第24話 その4

「味方ですか」


「そう、部下でも同僚でもなく友達でもなく、味方」


「なんのために」


「一色くん、あなたゲイでしょ」


 千秋の言葉に一色は気色ばんだ。


「それがなんだというんです、ええ、確かに僕はゲイですよ。しかもオープンです。だから嚇しにはなりませんよ」


 警戒心からの感情的になったのだろう、一色は興奮ぎみに言い返す。まわりの客も少し空気が張りつめた。


「落ち着いて、ごめん、話の持ってき方が悪かったわ。ちゃんと説明するから、もう一度話させて」


 一色が落ち着くのを待って、もう一度、言葉を選びながら伝えるように話し始めた。


「今、うちの課は存亡の危機なの」


 千秋は、今朝の横領の濡れ衣を着せられた話をした。


「……というのが現状なのよ」


「たしかに大変な状況ですが、それはチーフが、ですよね。僕と何の関係があるのです」


「私が本社からの異動なのは知っているわよね、理由は知っている?」


「いえ、そこまでは」


「簡単にいうと、派閥争いに巻き込まれたのよ。それで私は本来なら辞めさせられるところを、降格処分の異動となって、こっちに来たの」


「そうだったんですか、ああ、そういう事情を背負っているから、うちの課に配属されたんですね」


「たぶんね。上層部は事情を知っているから、私をもて余したんでしょうね」


「それでもまだチーフの事ですよね、まあ課長も監督不行き届きで責任をとらされるかもしれませんが」


「会社がうちの課まるごとリストラしたがっているのよ」


「僕もですか」


「私は敵対派閥、課長はたぶん横領、塚本さんは人間関係」


「僕は何です? 仕事はやれますし、コミュニケーションもとれてますし、それなりに会社に忠誠心もありますよ」


「……」


「……僕がゲイだからですか」


「たぶんね」


 一色は黙ってしまった。


「……まいったな、たしかに嗜好のせいで国内の会社の就職が難しかったです。だから外資系ならその辺りは寛大だと思ったのに……」


「会社は外資系でも、社員は現地採用だからかもね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る