7人のメイド物語

モモん

序章 転生

第1話、ガラガラポンで始まる異世界人生

 人生ってやつは理不尽の連続でできている。

 だから、私はそれに抗いつつも理不尽に流されている。

  -とある吟遊詩人の言葉-




203×年12月16日

 九州から東海エリアにかけて巨大地震が襲った。南海トラフ地震である。

 津波による沿岸地区の被害は凄まじく、最大の波高は20mにも達したと記録されている。

 死者は30万を超え、俺も火災に巻き込まれて死んだ……んだと、思う。


 目が覚めたのは真っ白な場所で、大勢の人がいた。

「はーい。亡くなった方は、列の最後尾に並んでくださーい」

 白い、巫女服みたいなのを着たお姉さんが叫んでいる。


 ああ、死んだのか……

 最後は熱かったな……、髪やまつ毛の燃える感覚が残っている。


 周りの人と話をしてみたかったが、意思に反して列の最後尾にならぶことしかできなかった。100位の列ができていたが、みんな整然と並んでいる。


ガラガラ カコン


「はい64番、来世は虫です。でも、短い一生ですから、すぐに戻って来られますよ」

 なるほど、そういう見方もあるのか……、というか、転生ってガラガラポンで決まるの?

 今世の行いとか……、善行とか影響しないのかよ……

「はい、799番、来世は魚類です」

 まあ、魚も短命か……、まて、確か理論上不老不死のクラゲとかいたよな。

 1万年クラゲとか、いやだよ。ウニも200年とかだったよな……

「おめでとうございます。1番勇者が出ました」

 人間じゃなく、勇者とかいうくくりもあるのか……

「でも、勇者枠は生まれる機会が少ないので、現在15人待ちです」

 この状態で順番待ちってのも嫌だな……

「はい、764番、虫です」

 64番も虫だったよな……

 ああ、商店街の福引なんか赤玉ばっかで当たった事ないもんな……

 ああ、俺の番だよ……


 ガラガラ カコン

「おおーっと、これは珍しいです。赤玉が出ました。

さあ、時間がありません。この玉を持って赤いゲートに急いでください」

 ここでも赤玉かよ……、絶対外れくじだよな……

 赤いゲートをくぐると、別のお姉さんがいた。

「赤玉は、何らかのアクシデントで魂が離れてしまった肉体に入っていただきます。

植物人間のようなイメージですね。

 主に肉体の損傷が激しい場合が多いですが、奇跡的に命をつなぎ留めます。

この場合、肉体に入った時点でハンデを負いますから、代償として特殊能力を一つだけ得ることができます。

 特殊能力の確認は『スキル』と念じてください。

 あと、生きるために現在の意思・記憶もそのまま持っていけますが、どうしますか」

「イエスで」

 ここにきて、初めて自分の意志で言葉が出せた。

「では、頑張ってください」

肩をポンとたたかれると、俺はそのまま沈んでいった……


 ギャー!イダイイダ!

 突然の焼けるような痛みに、俺の意識は飛んだ!

 何度それを繰り返しただろう。

 覚めては、痛みに襲われ意識を失うの繰り返しだった。

 やがて、痛みも耐えられる程度になり、声がかけられた。

「私の言葉が聞こえるか?」

「あ、……、あい」

 言葉の知識は脳にあった。

「君はドラゴンのブレスで焼かれた」

「あ、……」

「その勢いで水に落ちたおかげで、半身だけで済んだ」

「ああ、ああ……!」

「安心していい、ドラゴンは追い払われ、もういない。

ここに運び込まれたのが早かったのでな、火傷は手当てしたが……

右半身は使い物にならないだろう」

 右半身……、右手の指も動かず、右目も見えず、右耳も聞こえない……

「私は医者だ。一応の手当ては施したが、これ以上できることはない。

それでも生きてみるか」

「ああ、ああああ」

 舌がうまく動かない……、だけど生きたいと思った。


 生前の俺は35歳の会社員だった。

 ごく普通の事務職で、普通のペースで係長になり、普通に同僚と酒を飲んだりしていた。

 彼女はいない。ゲームが好きで、休日はゲーム漬けだった。

 地震の日は、外回りで出ていて、何かの爆発に巻き込まれたようだ。


 俺を助けてくれたのは、女性の医師だった。

 年齢は50歳くらいで、母ちゃんみたいだった。


 この体は8歳。

 孤児だったようだ。

 親のない集団の元で育てられ、盗みや物乞いをして生活していた。


 この世界にはモンスターが生息し、剣と魔法と悪意と権力が共存しているようだ。

 貧富の差が激しく、当然のように弱者は切り捨てられる。

 その切り捨てられた弱者の一人であったこいつが、更に体を焼かれ一切の希望を失った。

 おそらく、それが魂の消失とかの引き金だったんだろう。


 だが、俺は死後の世界を知っている。

 何をやろうと、次の人生はガラガラポンで決まるのだから、せいぜいあがいてやろうじゃん。

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