第98話 side Osaka2 -電話-

「----え?バイト・・・ですか?」

佐藤からの電話に光は驚いて目を見開きながら、唯志と莉緒を交互に見つめた。


「えっと、今は唯志君の部屋で・・・。はい、唯志君も莉緒ちゃんもいます。はい。」

何やら受け答えをすると、光は二人の方に声をかけてきた。


「佐藤さんからなんだけど、なんか二人にも聞いて欲しいって。スピーカーにして良い?」


--


「バイトですか?」

最初の光と同じような反応を今度は唯志がしている。


「そう。光ちゃんと、出来れば唯志君に。」

佐藤は光にバイトの提案で電話をしてきたようだ。


バイトの内容は佐藤の仕事の手伝い。

戸籍が無くバイト探しにも困っている光に対して、佐藤なりの気遣いの様だ。

それ自体は光にはありがたい話だったのだが・・・


ーー

「え!?カップル役ですか!?しかも、唯志君と!?」

光が驚いて大声で答えた後、口を塞いで照れていた。


「そう。明日のターゲットの行動を掴んだは良いんだけど、あいにく俺も恵も明日は別件があってね・・・。しかも場所が・・・。」

場所はなんばのラブホ街だという。

しかも時間は昼間。

カップルでの尾行なら不自然じゃない。

逆に女性(光)一人では少し目立つだろうと言うことらしい。


「え、でも・・・その・・・。唯志君には莉緒ちゃんが・・・。」

「それはわかってるよ。ほんとは吉田君に頼もうと思って電話してみたんだけど・・・。」

拓哉は絶賛帰省中で大阪にはいない。

明日となると無理だろう。


佐藤の中では拓哉に尾行は向いてない気もしたし、なんばのラブホ街に詳しくなさそうな気もしていたので、帰省中なのは願ったりだったりするのだが。


「俺としては別に莉緒ちゃんが引き受けてくれてもいいんだけど、光ちゃんのバイト探しの助けになるかもと思って一応先に聞いてみただけさ。」

佐藤なりに気を使った結果の提案の様だ。


「唯志君もどうかな?以前にチャンスがあれば探偵の仕事やってみたいと言ってたけど・・・。」

唯志の方は自分から仕事の手伝いを申し入れ済みの様だった。

恐らく興味本位なんだろう。


「えっと、私としてはありがたいんですけど・・・さすがにその・・・カップル役ってのは・・・。」

光はそう言うと申し訳なさそうに莉緒と唯志を見た。


「そうなの?ひかりん、唯志が彼氏役じゃ不満?」

莉緒は意地悪な表情で光に聞き返した。

「え?」

「俺は別に構わないけど、ひかりんが嫌ならしゃーないな。」

唯志は唯志でやれやれといった感じで言っている。


「まってまって、別に不満とか嫌とかじゃないよ!?」

光は慌てて二人に訂正を入れた。

「ただその・・・、莉緒ちゃんを差し置いてカップル役でって悪いなと思って・・・。」

光は露骨にしょんぼりした感じで言っている。

最近の光は喜怒哀楽が態度にすぐ出るのでわかりやすい。

元々がこういう性格で現代に慣れてきて素が出る様になったんだろう。


「あ、なーんだ。そんなこと気にしてたの?別に気にすることないよ、ねぇ唯志?」

「だな。所詮仕事での役だし。」

二人とも全く気にしてない様子だった。


光はポカーンとしていたが、当人たちが全く気にしてないことを気にしすぎていたことに思わず苦笑してしまった。

「ふふふ。本当に二人は仲が良いよね。・・・ありがとう。」


何故かお礼を言われて褒められた二人は「なんで?」と戸惑っていたが、光は佐藤に引き受ける旨を伝えた。


「助かるよ。詳細は明日の午前中に話をする。十時くらいにうちの事務所まで来てくれ。場所は唯志君が知ってるから。」

そう言って挨拶を交わしたら電話は切れた。


「唯志君も莉緒ちゃんもありがとね。でも私カップルも探偵もやったことないけど大丈夫かな・・・。」

そう思って光は頭の中で想像してみた。

明日は仕事とはいえ、デートと言うことになるんだろうか。

デートでは、唯志とどんなことをしたらいいのか・・・。


「・・・!!」

どんな想像をしたのかはわからないが、光は顔を真っ赤にして悶えていた。


「まぁなんとかなるだろ。難しい仕事を頼んでくるはずないし。」

そう言いながら唯志はカレーを混ぜていた。

「そうそう。普通に遊んできたらいいんじゃない?」

そう言いながら莉緒はてきぱきと皿やスプーンなどを用意していた。

二人は普段からこういう感じなんだろう。

特に申し合わせた素振りも無く、着々と準備が進んでいる。


「あ、ごめん!私も手伝うよ!」

「んー、じゃあひかりんカレー混ぜて。弱火で煮てるときもたまにこうして混ぜないと焦げ付くから注意ね。」

「う、うん!」


----

「美味しい!」

準備をすませ、三人で食べ始めていた。

「今まで食べた中で一番おいしいカレーかも!」

光は目を輝かせて言っていた。


「大げさだって。でもちょっと手を加えたら違うだろ?」

「うん!なんか味に深み?わかんないけど、なんかおいしい!」

「ひかりんは感激屋だねー。私にはいつもの唯志のカレーと違いがわからないけど。」

莉緒は淡々と食べている。

「莉緒ちゃんは慣れてるせいで有難味がわかって無いんだよー。少なくともコンビニ弁当の百倍は美味しいよ?」

「コンビニ弁当と比べられてもなぁ」

三人は談笑しながら食事を楽しんだ。

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