第120話 その3
「護邸くん、それは間違いでしたではすまない事だよ。本当なのかい」
「本人から確認をとりましたから間違いありません。彼女はキジマ達の被害者です」
「どんな筋書きになるんだ」
「キジマ達は2人の不倫ではなくスズキの過去で脅していた、それをサトウが知り庇った。脅しのネタは下手すると世間にばらまかれる、だから言うことをきくしかなかった、そのために会社から横領してまでも守っていた、しかし会社に発覚してしまった」
「それで」
「会社は事情を踏まえた上で2人を退職させます。そして警察に話す時は、女性を守るためにやむを得ずに、を全面に押し出して説明します」
「その前に2人は責任をとって退職した事にすれば、世間の目は2人に移ります。私達の懸念は風評被害だから、彼等に興味が移れば影響は無くなるということだね」
「ふうむ、それが妥当かな」
護邸と郷のやり取りを聞いて早田が頷く。そして社長に裁決をあおぐが、
「社長、いかがで……」
その言葉は千秋に遮られた。
「待ってください」
「いきなりなんだね、佐野くん」
「申し訳ありません、出過ぎた真似なのは重々承知しておりますが、発言させてください」
千秋の言葉に、社長、専務、常務の視線が護邸に集まる。護邸は社長に目で確認すると小さく頷いた。
「つづけたまえ」
早田専務の言葉に千秋は頭を下げると、発言を続けた。
「先ほどの護邸常務の案ですと、スズキさんが好奇の的に晒されます、それで良いのでしょうか」
「よいもなにも、退職したあとまで責任までとれんよ。ましてや横領の共犯だろう、それは君自身が会議で言ったことではないか」
「そうですが……」
千秋は迷った、3人の流れるような話し合いに唖然としていたが、落とし処が2人をスケープゴートにする事だと判って、あわてて口を挟んだのだ。
正直、どうしたらいいかまだ考えついていない。ここに来る前みたいに、どうしましょ、なんて言えない。引くべきか、と考え始めたとき千秋の脳裏に映像が浮かんだ。
5年前の酷い目にあっている画像の中のショウコの目と今さっき会った時のショウコの目だ。絶望の中、誰かに助けを求めているあの目、誰も助けてくれなかったという絶望の目、千秋は思った。もうあんな目にあわせたくないと。
「どうした? 意見は無いのかね」
無言のままであった千秋であったが、やがて口を開いた。
「意見があります」
覚悟が決まったという言霊をかんじた言葉だった。
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