第45話 遊園地で遊ぶ。−5
やっちゃった…人を投げ出してしまった。でもこっちは話をしようとしたから…悪いのはあっちだろう。広場から起こった騒ぎで周りの人たちがすごく見てくれるし、人に囲まれるのは嫌だからこの場から離れようとした。
そして人波から抜け出て、理由が分からない感覚に襲われた。周りに人たちがたくさんいるところは…とにかく嫌な気がした。
「あ、武藤…!」
しまった、置いて来ちゃった…
振り向いて後ろから俺に追いついてくる武藤の姿が見えた。走って来た武藤が膝に手をついて息に整えている、そして気づいた時には持って行ったアイスとコーヒーもともに置いて来ちゃった。
「はあ…加藤さん…」
「ごめん…大丈夫?」
「はい。走りに慣れていませんので…」
「待ってて飲み物を買ってくるから。」
「はい…」
それからすぐ先の店に行って再注文してしまった。
「コーヒーとアイス、お願いします。」
「さっき…買った学生ですね…?アイスは今ちょうど切れてしまって…」
「え…はい。じゃコーヒー二つ…」
再び飲み物を持って武藤のところに戻る。
てか、武藤姉妹ってどんだけモテるんだ…普通にナンパされてる、ドラマかよ。
よく告られ、よくナンパされ、隣の人もその嫉むと嫉妬が感じられるんだよな。先輩もそうだったから武藤もそうなるのが普通だろう。
とりあえず武藤も美人だし。
「はい。アイスよりは飲み物の方がいいと思って。」
「ありがとうございます!加藤さん。」
武藤の隣に座って暑い日差しから体を冷やしていた。コーヒーを一口飲んで、ぼーっとして何も言わない武藤に話しかけた。
「武藤ってなんで毎日敬語?」
「私…、なんとなく…」
「同じクラスじゃないから分からないけど親しい友達にも敬語で話してる?」
「多分、そうですね。友達にもため口で話したことがないので…」
聞いただけなのに武藤はなにか悩んでいる顔をした。ぼーっとしてコーヒーを掴んで何か考えている様子だった。
「ごめん、変なことを聞いて。」
「いいえ、次はどこに行きましょうか!」
「ん…あ、そうだ。武藤、動物好き?」
「動物ですか?」
「この遊園地には動物園があるよ、来る前に調べた。」
「可愛い動物は好きです!早く行きましょう!」
「うん、分かった。」
次の目的地が決まって遊園地に入る時に取ったパンフレットを広げた。人差し指で今立ってる場所と動物園までの道をつなぐ。
「遠くない。」
隣でじっとしている武藤。
「武藤?」
「はい。」
「行こうか?」
「はい!」
「ってこれは?」
真面目な顔をしてさっそく腕を組む武藤。この人も普通にするんだな、先輩みたい…
あ、先輩みたいって何を言ってるんだ…俺。
「腕組みです。」
「さりげないね。うん、行こう。」
歩いて着いた動物園の入り口から即パンダが見えた。
「パンダ!」
「うん、パンダだ。」
パンダを眺めている武藤が指で俺の腰を刺した。
「パンダはあの怠けてる姿が可愛いですねー」
「確かにそうだね。」
「竹って美味しいでしょうか…」
「食べてみる?」
「え?ありますか?」
「生で。」
「からかわないでください!」
俺は少し笑っていた。
最近はこんなに心地よく話すことができるなんて…幸せだな。人生にはもう楽しめるものはいないと思っていた、何かに期待することもないと思っていた、そうして自分の気持ちを小さい心に押し込んでいる俺だった。
今でもこうして友達と過ごす時間がいいと思っている、武藤と腕を組んだことを先輩にバレたら殺されるかもしれないけど普通に人と何かをして…楽しんで…普通の意味はこれで合ってるかな。
一緒の価値。
それだけが欲しかった…と言いたい。でもまだ俺の心は足りないものを満たすために彷徨っている感じだ。
あと武藤と動物園を見回した。
首が長いキリンとか、ペンギンなど、俺が動画でしか見えなかった動物がいっぱいだった。実際にこんな動物を見るのが初めてだから可愛い動物から目を離すことができなかった。
最後には派手な翼が印象的なクジャクを見て、俺たちは小さい池に建てられた橋の上で休んでいた。
「動物はいいですよねー」
「うん、可愛いし争うこともないし…」
「争い?」
「いや、なんでもないー」
平和だ、動物は…
俺も穏やかな日々を過ごしていて何よりだ、それとなんとなく足が痛くなる頻度が減ってる感じがした。
外に出て人に出会って一つの夢が叶った気がする。先輩が俺を連れ出して康二と夕が遊びに誘ったから今の俺がいる、でもそれだけじゃないってことか…。
「楽しい…」
「はい?」
「普通にこうして何かするのが楽しい。」
「遊園地は初めてですか?」
「うん。俺、友達と遊んだ記憶はないから。康二とは長い付き合いだけどゲームを何回やっただけで実際一緒に出かけたことはない、俺は昔からずっと走りばっかりやって来たからこんなの初めてだ。」
「そうですか…」
「うん、だから俺は今がいいんだ。最初は気まずくて行かないと思ったけど、別に友達と遊んでるだけなのに一人で意識しすぎた。」
「…友達。」
話している途中、前で泳いでるコイが見えた。
「こいだ。」
「こい…ですね。」
「恵ちゃん!春木!」
橋の上で休んでいる時、木上の声が遠い場所から響いた。隣の康二と腕を組んで幸せそうな顔をしている木上だった。
二人は階段を下りて俺たちのところに来た。
「ねね、4人で写真を撮ろう!カップルの感じでー!」
「やろう!」
「はい!」
「え…でも夕たちは?」
「後で一緒に撮ればいいじゃん〜」
木上のカメラが俺たちを向いていた。
「はい!いっくよ〜!」
「もう、加藤さん!もっとくっつかないと写真に出ませんよ?」
俺の腕を引っ張っる武藤は笑顔でカメラのレンズを見た。
「よーし!はい、みんな笑顔でチーズ!」
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