第58話 違和感。−2
「てか、先輩はどうやってうちに入ったんですか?」
「それは〜へへー」
スカートのポケットから取り出したキーホルダーにはうちの鍵がついて、先輩はキーホルダーを指でぐるぐる回しながら俺に見せつけた。
「先輩…?それは俺の鍵!」
「ってことになってる!」
「なんで先輩がうちの鍵を持ってるんですか!」
「前に春木のうちに行ったでしょ?」
「はい。」
「もらっちゃった!」
「あげた覚えがありません!」
あの色を見たら多分サブ鍵だよな、そこらへんにポンポン置くからこうなったってことか…半分は俺にも責任が…
あるわけないだろう!
「返してください!」
「やーだ!」
言っても返してくれない先輩だったなー俺が甘かった…
「はいはい…あげますから…」
スカートのポケットに鍵を入れた先輩が堂々に言った。無理して触ったら声を出すかもしれないからこの先輩。
子供じゃあるまいし…
「本当、子供ですね!」
「そんな子供が好きになる春木〜」
学校に正門が見える時から先輩が腕を組んだ、雨のせいで時間がかかっちゃったけど登校中の生徒たちは多かった。先輩とくっついている姿を人に見られるのが心配で、学校に入ってから他人の視線をすごく怖がっていた。
「春木、他人の視線が怖い?」
「は、はい。ちょっと…」
「私の顔を見て、大丈夫。」
「はい…」
こっちもちょっとある意味で怖いけど…
「よしよし〜」
先輩に元気をつけられて、人たちの前で頭も撫でられた。ちらっと見た先輩の顔は完全に恋に落ちた少女の顔だった。
嬉しい。
「おい、見てあれ…」
「会長?と…隣の男は誰?」
「生徒会長?くっつきすぎ…」
「羨ましい…学校の一番美人と付き合ってるって!!!!」
「相手は一体誰なんだよ!!」
そして俺たちが学校内に足を踏んだら大勢の生徒たちが騒ぎ始めた。なんで他人の物事にそこまで盛り上がることができるのか不思議だ。周りの騒めきで雑念が多くなった俺の手を優しく握ってくれる先輩、それからただ15分で学校内の生徒たちに俺たちの関係が知らされた。
「じゃ春木、後でね。」
「はい、先輩。」
階段を上がる前、先輩が俺にこっそり耳打ちした。
「二人でいる時は春日って呼んでね。ため口でいいよ。」
「えっ…」
「うん?」
この顔を見るとさすがに断らない…
「はい。」
「じゃ一回言ってみて?」
「え?」
「言ってみて!」
「…」
学校内で…しかも2年上の先輩に…ため口…もしかして昨日のメールが先輩を煽ったのか。
「メールはいけるけど、私の前じゃだめ?」
「…後で行くから…春日。」
「うん?なんって?」
この意地悪先輩が…
「春日…」
「うん?」
「あ!春日、春日!」
「うん!」
「満足ですか…」
「うん〜じゃ教室に行くからね。」
階段から先輩の姿が見られない時まで見つめていた。先輩と別れた後、俺も自分の教室に入った。
「あ!!」
扉を開けるだけでクラスの全員が俺のことを見つめた。静寂な教室の中、誰も話はかけてくれなかったけど全員の視線が俺を向いていた。
息苦しい…
「…」
「よっ!春木!」
「は〜るき!!!」
視線を避けて外を眺めると康二と夕の声が聞こえた。
「お前!生徒会長と付き合ってんのか!」
「え…?」
「春木ー!本当か!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
興味津々の顔して二人が突っ込んでくる、なんの答えをすればいいのか…悩んでいるうちに二人の後ろからクラスの男子が集まって来た。
なんか怒ってる顔と悲しむ顔が見られて、どんな状況なのか…
「おい!なぜお前みたいなやつが!武藤先輩と…」
「俺が…俺が、先輩と…」
「なんでだ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「クソ、春木!」
え…なんで俺がそんな話を聞かないとダメなんだ。そして気づいたら俺のことを嫌がるクラスメイトたちにすごく睨まれていた。教室の片隅から俺の悪口をしているのが聞こえる、嫌だったら無視した方がマシじゃないかな…
「ね!加藤くん!髪切った?」
「最初からこうやったらいいじゃん〜」
今度は女子まで…
「なんか春木急にモテる人になった…」
「まさか、モテ期!?」
何を言ってる二人とも、今はそんな場合じゃない…
「…あの、あの一つずつ…」
「混乱してる春木可愛い〜」
「ねね、春木は会長と付き合ってるの?うん?」
「あ、うん。」
「格好よくなったね!」
「ねね!生徒会長のどこが好き?」
それから1限が終わっても疑問は終わらなく、クラスメイトたちが隣に集まって来た。一体、何が聞きたいのか年頃の考えはよくわからない。
はぁ…しつこい、人の話を全然聞いてくれないなこいつら。先輩に会いたい…この状況じゃ出られないな、クラスメイトに囲まれて審問される感じ。
この場で変な言い方をしたら無駄に敵が増えるだけだから、じっとして適当に答えた。
「加藤くん?」
「委員長?」
「外から生徒会長が待ってる。」
「うん?」
先輩が来てるって…
「ええええええええええええ?」
「武藤先輩!!!!!」
生徒会長の4文字でそんな反応ができるのか…
「ハルー!」
騒がしい教室でしっかり聞こえる先輩の声、囲まれた人の群れから抜け出して先輩の前に立つ。
「休憩時間だったら友達と遊んだ方がいいじゃないですか。」
「いいよ〜ハルに会いたいから。」
「はい…」
どっきとするところなんだけど、後ろに見る目が多くて逆にこっちが負担になる。教室の中をちらっと見た先輩が俺の手を繋いで教室から引き出した。
「えい〜!」
「あっ!」
「ハルー!私、ジュースが飲みたい!」
「はいはい〜行きます〜」
先輩の手が柔らかくて暖かい、他人にこの気持ちを聞かせたらどう思うか分からない、多分ありふれた話だと言われるだろう。
だとしても、こうやって一緒に過ごした時間の全てが心に刻まれたらいいと思っている、大切なものだから。
前で歩いている先輩の髪がサラサラ…綺麗だ。
——————教室。
二人が自販機に向いている時、春木のクラスに3人の男が訪ねた。3人の中から1人の男が教室の中に入って、学校の有名人を見たように女子たちがざわめいた。
彼は前髪を見せつけるように上げて、こう言った。
「このクラスに加藤春木ってやつはいるか。」
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