第21話 執事《バトラー》のテンマ
蛍が邪悪に満ちていた頃、千秋は壱ノ宮駅に着き、ちょうど到着した快速に乗って出発していた。
時間は午後4時半を過ぎていた。10分後、名古屋駅に着き、それから走って行けばギリギリ午後5時に着けると考えていた。
考えが少し甘かったのか、会社に着いて企画部のフロアに来た頃には、予定より15分程過ぎていた。
企画部フロアは、入口正面の一番奥に部長のデスクがある。そこの主は現在不在だ。だから今は護邸常務が兼任している。
その手前は課長のデスクで、1課長、2課長、3課長のデスクがあり、さらに手前に各課員のデスクがシマとなってある。
1、2課は課員が6人づついるのだが、3課は3人だけで入口から一番遠くの部屋端にある。離れ小島感、お荷物感が見ただけでわかる。その3課の席に、一色の姿が見えた。
「ありがとう、一色くん。待っててくれて」
「そりゃ上司命令ですから」
そう言うと、一色はメモを千秋に差し出した。
「僕のスマホの番号です。チーフ、知らなかったんですか? 緊急連絡用に登録していると思ってたんですけど」
「あー、緊急連絡する機会がなかったのと、あんまりプライベートに関わってほしくないかなって勝手に思ってたんで、登録してなかったわ」
すぐさま自分のスマホに番号を登録する。
「それと……、僕、恋人いますからね」
千秋は、はい?という顔で、一色を見た。
言葉の意図が分からなかったので、ああそう良かったわねと通りいっぺんの言葉を返す。
千秋のきょとん顔で、一色は吹き出した。
「あはは、チーフ、ダメですよこんなメモを書いては。塚本さん、顔を真っ赤にして勘違いしてましたよ」
一色はさっきと別のメモ用紙を出す。それは塚本に渡した、一色宛のメモだった。それには
ふたりの将来について話があるから待ってて
と書いてあった。
「塚本さん、チーフが僕に告白するつもりだって舞い上がってましたよ」
たしかにそう読める、千秋は頭をかいた。
「一色くんと塚本さんのつもりだったんだけどな」
「僕らの事ですか」
事情を話そうとしたが、千秋は辺りを見回した。
退社時間を過ぎているから人は少ないが、それでもまだそれなりにいる。それに、ここしばらくのバタバタのせいか、こちらに向かって聞き耳みをたてているのもみえる。
「一色くん、どこか秘密の話ができるところ知らない? 任せるから」
一色は少し考えてからこたえる。
「分かりました、行きつけの店がありますから、そこに行きましょう」
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