第30話 拓哉からの電話1

時刻は18時前ごろ。

光と莉緒は色々と話しながら現代と未来の違いを教えあったり、たまにタイムスリップに関することを調べたり、今後どうやって調査を進めるか相談したり、優雅にランチを楽しんだりして過ごしていた。

二人はなんだかんだ気が合うようで、あっという間に時間が過ぎていった。


ガチャッと玄関の方で音がした。

ドアが開いた音の様だった。

「お?唯志帰ってきた?あ、もう6時前じゃん!」

莉緒も光も、夢中になりすぎていて結構な時間が経過していたことに気づいていなかった。


「あれ?ひかりんまだいるのー?」

玄関の方から唯志の声がする。

「おかえりー。まだいるよー。」

「お邪魔してまーす」

莉緒と光がそれぞれ唯志に挨拶した。

唯志も拓哉同様、仕事の際はスーツを着ている様だった。

「ひかりんもいるんだったら言ってくれたら良かったのに。今日簡単なものしかないぞ。」

と唯志が言っていた。

莉緒は「良いよ、適当でー」とか言っていたが、恐らく夕飯の話だろう。

どうやらこのカップルは唯志の方が夕飯を作る様だ。少なくとも今日は。

「あ、おかまいなく!いつの間にかこんな時間なんですね。そろそろタク君の方に帰らなきゃですし。」

と光は言った。

だが唯志に

「どうせなら飯食って行ったら?吉田ってその辺適当だろ。今日もコンビニかもしれんぞ。」

と言われ、なんとなく納得してしまった。

いや、居候の身であまり贅沢は言えないけど。


「なんかすぐ作れるもの作るよ。つっても作るの俺だから期待すんなよ。」

そう言って唯志は部屋着に着替えるや、すぐにキッチンで調理を始めた。

料理ってのはそう難しいものではない。

極端な事を言えばレシピ通りに作れば誰でも出来る。

だが、準備から調理、後の片付けと物凄く手間だ。

そう、手間なだけなのだ。

なのに女性がするのは当然の様に思われ、男性がすると多少凄いと思われる。

中々不公平なものだと思う。


「とりあえず吉田にyarnで連絡入れときなよ。見れる時に見るだろ。」

唯志にそう促され、光は夕食をだべて帰る旨拓哉にメッセージを送った。


で、唯志の作ったものはというと・・・

「わぁ!オムライスだー」

と光の歓声があがった。

「悪い、材料が無くてね。こんなもんしか作れんかった。」

「でも、こんなのすぐ出来ちゃうなんて男の人なのに凄いです!」

どうやら未来でも家事・・・少なくとも料理は女の仕事という風潮の様だ。

「オムライスくらい誰だって出来るでしょ。冷める前に食べて。」

「唯志のオムライス美味しいからね。なんか大雑把な作りだけど」

「美味ければなんでも良いだろ。」

そうやって談笑しながら食卓を囲んだ。


「監視カメラの映像から何を調べてたんですか?」

食事もひと段落したところで光が唯志に質問した。

「とりあえず、状況確認。自分で見てみないことには何もわからないから。」

「なるほど・・・。何かわかりましたか?」

「いや、全然。ただ、映像だけ見てると確かにひかりんが突然現れた感じだな。」

「そうなんですね!私も見たいかも!」

光にそう言われ、唯志はカメラ映像を再生した。

先日佐藤が見ていたのと同じカメラ映像だった。

唯志は再生時間を操作し、ちょうど発光が起こる、光が出現する直前から再生した。

光と莉緒は食い入るように画面を見つめていた。

「あ、これタク君だ。」

光が拓哉を見つけて喜んでいる。ウォー○ーを探せでもしてる感覚だろうか。


「うわっ。真っ白!」

例の発光に思わず莉緒が声を上げた。

「すごいよな。こんなの見たことないわ。で、映像が戻ったら・・・ほら」

「あ、これ私だ。」

発光が終わり、画面が見えるようになるとそこには光が映っていた。

「じっくり見てないと気づかないけどな。冷静に考えてみると、ひかりんがこの場所にいるのは不自然だ。突然出てきたとしか思えない。」

「言われないとわからないね、これ。少なくとも私は違和感を感じなかったし。」

莉緒は感心していた。


「これで見る限りじゃ、ひかりんの落とし物ってやつは見当たらないな。」

「確かに、映ってないですね。」

「同時刻の付近の映像も取れるだけ取ったけど・・・まぁ光るだけだな。」

どうやら唯志は他にも映像を入手してチェックしたようだ。

特に何も言わないってことは恐らく何もなかったんだろうと光は思った。

「他に変わったことは何もないんですか?」

映像を見ながら光が唯志に質問した。

「そうだなぁ。あ、そろそろ・・・あ、ほら男が走っていくだろ。何があるわけでもないけどそれくらいかな。」

画面を見ると男が拓哉と光の横を走り去っていった。

確かに街中ではあまり見かけない速度で走っている。何かを追っている様な走り方だ。

気にはなるものの、今回の件と関係あるとは思いづらい。

この時走っていたのは佐藤なのだが、それを知る由は光にも唯志にもなかった。


「で、この後しばらくして・・・ほらひかりんが戻ってくる。」

唯志はシークバーを操作して光が戻ってくるところまで進めた。

唯志はこの時間帯の映像を一通りチェックしているので、『この前に拓哉が挙動不審で現れている』ことも知っていた。

だが、不審な動きをしている意味はなんとなく分かったし、見せたら光にキモがられそうだと判断してあえて飛ばした。

唯志なりの拓哉への気遣いであった。

「あー、この時何も出来なくてとりあえず戻ってきたんでした。」

「んで、吉田が来るっと。そんなところだな。この後喫茶店入って、吉田の家に移動するだろ?その他で特に何もなかったぞ。」

「手がかり無しですね・・・」

ひょっとしたら何か映っているかもと思っていた光は少し落胆した。


その時、光のスマホが鳴った。

「あれ?タク君から通話だ。なんだろ?」

相手は拓哉の様だ。光はすぐに出た。

「タク君、どうしたの?今?まだ唯志君の所。え?どういうこと!?」

光が驚きの表情を浮かべていた。


何やら少し不穏な感じがする。唯志も莉緒もそう思った。

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