝ってこんなに早いものなのね……。
わたしたちも早く寝たのに、陽が昇る前から起きるんだから大変な仕事よね。布団で寝るわけでもないのに。
「マールさん。おはようございます」
荷車を降りて当番だったマールさんに挨拶する。
「こんなときでも起きるのが早いんだね」
「クセみたいなものですよ。出発なんですか?」
「いや、食事の用意らしいよ。これだけいると凄い量になるからね」
食事の用意か。出発でも食べないといけないんだから準備する人は大変よね。
まあ、料理担当のわたしも同じなんだけど、イルアがいるからそう苦ではないわね。魔導箱もあるし、時間があるときに下拵えしておけばさっと作れるんだからね。
身だしなみを済ませてからマールさんが使っていた焚き火でお湯を沸かし、出して置いた鉄鍋を焚き火棒にかけ、竈に火を入れた。
一晩煮込んだものだから温めたらすぐに食べれるものだ。あとは、イルアのインベントリに入れたパンを出すだけだわ。
昼がどうなるかわからないけど、温めればすぐに食べれるように肉団子スープを作っておく。
野菜を切って底深の鉄鍋に放り込み、香味野菜をすりおろして入れたら作り置きの肉団子を放り込む。
あとは、イルアが起きたら魔導箱に入れてもらう。わたしの腕力じゃ持ち上げられないくらい重いのよね。
「マールさん。ちょっと隊商の方々に挨拶してきますね」
「邪魔にされない?」
「忙しいなら手伝ってきます」
持ちつ持たれつはいい関係。手助けが欲しいならこちらからも手助けしないとね。それに、情報は仕入れておかないと。
「イルアが起きてくると思いますが、朝食はできてるので好きに食べてと伝えてください」
そうお願いして隊商のところへ向かった。
何ヶ所かで食事を用意しているところを回って挨拶していくが、長いことやっているだけに手伝いは必要なく、おしゃべりする時間まであった。
ピー! と笛が鳴る。
「なんです、今の?」
「起床の合図だよ」
へー。そんなことするんだ。
隊商の人が起きてきたので、わたしも自分たちの馬車へと戻った。
「シスター、おはようございます」
戻ったらラミニエラが起きており、身だしなみをしていた。
「おはよう、ミリア。早いのね」
「ええ。シスターも早いですね。いつもこの時間なんですか?」
まだ一の鐘は鳴ってないわ。
「ちょっと寝坊しちゃったわ。布団の寝心地がよすぎちゃって」
どうやら教会のベッドは固いようね。どんなに誘われようとシスターになることは止めておきましょう。うん。
「イルアは?」
「まだ寝てますよ」
まあ、イルアは二の鐘が鳴らないと起きない。これで誰よりも稼ぐんだから他の冒険者はやってられないわよね。
今日は一の鐘が鳴る前に出発と言うので、荷車の下で眠っているイルアを起こした。
「……まだ時間じゃないだろう……」
「もう時間よ。今起きないと朝食抜きになるからね」
ぼんやりしてたけど、頭が目覚めてきたようで、自分が隊商の護衛をしていることに気がついたようで起き出した。
顔を洗い、布で顔を拭いてやっと意識も目覚めたようだ。
「あー。嫌な仕事引き受けた~」
基本、イルアは真面目だけど、働くことはそんなに好きではない。辛うじて冒険は遊びの感覚でやっているから続いている感じだ。
……それで稼げるんだから才能よね……。
まあ、イルアが働いているお陰でわたしは苦もなく生きられるんだから、誰が否定してもわたしは肯定するわ。
目覚めたらいつものように大食漢なイルア。用意した朝食をすべて平らげてしまった。
……食べたものはどこに消えるのかしらね? 純粋に気になるわ……。
「そろそろ出発みたいよ」
マールさんの言葉に片付けを始める。
洗い物は水場にいってからなので、周りの汚れを軽く払って魔導箱へ入れていく。
竈は次の隊商のために仲買屋が掃除すると言うので、残り火がないよう水をかけるだけ。
片付けが終わればわたしの役目はない。ラミニエラと荷車に乗り込み、出発を待つ。
「兄さん。わたしは寝るから」
あ、リガさんと交代か。
マールさんも荷車に入り、御者台にもたれかかりながらすぐに眠ってしまった。
「冒険者とは凄いのね」
イルアならまず眠れないでしょうね。
そのイルアはやはり馬車に乗ることはなく、外で出発を待っていた。ラミニエラを守るダリオ様は馬での移動みたい。
やがて笛が鳴り、各馬車の御者が了解とばかりに笛を鳴らしていく。
わたしは横を開けて馬車が出発していくのを眺めていると、わたしたちの馬車が出発した。
……一番後ろをついていくわけじゃないんだ……。
「ミリアねーちゃん!」
と、誰かに呼ばれ、意識を向けたら町の子たちが見送りにきてくれていた。
「気をつけてねー!」
「ええ。わたしが帰ってくるまでお願いね」
なんだか恥ずかしいけど、せっかく見送りにきてくれたのだから手を振って返した。
「ミリアは好かれているんですね」
「そうですね。ただ、仕事をお願いしているだけなのに」
ラミニエラのなんとも言えない表情に肩を竦めてみせた。嫉妬されるのも困るし、照れ臭いってのもあったからね。
まっ、なにはともあれ初の旅が始まってしまったわ。
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