第29話その2
フロアにクスクスとした笑いがこぼれた。
「テンマ、今のは私がフラれた事になるのかな」
「お互いにフラれた感じですね」
今度は、どっと笑いがおきた。
「君のLGBT感は理解した。会の長としては、この場にいる事を許可したい。皆はどうかね」
フロアから拍手がおきた、どうやら承認されたらしい。
「では、あらためて会の主旨を話させてもらおう。まず、会の名前[ロバの耳]だが、ここで見聞きしたことは口外してはいけないという意味だ。分かるね」
「はい」
「この会は元々、私ともう一人が始めたものなんだ。これでもそれなりの社会的地位のある立場でね、カミングアウトすると少し社会を混乱させてしまうんだ」
「わかります」
「言えない秘密を抱え込むと、ストレスが溜まり色々と不調をきたすのでね。だから気兼ねなく言える空間をつくった。それがこの店なんだ」
入るとき特殊な造りだなと感じたが、そういう理由だったのかと理解した。
「最初は、私ともう一人、そしてここのオーナー兼マスターの3人だけだったが、他にも同じ悩みを持つ同好の士がいてね、少しづつ増えて今にいたっている」
フロアにいる人々はめいめいに頷いた。
「皆さんの憩いの場なんですね、あらためて騒がしてしまい申し訳ありません」
千秋は再度、会長に頭を下げた。
「さて、会員が16人ほどになったところで、1人の青年が現れた。彼は我々と違い、自分がゲイなのを隠さずに社会に参加しようとしていた」
千秋は一色を見る、少し照れた顔をしていた。
「我々が出来なかった事をする彼を、私達はファンになった。テンマはこの会のアイドル的な存在なのだよ。それだけじゃない、彼の人柄と資質にも好感を持っている、それは君も分かるだろう」
千秋は頷く。
「我々は彼に期待している、性差別そしてジェンダー差別の無い社会へ向かうために」
会長は千秋に向き直り、心を込めて言う。
「テンマをよろしく頼みます」
深々と頭を下げる会長に千秋は力を込めて応える。
「任せてください」
フロアから大きな拍手が響いた。
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