第94話 除霊
屋敷の主に連れられて見せられた場所は、屋敷の中の一室だった。
拓哉の目には特に代わり映えの無い、普通の和室に見える。
「ここなんですが・・・。」
屋敷の主は怯えて中には入ろうとしない。
だが、御子はずかずかと中に入って行ったので拓哉もそれに続く。
「なるほど。・・・着物を着た女性・・・と、小さい子供かな?」
部屋に入ったとたん御子が言った。
「え?」
当然だが拓哉の目には何も映っていない。
余りにも何もない普通の部屋過ぎて、御子が適当なこと言ってるんじゃないかと思ったほどだ。
「はい・・・。やっぱり『いる』んですね・・・。」
だが家主がそう答える。
どうやら御子が言った通りのものを家主も目撃しているということだろう。
「西条さん・・・。ほんとにいるの?」
拓哉は家主に聞こえない様に小声で御子に質問した。
「せやな。いるかいないかで言えばいないけど、視えるで。」
御子の目には先ほど言っていたものが見えるらしい。
「まぁでも--」
そう言うと御子は家主の方に近づいた。
「すぐに祓いますので安心して下さい。今からお祓いを始めますがよろしいですか?」
御子がそう聞くと家主は喜んで承諾した。
「吉田、準備するから車に戻るで。ついてきー。」
そう言うと御子は来た方へ戻って行ったので拓哉も慌ててついて行った。
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車に戻ると御子は慌ただしく付き人達に指示を出していた。
指示を受けた付き人達は車から様々な小道具の様なものを取り出している。
拓哉はその様子をぽかーんとして眺めていた。
「なにアホ面しとんねん。ほら、あんたも荷物持って。」
御子はそう言うと拓哉にリュックの様なものを渡してきた。
(なんかガシャガシャ言ってるしやたら重いけど、何が入ってるんだ?)
などと考えていたら、御子が「お祓いの道具や」と教えてくれた。
なんか何も言わなくても会話が成り立つの楽に感じてきた。
「ほんとにお祓いするの?俺には何も見えなかったけど。」
「そりゃあんたに『霊感』が無いってことやな。まぁさっきのタイミングで『視えてた』んはうちぐらいやろけど。」
「じゃあこの屋敷には本当にオバケがいるってこと!?」
拓哉がそう言うと、御子は「はぁ」とため息を吐いてやれやれと言う動きをした。
「あんたには前に話したやろ。うちが視えるのは過去の映像やって。稀に過去の映像が見えやすくなってる場所があんねん。それが普通の人にも見えてまうから、心霊現象っぽく思てまうだけや。」
なるほど、と拓哉は思った。
以前に時妻村で説明された時はいまいちピンと来てなかったが、今日の現場を目撃したらなんとなく理解できた。
つまりあの場所は過去の映像が見えやすくなっていて、それが時折家主たちに見えると。
そしてその見えた映像が心霊現象だと騒がれるってことか。
「あれ?でも祓うって言ってたよね?オバケ居ないなら祓えなくない?」
「祓うってのは方便や。実際にはうちの一族が受け継いできたテクで、映像を見えづらくするってところやな。」
そう言った御子は、巫女服に大幣(おおぬさ)や御札などを持ち如何にもな恰好をして屋敷へと戻っていく。
「はよ来い。」と急かされ、拓哉もそそくさとついて行った。
何やら付き人の人たちも庭やら屋敷やらをうろうろしながら作業している。
そんな中御子と拓哉は例の部屋へと戻ってきた。
「ではお祓いに取り掛かりますので。部屋には入らない様に。あと、念の為ご家族の方皆さんこの御神酒を一口飲んでください。」
御子はそう言うと部屋のふすまを閉めた。
「御神酒なんて効果あるの?」
「気持ちの問題や。あった方がぽいやろ?」
(確かに。)
「吉田、うちにその荷物ちょーだい。」
「え、はい。」
御子は拓哉に持たせていたリュックから何やら色んな機械を取り出した。
「え、何それ・・・?」
「まぁ色んな『お祓いグッズ』。効果ある方の。」
拓哉でもわかった。
心霊とは無関係な機械たちだと。
「まぁあんたはそこで見とき。」
そう言うと御子は装置でなにやらガチャガチャやりだした。
途中、付き人の人とも連絡を取りつつしばらくの間何かごそごそとやっていた。
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「おー、消えたわ。これで大丈夫やろ。」
何やら御子が終わった様なことを言っている。
何か変な機械でごそごそやってただけに見えたが・・・。
「終わったの?」
「せやな。うちには視えてるからな。消えたんも丸見えやで。」
(何もわからなかった・・・。)
「さて、と。」
そう言うと御子は部屋に御札を貼り、大幣を構えると急に大きな声でお経の様なものを唱え始めた。
(えぇ~?何事!?)
と考えていると、御子に無言で「黙ってろ」と言った感じで睨まれたので黙っていた。
やることが無いので拓哉は少し物思いにふけっていた。
そしてふと思った。
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そう言えば、この心霊現象って結局『過去の映像』なんだよな?
つまりこの映像自体は過去から未来に来てるってことで・・・
あ、もしかしてこれって何かのヒントにならないか!?
でも、だからどうしたらってのは全然わからないけど・・・
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拓哉は思いついたものの、結局考えは纏まらず、もやもやしたまま考えることを諦めた。
しばらくすると謎のお経と謎の動作が終わり、御子はふぅと一息ついた。
「一応言っておくけど、この方がぽいからやってるだけやで?」
拓哉が聞きたいことは先に答えられてしまった。
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その後は早かった。
家主たちには涙ながらに感謝されていた。
念の為とか言って御札や清酒、塩などを渡していたけど多分あれも雰囲気なんだろうなとなんとなく理解した。
今思えば、思わぬ形でとんでもない経験をしてしまった気がする。
岡村君などが聞いたら悔しがるんじゃないか?
そんなことを考えていると御子が話しかけてきた。
「悪そうな顔してるところすまんけど、帰り送ったるから少し話でもしよか。」
(誰が悪そうな顔だよ!)
拓哉は声には出さなかったが、多分言いたいことは伝わっただろうと思った。
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