第150話 その3

「最初は人として尊敬していましたが、だんだん男性として意識して、それがアレクに伝わったらしく、彼から告白されました」


「で、相思相愛の仲になったと」


「その間いろいろありましたが、そういう仲になりました」


 ただの男女なら問題は無い。祖父と孫くらいの歳の差も珍しくはあるが、2人を見たらまあ納得するだろう。

 しかし、祖父くらいの男が世界的大企業のトップとなるとそうはいかない、孫娘は財産目当てではないかと当然のように疑われるだろう。


「世間に隠れて、というか隠して付き合っていたんだね」


「いっそ2人で会社を辞めて、ロッキーの山奥で暮らそうかなんて言われましたけど、そうもいかない事情がありました」


「君はともかくミスターはそうはいかないだろうな。後継者問題がある」


 アレキサンダー・ジョースター氏の妻はすでに他界している。子供は娘ひとりで、婿養子をもらって男の子をもうけた。それが一人息子のハミルトンである。


「婿養子殿は離婚して縁が切れている。娘が社長になるのはミスターが反対している。ハミルトン君は正直、器としてはまだまだだな」


「会社の重役もそれぞれ五十歩百歩、ゆえに後継者がいない為にアレクが社長を続けています」


「そんな状況だから隠れて綱渡りのような交際を続けていたというわけか。しかし、秘密がバレる事になった」


「ミルが私たちの事を疑いはじめました。正直、ミルが気づくとは思いもしませんでしたけど」


「ミスターからの話によると、最初に感づいたのはハミルトン君じゃなくて、ミスターの秘書のひとりらしい。それから秘書達に広まり、誰かが彼に告げて、それを知った彼がミスターに詰め寄ったそうだ」


「チアキとつき合っているのか、彼女は僕のものだ、手を出さないでくれ、何も無いのなら今すぐ彼女を僕の秘書にしてくれとね」


「詳しいな」


「その場に居ましたから。その様子を見てアレクとアイコンタクトをとっていたら、ミルは確信したようです」


千秋は溜め息をついた後、言葉を続ける。


「たまたま私しか居なかったから良かったものの、アポもとらず社長室に入っていきなり大声で問い詰めてきましたからね。そういう行動と、考えが浅いのと、打たれ弱い精神だから恋愛対象じゃないんです」


「なるほど。ハミルトン君の要望はていよくやんわりとミスターにはねつけられた、そして彼はパンドラの箱を開けるような真似をしてしまったんだね」


「ええ、お母様、厄災ミス・カラミティに泣きつきました」

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