第95話 その2
まだ切り札を出さないんだ。千秋は護邸を見ながらそう思った時だった。
「護邸常務、君の言う通り僭越だろう。専務の諸星くんが進めようとしているのに、何故滞らせようとするのだ。君は会議を何だと思っているんだ」
鋭く厳しい口調で、竹ノ原専務が咎める。
それを皮切りに、会議は紛糾した。
竹ノ原専務の言葉を早田専務がさえぎり、
早田専務の言葉を葉栗副社長が応え、
それを中島社長が応対して郷常務と北斗常務が同調し、
その流れを万城目専務が混ぜ返し、日狩専務が突っ込む、
それに怒った大鳥常務が声をあらげると、諸星専務が止め、丹羽副社長がなだめる。
当事者である筈の千秋はおいてけぼりで、重役が互いに攻撃しあっている。
隣の課長は言葉のひとつひとつに反応し、青くなったりホッとしたりして忙しかったが、千秋はただただ眺めていただけだった。
どうやら派閥的なものは3つあるらしい。
中島社長派の早田専務、郷常務、北斗常務、護邸常務。
葉栗副社長派の竹ノ原専務、諸星専務、大鳥常務。
丹羽副社長派の万城目専務、日狩専務。
残りのひとり東常務は、どこかはまだ分からない。黙って会議の行く末を見守っているのだろうか。
世界的な大会社の重役達が、喧々諤々としている。というとすごく感じるのだが、そういうのを取っ払うと子供の口喧嘩にちかい。
そのうちに「お前のかーちゃん、でーべーそー」とか言いそうな空気になってきた。
「議長」
ずっと黙っていた、東常務が手を挙げ発言をもとめる。
「東常務、どうぞ」
「お腹が空きました、休憩して昼飯にしませんか」
挙手をしながら、他の重役達ににこやかに話しかける。一番若手らしい常務の屈託の無い顔と言葉に、毒気が抜けたのか、会議は沈静化した。
「ふむ、そうだな。少し冷静さを欠いていたようだ。仕切り直す意味も兼ねて、食事にしよう。では30分後にまた集合」
社長の言葉に皆が同意し、とりあえず解散となる。
置いてきぼりになっていた千秋と課長も退出するが、さてどうしよう状態であった。
とりあえず千秋は課長に文句を言おうとしたが、すでに雲隠れしたあとで姿が見えない。
時刻を確認すると12時10分を過ぎたところだった。
どうしようかと思っていると、秘書に着いてくるように言われ、素直に着いていくとそこは社長室だった。中に入ると、千秋が想像していた社長派の面々が揃って食事をとっている。
「佐野主任、君は何にする」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます