第126話 ジャンヌダルク再臨

 外の騒ぎは何だったのかと、芝原は席を立ち廊下に出ると、警備員が2人廊下に倒れていた、その先には制服姿の女性が立っている。たしか受付のコだったなと芝原は思った。


 警備員に近寄ると2人とも気を失っている、芝原は受付のコに何があったのか訊ねると、


「その、先ほど会議室に入られた女性が、当社に来てコンペの場所はどこと尋ねられまして、お教えしたところ勢いよく階段を上りはじめました。それを見とがめた警備員の1人が止めようとしたのですが、その方が締め上げて気絶させたもので、他の警備員が追いかけていったんです。私も気になって追いかけてきたら、この有り様でして……」


「するともう1人、倒れているんだね」


「はい……」


「わかった、あの女性はコンペに参加している他社の社員だ、害は無い。君は医務室に連絡して警備員を介抱するよう連絡してくれ」


はい、と答えると受付のコは1階に戻って行った。  

 芝原は警備員を廊下の端に寄せて安静の態勢にすると、会議室に戻る。

 中では、千秋と一色が話し合っている姿と、群春側と森友側の面々が芝原の報告を待っている姿があった。


 芝原が課長と係長に外の様子を告げると、係長は青ざめ課長は千秋に喰ってかかる。


「佐野さん、警備員3人に乱暴を働いたというのは本当かね」


 その言葉に、群春側は驚いた。千秋は課長に向き正対すると、


「申し訳ありません、一刻も早くこちらにお伝えしないといけない出来事がありましたので、やむを得ず実力行使いたしました。お騒がせして申し訳ありません」


 そう言うと、勢いよく腰から曲げる姿勢でアタマを下げる。その迫力に圧倒され一同は言葉が出なかった。

 誰も話せずにいるなか、芝原が口を開く。


「佐野さん、そこまでして伝えたい事は、そちらの都合ですか」


「そ、そうだ。自分の社の者に伝えるだけで、こんな乱暴を働くなんて言語道断だ」


「その通り、もともとコンペは群春さんに決まりかけていたんだ。そんな理由で乱暴を働くような者なら、なおさら取り引きする訳にはいかんぞ。今回の取り引きは群春さんに……」


「待ってください!!」


凛とした千秋の言葉が室内に響き、全員が口をつぐんだ。


 千秋は一色の傍を離れ、コの字に置かれたテーブルの中央に立つとおもむろに話し始めた。


「たしかに行き過ぎた行為には謝罪をします。ですが、そうでもしなければ御社も、そしておそらく群春さんも迷惑がかかると判断して非常手段をとらせてもらいました」


千秋の言葉に一同は疑問の表情をうかべた。

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