第16話 魔女《ウィッチ》のケイ

 すぐに飛び出そうとするノブに、待てをいい、連絡先を交換し、メモリーカードを借りた。

 それが終わったら、ノブはふたたび飛び出していった。

 千秋は時間を確認すると正午をまわっていた。急いで会社に戻ると、塚本がお弁当を食べていた。


「塚本さん、一色くんは?」


 ふるふると首を振る塚本に、伝言メモを書いて渡す。


「塚本さん、私はこれから出掛けるわ。これを一色くんに渡しておいて。それからなるべく退社時間までに帰るつもりだけど、過ぎてたら塚本さんは帰っていいわ。だけど一色くんは待っているように伝えてね」


メモを手に、塚本はこくんと頷いた。

 千秋は荷物を手に会社を出ていく。途中スマホで蛍に連絡するが留守電であった。時間的に当然かと千秋は思い、留守電に話しかける。


「ケイ、私、千秋。今すぐ会う用が出来たからそっちに電車で向かうわ。壱ノ宮に着いたらまた電話するね」


 そう伝言すると、名古屋駅に駆け出した。JRのホームで待つと、20分ほどの時間があったので、立食いの店に入り、天ぷらきしめんを食べる。

 食べ終わったと同時に快速電車が到着したので、それに乗りこんだ。

 15分後、千秋は壱ノ宮駅の改札を出て、あらためて蛍に電話する。今度は出た。


「西側のロータリーにいるわよ」


 駅西のロータリーに向かうと、カブライスポーツジムと書いてある軽のワンボックスが停まっていた。

千秋は、すぐに助手席に乗り、蛍はクルマを発進させる。


「サンキュ」


「午前中トレーナーやって、昼から事務仕事の予定だったけど、夜まで休みをとったわ」


「いいの」


「あんたがこんな時間に連絡するってことは、かなり切羽詰まっているんでしょ。少しくらいならいいわ」


「ごめん、助かるわ」


「で、どうしたの」


「着いてから話すわ、かなりややこしくなっているから。そっちはどう? なにか分かった」


「あー、こっちもややこしい事になっているから、着いてからね」


 クルマは、南下してから左折して高架をくぐり抜け、しばらくいってからカブライスポーツジムに着く。

2人は蛍の部屋に入ると、すぐさま話し合いを始めた。


「まずは千秋から話して」


 千秋は、今日の午前中にあった出来事、横領の濡れ衣、課長のスパイ行為、ノブとの出会い、キジマ達の集団暴行計画の話をした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る