第191話 その5
「アメリカに行くのも魅力的だったんですが、もっと魅力的なところに行きたくなりました」
「
「もう来てます」
一色が人差し指でちょんちょんと足下を指す。
「え、
はい、と笑顔で答える一色に呆れた顔になる千秋。
「あのね一色くん、自分で言うのもなんだけど
町屋塩尻がいなくて幸いである、聞いてたら間違いなくイヤな顔をしているだろう。しかし、一色はそれでもかまわないと言う。
「ここが姥捨山なら、企画3課は処刑場じゃないですか。はるかにマシですよ。それにチーフがこのままくすぶっている筈ないでしょ」
「……なんでそう思うのよ」
「さっき廊下であった時、感じました。コンペ前のやる気に満ちた時と同じものを」
(顔に出てたかなぁ、それとも察しがいい一色くんだから分かったのかな。お祖母ちゃんが知ったら修行が足りないわねぇなんて言われそうだわ)
千秋は頭を掻きながらそう思った。
塚本が一色の袖を引っ張る。
「塚本さん、もう帰るそうです。僕らもそうしますか」
千秋は頷くと3人揃って部屋を出て行くが、ふと千秋は思いつき途中で別れた。
「失礼します」
千秋のむかった先は総務課だった。今日の手伝いはたぶん加納が強引に連れてきたと思って、御詫びをしに来たのだが、拍子抜けの言葉が帰ってきた。
「いやいや迷惑だなんて、全然そんなこと無いですよ。それより加納さんて、秘書だけど其方の仕事もするんですか、やっぱりスゴいなぁ。いつでも手を貸しますからまた声をかけてくださいね」
千秋は戸惑いながらも、ええと答えて部屋を出た。
「社交辞令の言葉なのかな、それとも加納さんて意外と人望があるのかな」
考えながら歩いていると、郷常務とばったりあった。というか、昨日郷と話をしたロビーに郷を含めた4人が談笑していたのだ。
「やあ佐野さん、また総務課に用かい」
郷の言葉に2人の男が千秋をじろりと見る。千秋が総務課に来た理由を話すと、片方は値踏みするような、もう片方は少し敵意が混ざった視線に変わった。
「加納くんの仕業だな、まったく」
「すいません課長、よく言っておきます」
千秋が困惑していると郷が3人を紹介してくれた。
「僕の隣にいるのが秘書の浮野さん、秘書課長でもある。そちらが総務部長の加茂さん、で、こちらが総務課長の勝栗さん」
千秋が挨拶とともにこの度はお騒がせしましたと頭を下げる。
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